第25話 高難度依頼 薬草採取 2
~?~
何かがおかしい。
それを最初に感じたのはどのあたりだっただろうか。
この冒険者は我が咆哮と言う形で敵意を向けると「僕はあなたに害をなすつもりはありません」などと言い、何ももっていない両の手をこちらに向け自身には敵意のないことをアピールした。
だが、そんな事を言ったり見せたりしたところで誰が信じると言うのか。
人間にとって我のような若い龍族でも倒せば力を示すことができ、忌々しい話ではあるが我らは素材としても高値で取引され捨てる場所などないほどの価値がある。
そんな存在が弱って今にも力尽きそうな様相でいるのに欲深い人間が放っておくはずがない。
もし万が一本当に敵意がないのであれば逃げ出せばよいのだがそんなそぶりは微塵も見せなかった。そもそも我の存在を他の人間に知られるわけには行かない故、もとより逃がすつもりはなかったのだが。
故に我はこの冒険者の声など聞かずに牙を、爪を、尾を振るった。
最初こそ何かわめいていた物の、諦めたのか冒険者は我の攻撃を回避する事に専念し始めた。
我のなぎ払うような攻撃に対し冒険者は地に伏せ、後方へ仰け反る様に回転し、時に無様に転がるようにして回避していった。
空を切るばかりの我が身に苛立った我は無謀にも腕を叩き付けるように振るってしまう。
今まで振るってきたなぎ払うような攻撃は広範囲をカバーし回避しにくい。
実際この冒険者も大げさな動きで回避をしなくてはならず当たらずとも体力を削る事はできていたはずである。
だが苛立ち冷静さを失った我は腕を冒険者に向かい叩きつけた。
今思っても無様な姿である。
思い通りに事が進まない事に癇癪を起こした幼子のようだ。
叩きつけるような縦の攻撃ではいかに我の手が大きくとも、横に一歩動けば回避されてしまう。
これではこの冒険者の体力を削るどころかこちらの体力を無駄に消費するだけだ。
攻撃を繰り出している最中に我に返った我だがもはや攻撃を止める事はかなわずそのまま奴のいない地面に爪を突き立てる。
そう思った我の手に意外な感触が伝わる。
地面を抉り取ると思われた我の手は冒険者を捉えていた。
とはいえ冒険者はしっかりと我の手を受け止め外見的に大きな傷を負った様子はない。
だが我は初めてこの冒険者に攻撃を当てた事を重視した。
今まで回避に専念してきた冒険者が何故受け止めたのか。
その理由を探るべく再び叩きつけるように腕を振るう。
すると冒険者は再び我の手を受け止めた。
世の中には横の動きには敏感だが縦の動きには反応し辛い生物もいる。人間にそういった特性があるとは聞いたことがないがこの冒険者はそういった特性があるのか、もしくは単に体力が尽きたのか。
いずれにしろ攻撃が当たりだしたことは事実。
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それが我の目を曇らせた。
それから我は何度も冒険者に向かい叩きつけるように腕や尾、足を振るった。
冒険者はやはり回避せず受け止め続ける。
最初は当たりだした攻撃に気を良くしていたが三度、四度と受け止められるたびに疑問が脳裏に渦巻き始める。
――我の攻撃は本当に通用しているのか――
と。
だがこのときはまだ本当の異常に気付いていなかった。
いや、気付いていないと言うには遅すぎるほどの異常。
そこから更に攻撃を繰り出しても淡々と受け止め続ける冒険者が相変わらず無傷である事でようやく気付く。
そもそも人間が――いくら弱っているとはいえ――龍族の攻撃を受け止めることなどできるのだろうか?と言う事に。
身につけている装備が強力であればまだ可能性はあっただろう。だがあったとしてもそれは一、二回程度の話でそう何度も耐えられるはずはない。
しかもこの冒険者の身に着けている装備は『ないよりまし』程度の粗末な物であり冒険者自身の肉体も頑強には見えない。
そんな人間に我の攻撃を受け止められるのか。
そんな疑問に気付くと心が一気に冷え込み始める。
すると高揚して忘れていた疲労や傷の痛みが蘇り自らが危険な状態であることを思い出す。
疲労と痛みと疑念はこの冒険者に対する恐怖となり我に冷静な判断力を失わせた。
我は後ずさりするように距離をとると、裂かれ痛む翼と足に力を込め上空へと飛び上がる。
裂かれた翼では飛び続ける事はできず徐々に降下していく。
明らかな悪手であると気付くが我は気にせず切り札を切る。
――ブレス――
モンスターのみならず時に人も使用するこの技ではあるが龍族のそれはまさに天災と呼ぶべき他種族とは一線を隔す威力を持った技である。
『息を吐く』という日常無意識に行っている行為のため、イメージのしやすさが秀で威力の高いこの技であるが、まさに息を吐くように魔力を消費すると言う欠点もある。
だが龍族はその内に秘めた膨大な魔力をもって幾度もブレスを放つ事ができる。
時に山を焼き払い、国を滅ぼし、海を干上がらせ大地を創ったとさえ言われる龍族の最も得意とする炎のブレス。
我はこの冒険者を正に切り札と言うべきそれを切るに値する存在と認識し、魔力を口腔へと収束する。
だが幾度も空を切った攻撃に加え、当たった事で調子に乗り繰り出し続けた攻撃により失われた体力は我に残された体力に対しあまりにも多すぎた。
本来ならば無尽蔵と言えるほどに放つ事のできるこのブレスも撃てるのはこの一回が限度。しかもその後我は力を失い地へと落下し立ち上がることもできないであろう。
・・・それも良い。
無様に人間などにこの身を刻まれるくらいならばいっそこの森を焼き払い我の墓標としよう。
――人間などにこの鱗一枚くれてやるものか――
そのほとんど意地ともいえる気持ちに反し魔力の収束は遅い。
それどころかある時点からそれ以上に魔力が溜まらなくなってしまっていた。
これが今の我の限界。
なんとも情けないことではあるがこの冒険者と我が1年を過ごしたこの場所を焼き払うには相応の威力であろう。
ブレスへの魔力収束を止め発射体勢へと移る。
飛び上がった我に対し打つ手のない冒険者は我のその様子を見ると小さく呟く。
「ちょっとそれは困るなぁ」
その表情、様子に微塵もあせりや恐怖といった要素はない。
それどころか本当に『ちょっと』だけ困っているように見える。
冒険者はけだるそうに片手を我に向ける。
その様子から何らかの魔法による防御を試みるのだろうとわかる。
実際この冒険者と我の間に霧のようなものが発生、次いで液体のように変化する。
我が放つのが炎のブレスと判断し水属性の魔法で防御しようと言うのだろう。
――愚か――
火は水で消える。
それは常識のようでいてそうではない。
火の側の威力が大きければ水は蒸発するだけのこと。
さらに原理はわからぬが我らが放つ強力な炎と水が接触した瞬間猛烈な爆風と熱をもって防御しようとした敵ごと吹き飛ばすといった事も起きると言う。
弱った我ではそこまで行かずとも水の防御膜などかき消し奴を焼き払うであろう。
そんな事を考えているうちに冒険者の液体のような防御膜は氷のような結晶へと変化していく。
再び我は心の中でひとりごちる。
―――愚か―――
と。
こんな冷気を微塵も感じさせぬ氷で我のブレスに対しようなど愚かを通り越して無礼とすら思える。
我を混乱させた動き等は見事ではあったが所詮駆け出しの冒険者であったと言う事か。
僅かに落胆を感じつつもせん無きことと諦め、恐らく自身の最期となるであろうブレスを放つ。
我の魔力と空気を飲み込み肥大化した炎が荒れ狂い、冒険者と森を飲み込むべく殺到する。
その姿は皮肉にも苦痛と屈辱にのたうつ我を体現したようにも見える。
そんな感傷に浸る暇もなく炎は冒険者の展開した氷状の防御膜へ到達。一息に溶かしつくすと思われたその時。
炎は僅かに湾曲した氷面を滑るように弾かれ、我の身を掠めるようにし空へと消えていった。
正に一瞬の出来事であった。
我のブレスは拮抗する様子すら見せずに見事に弾き返されたのである。
その光景に呆然とする…のであろう。普段ならば。
今の我にはそれすら許されず何がおきたのかわからぬまま地面へと落下していき、その最中で我は意識を手放した。
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次に意識が戻ったとき、体には大地の感触。
そして目の前には、かの冒険者。
冒険者は、
「これで最後だ」
そう呟くと我へと手を伸ばした。
恐らく止めを刺すのであろう。
人間などにこの身を刻まれるのは気に入らない。
だが、我を打ち倒したこのものに対する敬意も確かに存在する。
しかも我が未熟で自滅したようなものとはいえこの冒険者は我に攻撃することなく打ち倒したのだ。
ならばそんな者にこの身を捧げるのも悪くはない。
傷つき未来を儚んだ諦観から出た考えであるのは確かだが悪くないのは事実である。
そんな事を思いながらゆっくりと目を閉じる。
最期にこの身を捧げるこの冒険者の名を知りたいとも思ったが、今から何かを語るのも無粋というもの。
『彼』がこの身をどのように使うのかは知らぬが願わくば『彼』の身に生涯寄り添うような物に成れればと願いながら最期の時を待つ。
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が、その時は訪れない。
そして耳に届く『ブチッ』という何かが千切れるような音。
続いて、
「やれやれ、これで依頼達成だな」
という『彼』の声。
恐る恐る開いた我の目に映ったのは、十本の薬草を手に持ち何かを成し遂げた男の表情を浮かべる『彼』の姿であった。
あけましておめでとうございます。
本年もよろしければ拙作をご覧いただければ幸いです。
昨年末までに投稿したかったのですが無理でした(汗
本日は今年に入って初の休日ということで一気に書き足しと推敲を行い投稿しました。
この勢いのままにペースを落とさず投稿できればと思いますので、なにとぞよろしくお願い申し上げます。




