第26話 高難度依頼 薬草採取 3
時は少し遡り唯人視点
ようやく目的の薬草を見つけた唯人であったがそこはドラゴンの縄張りだったようだ。
その上薬草の数も少なくここから確認できる範囲ではきっちり10本しかないため、うっかり踏み潰されでもしたらたまったものではない。
(さて、このドラゴンは智ある者かはたまたただのトカゲか…)
智あるものならば先だって考えていたように異世界にわたる方法に関する知識などを得られるかもしれない。そんな事を考える唯人に対しドラゴンは咆哮という形で敵意を向けてくる。
(まずは言葉が通じるか…)
平和的に物事を進めるため唯人は敵意がないことを示すべくドラゴンへと語りかける。
「僕はあなたに害をなすつもりはありません」
何も持たない手を広げドラゴンへと向けながらそう告げるがドラゴンに意図が伝わった様子はない。
(やはりただのトカゲか。その上手負いの獣…いや、見たところかなり弱っているようだし、余裕がないだけか?)
そんな考察をする唯人に対しドラゴンは攻撃を加え始める。
その弱っているとは思えないほどの勢いで振り回される尾や腕の余波で薬草は千切れそうなほどになびいている。
(うおっ!せっかく見つけたのに踏み潰されでもしたら堪らないな。仕方ない、先に薬草を集めるか)
そう決めた唯人に振り回された尾先が迫る。
尾の軌道は唯人に当たるぎりぎりであるが、そこが最も威力の出る部分である。
その真に空を切り裂くように迫る尾を仰け反る様にして紙一重で回避する。
それもスウェイのように体をそこに残す事を考えずに全身を投げ出すように後方へ仰け反る。
そこから両手を付き、勢いのまま体を回転させる。
所謂バク転である。
そして体勢を戻した唯人の両の手にはそれぞれ一本ずつ薬草が収まっていた。
(まずは2本)
手に収まった薬草にちらりとやった視線の端に尾を回転するように振るった勢いのままに体も回転させ腕を振るうドラゴンの姿が映る。
唯人を捕らえるかのように振るわれた腕であるが、体格の差、と言うよりは高低差があるため腕の内側に隙間がある。
そこへ飛び込むように前進する唯人。
後一歩進めば立ったままでも十分回避できるほどの距離。だが唯人はそこで体を一気に沈みこませる。
なぜか。
もちろんそこに薬草があったからである。
ちょうど腕立て伏せをするような体勢で地に伏せ回避と共に薬草を回収し、素早く立ち上がると薬草がまだ残っているほうへと体を躍らせる。
こうして唯人は次々と薬草を回収していく。
時に受身を取りつつ、時にはスライディングで滑りながら、更には地面を薬草ごと蹴り上げ空中で等々。
そして今唯人の手には8本の薬草が握られている。
さらに残る2本の内1本は唯人の足元、もう1本はドラゴンを挟んで反対側にある。
次にドラゴンが攻撃を繰り出したとき足元の1本を回収、そして反対側へと移動しもう1本を回収、そう唯人が計画した刹那、ドラゴンの様子が変わる。
正確には繰り出す攻撃の性質が変化したと言うべきか。
今までの広範囲をカバーするような攻撃を捨て、叩きつけるような攻撃を繰り出したのだ。
(おや?)
唯人はその行為に感じるものがあった。
ドラゴンの攻撃が変化した事は別におかしい事ではない。今までの攻撃が通用しなかったのだから他の方法に切り替える。それは至極理にかなっている。
だが唯人が注目したのはそこではない。
そのドラゴンはまるで苛立ったように腕を振るい始めたのだ。
(知性、いや、少なくとも感情はある、か)
ドラゴンのその様子からただのトカゲではない可能性を感じ様子を見ることにした唯人。
だが既に振るい始めてしまった腕を避けることはできない。
なぜなら唯人の足元には薬草があるからである。
このまま回避すればこの薬草は見るも無残に引き裂かれるか押しつぶされて使い物にならなくなるであろう。
ならば受け止めるのが最も確実に薬草を守る方法だ。
両手には薬草が収まっているため腕をクロスするようにしてドラゴンの腕を受け止める。
唯人の体を衝撃が駆け抜けていくが唯人は膝をつくことすらしない。
だが唯人が避けずに受け止めた事に気を良くしたのかドラゴンは幾度も叩き付ける様に腕を振るう。
人間がドラゴンの攻撃を受け止めるというその光景はあまりに異常であるはずだが唯人は涼しい顔をしたまま淡々とドラゴンの重撃を受け止め続ける。
そんな中考えているのは目の前のドラゴンの事である。
(さて、このまま足元の薬草を採って一気に反対側まで抜けて最後の1つを回収してもいいが…)
依頼を達成する、ということだけ考えるのならばさっさと薬草を回収してギルドに戻れば良いのだが、唯人には少し引っかかっていることがあった。
(弱っている割にはそこそこの強さを持っている。見ただけだから何とも言えないがさっきの『ワイルド・ストーム』ならば今の状態で討伐できるかどうか、といったところでこのドラゴンが万全の常態だったとしたら歯が立たないだろう。だがここは街にも近い初心者御用達の森のはず。いくら奥地に入っていったからといってこんなドラゴンがいるだろうか?)
RPGなどで最初のダンジョンや街の付近の森に強力なモンスターはほとんどいない。
これはゲーム進行上の都合であるが現実においても街の近くに強力なモンスターはいない事が多い。
それは街の近くにそんな物がいれば人間側が駆逐するかされるかするからである。
にもかかわらずこの世界では王都から最も近い森にこんなドラゴンがいることに唯人は違和感を覚えたのだ。
(話が通じるかどうかはわからないが一端落ち着いてもらいたいな。といってもあの傷では不用意に攻撃すれば命を奪う事になりかねないし…。しばらく待つとするか)
唯人がそう結論を出すまでの間にもドラゴンの攻撃は続き唯人はそれを考え事をしながら受け止め続けていた。
唯人が結論を出し意識を目の前のドラゴンに戻したところでドラゴンの様子に変化が現れる。
攻撃をやめ、何か得体の知れないものに恐怖するかのように後ずさりを始めたのだ。
(アレは…怯え、か?これはただのトカゲの線は薄そうだな)
その様子に唯人は満足げな表情を浮かべる。
それを見て、かどうかはわからないが後ずさりして距離をとったドラゴンが飛び上がる。
傷つき敗れた羽をはためかせながら飛ぶ姿は痛々しいの一言であり、羽ばたくたびに飛び散る血液が降り注ぐ。
だがそうまでして羽ばたきながらもドラゴンは唯人を屠る為に力を振り絞る。
(まずいな…)
その姿を見て唯人は心の中でつぶやく。
ドラゴンは唯人に対しブレスを放つつもりだと察する。
ドラゴンがブレスを吐けばそのこの森程度の広さならば焦土と化し生けるもの全てが死に絶えるといっても過言ではなく、このドラゴンが弱っているとはいえこの見える範囲一帯を焼き尽くすだろうことは想像に難くない。
だが、唯人がまずいと思ったのは自身への危険に対してではない。
(あんな状態でブレスを放ったら力尽きてしまうんじゃないか?)
と、この期に及んでドラゴンの心配、というには語弊があるか。正しく言うなれば情報源の喪失に対する危機を案じたのである。
(仕方ない。とりあえずブレスを何とかした後考える事にするか)
そんな事を唯人が考えている間にもドラゴンのブレスへの魔力収束は続いていた。
しかし予想したとおり傷ついた体では本来の威力は出せないようで込められる魔力量の上昇はほぼ横ばいとなりそれ以上の威力の向上を見込めないと察したのかそろそろ放つ体勢に入りそうだ。
見たところせいぜいこの開けた広場を焼き尽くす程度の威力しかなさそうではある。
(とはいえ薬草を燃やされでもしたら…)
このまま唯人が何もせずにいたら少なくともこの場にある薬草は全滅する事は間違いない。
そうなれば再び当てもなく森を彷徨う事になってしまう。
「ちょっとそれは困るなぁ」
本当に少し困ったように、正確に言えば面倒そうに零す唯人。
どうやら唯人はブレスを防ぐ事に決めたようだ。
では、どのようにしてそれを防ぐか。
唯人は悩む。
それは難しさではない。
あまりにも選択肢が多すぎるからである。
(さて、どうするか。せっかくだしこの世界の魔法を試してみるか?…いや、まだオルトリーゼと――『で』というのが正確であるが――少し試しただけだし、うっかり防ぎ損なって薬草をだめにする可能性もあるし下手に弾き返してドラゴンを殺してしまう可能性もある。使えるかどうかわからない他の世界の魔法も同じ理由で却下。となれば物理的に防ぐか『アレ』になるわけだが…、ブレスも魔法の一種である以上『アレ』の方が確実か…)
方針を決めた唯人は滞空するドラゴンへ向け手をかざす。
その手から陽炎のように立ち上る淡い光。
その光は徐々に集まり水蒸気が集まり水滴となるかのように不定形に形をゆがめながら少しずつ大きくなっていく。
なるほど、唯人は水の魔法による防御を選んだのだろうか?
――否
液体のようだったそれは凹面鏡のような形状に整形されまるで氷のように変化している。
では、氷の魔法での防御か?
――これも否
そもそもこれは『魔法』ですらない。
ではこれはいったい何なのか?
――答えは『魔力そのもの』、である。
魔力と魔法とでは何が違うのか、わかりやすく言えば『食材』と『料理』の違いのような物で、食材のままでは食べる事ができず、料理となって初めて食べられるといった所だ。
正確には魔力はそのままでは大した力はなく通常目にも見えない。目に見えるということは相当量の魔力であることの証であり唯人が最初に出していた陽炎状の状態にすることすら常軌を逸しているといえる。
それに加え唯人は液体状、さらには結晶状へと変化させた。
こちらは例えるなら気体を液体にすることに近い。
気体が液体になるとき体積が1000分の1近くになる物もあるように魔力も陽炎状から液体状にするのにも同様に多量の魔力を込める必要がある。
そして液体が個体となるときは体積にあまり変化がないのと違い魔力の場合は液体状から結晶状になる場合にも更に魔力を込める必要がある。
このように唯人が行っている魔力の結晶化というべき所業はあまりにも膨大な魔力が必要な行為であり、普通の人はもとより高位の魔法使いでもほぼ不可能な行為である。
ちなみに唯人の見立てでは目の前のドラゴンのブレスのために収束された魔力はのどの奥で陽炎状に変化する程度と予想している。
ではその程度――といっても十分に強大な威力なのだが――に対し魔力を固体化するまで収束する理由とは何か。
先の例えで言うならば魔力のままよりも加工、調理し料理となったほうがより美味しい、ということである。
つまり魔力が魔法へと変換されると威力や効果が跳ね上がるのだ。
魔力がイメージにより一つの方向性を持って収束する事で、唯人が魔力量に任せて行っている魔力の結晶化をスムーズに行うのだ。こちらは結晶化というより具現化と言った方がいいかもしれない。
しかし、唯人はこのイメージが苦手なため魔法を使ってもうまく具現化できずイメージ同様威力も散漫となってしまうのである――それでも十分な威力はあるのだが――。
そこで唯人が考えた結論は
最大MPを上げて魔力で殴る
である。
これは非常に非効率的な力の使い方であり、例えるなら『石油で水車を回す』、『ダイナマイトで殴りつける』といったレベルの非効率さといえる。
だが、唯人はこれが自分にあったスタイルと感じ、毎日のように訓練を重ねていった。
もともと魔力が少ない世界で生きてきた事も手伝ってか、唯人の体は魔力を非常に多く溜め込む事ができる資質があったことは確かだ。だがそれを活かせたのは日々の努力の賜物である。
話がそれたが消費する魔力の量はドラゴン側のほうが圧倒的に少ないのだがその非効率な力の使い方故により多くの魔力を消費して防御する必要があるのだ。
とは言っても今回の場合は結晶化する必要まではなく唯人が余裕を持って多めに魔力を注いだだけなのだが。
そうこうしている内にいよいよドラゴンがブレスを吐く。
その口から放たれた荒れ狂う炎は一見薄氷のように見える魔力の障壁を容易に溶かしつくし唯人を飲み込むかと思える。
しかし、唯人の作り出した障壁は尋常ではないほどの魔力が込められている。
密度大きい物と小さい物がぶつかり合った時、弾かれるのは当然密度の小さいほうであるのが道理。
障壁は炎に触れたところでわずかばかりの揺らぎもなく、それどころか唯人の元に熱気すら届かせない。
イメージの力で増幅されたとはいえ唯人の非常識な魔力量で練り上げられた障壁に炎は弾かれ、撥水素材の上を滑る水滴のように受け流されると凹状に湾曲した障壁の表面を駆け抜け上空へと消えていった。
「ふぅ。…おや?」
時間にして僅か数秒の攻防の果て、無事に薬草の防衛に成功し満足したところで上空のドラゴンへと目をやると、やはりと言うべきか力を使い果たし体勢を崩し始めていた。
その様子を足元の薬草を採取しつつ眺めていた唯人だったが、ドラゴンがついに力を失い落下し始めると面倒そうに再び手をかざす。
ドラゴンのいる高さ、そして傷ついた様子からこのまま落下すれば即死とは行かないまでも致命的なダメージを受けるのは必至。そして何よりその落下地点には最後の薬草。となればドラゴンの落下を食い止めなければこの数分間が水泡に帰すというものだ。
唯人は先程と同じように魔力を放出すると今度は透明なクッションのように変化させドラゴンをそっと受け止めると落下地点をずらしつつ静かに地面へと下ろす。
幸いドラゴンはまだ息があるようで痛々しい傷だらけの体が静かに上下している。
「とりあえずこっちを先に片付けますか」
手に収まった九本の薬草をもてあそびながら丁度ドラゴンの頭の横にある残った薬草の下へと歩み寄る。
唯人が近づいた事でドラゴンが目を覚ましたようだが気にせず薬草を採取しにかかる。
「これで最後だ」
そうつぶやきつつ最後の薬草を手にし、晴れて十本の薬草をそろえた唯人は続けてつぶやく。
「やれやれ、これで依頼達成だな」
そして薬草が見つからないというアクシデントはあったものの無事依頼を達成した――正確には納品するまでが依頼であるが――唯人は今回依頼を受けた事で望外に得られたもう一つの『報酬』へと目を向けるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
正直この話の表現の仕方はいまいちだとは思いますが、結構時間かけてこれです。
いい加減話が止まったままになるのが嫌だったのでとりあえずこれで投稿させていただきます。
もっとうまく書けるように努力せねば…。




