第24話 高難度依頼 薬草採取 1
ギルドを出た唯人は依頼の準備をするため街へと繰り出す。
まずはギルドに併設されている商店へと出向く。
今回の依頼に最も必要なものを購入するためである。
それは『薬草』。
薬草の採取依頼のために薬草を買うと言うのも変な話であるが、これを買うのは納品のためでも唯人が使うためでもない。
この世界の薬草がどんな物か知るためである。
依頼書には簡単な絵が描いてあるものの、写真などと比較すれば当然精度が落ちる。そしてそれをあてにしていると似ている別の植物を取ってきてしまう、と言う事もありえるため現物を見ておく必要があると判断したのだ。
実際に、写真の普及している現代日本でも山菜と間違えて毒草を、食用のキノコと間違えて毒キノコを採ってきてしまいそれを食べて…、という事件は後を絶たない。
と言うわけで薬草を購入した唯人は次に武具屋へとむかう。
そこで新米冒険者として標準な装備であるレザーアーマーとショートソードを購入。
これらは使用を考えた物ではなくただの『衣装』である。
別に必要ないからといって着の身着のままで街の外へ出れば非常に浮いてしまう。
だからと言って唯人の持つ他世界ではSSSレア、世界級、限界突破などと呼ばれるクラスの装備を身につければどうなるか想像に難くない、と言うか唯人はかつての失敗によりその行き着く先を知っている。
勿論ここでも100%そうなるとは言えないが余計な事はしないに限る。
そういったわけで新米冒険者として分相応な装備に身を包み、いよいよ依頼へと出発する。
――ちなみに金銭に関してはオルトリーゼから十分な額を貰っているため余程無駄遣いをしなければ不足する事はないと思われる――
~試しの森~
徒歩2時間ほどの距離にその森はあった――唯人は人の目を盗みながらダッシュしてきたため数分で到着できたが――。
青々と茂った樹木や草花、そして小型のモンスターと呼ぶには抵抗のある愛らしい姿をした生き物達。
それらが木漏れ日の下で伸び伸びと生を育む。
冒険者としての依頼よりもピクニックに向いている、そんな印象の森である。
これならば元の世界の富士の樹海やアマゾンのジャングルの方がよっぽど凶悪なモンスターが潜んでいそうであり、唯人も危険度についてはそれらの森の方が危険であると思ってしまうほどだ。
だがそれは今の唯人にとってはいいことであり労せず依頼を達成できるのであればそれに越した事はない。
――唯人も最初はそう思っていた――
~30分経過~
…ない。
~1時間経過~
……ない。
~2時間経過~
………ない。
ない。その一言に尽きる。
2時間もの間注意深く探したにもかかわらずただ薬草を一本も見つけることができなかったのだ。
ちなみに新米ハンター向けの依頼がどの程度の難易度か知るため、ホーンラットを10匹捕まえてみたがこれならば3分ほどで達成できたと言う有様。
ちなみにホーンラットとはその名の通り角の生えたねずみであり大きさは成体で40センチ程度。身を守るためにその角を使って攻撃を仕掛けることはあるもののその性質はおとなしい物である。
そのため討伐の難易度は大した物ではなく強いて言えばその愛くるしい容姿に刃を突き立てられるかが試される存在と言える。
捕まえたホーンラットを逃がしながら変な設定にこだわらずににそちらを受けておけばよかったと思う唯人であったが今となってはどうしようもない。
そもそもなぜ薬草程度の物がこんなにも見つからないのかと言えば、この森が比較的安全であり、薬草採取の依頼を受けた冒険者はもとより、一般市民ですら少し準備をすれば難なく薬草を入手できるため森の奥地以外は根こそぎ刈り尽くされてしまっていたのだ。
さらに、魔力探知を行使できる唯人にとって魔力を帯びた強力な物ほど発見が容易い=平凡な薬草などは探すのが苦手、でありまた、元の世界を含めた多くの世界の野草は群生する傾向があるため、魔力を帯びた植物のある地点を逆に避けて探索を行っていたのだがどうやら今回はそれが裏目に出てしまい、無駄な時を費やしてしまったのである。
(ふう、仕方ない面倒事の臭いもするが『あの場所』へ行ってみるか)
『あの場所』、閾値を上げた唯人の魔力探知にかかる植物の群生地の反応と共に大型のモンスターと思われる強力な反応もある森の奥地。
そう決め唯人は今まで通っていた歩きやすい道をはずれ、最短コース、茂る下草を気にせず一直線にその場所へ向かって歩き出した。
目的の場所が近づいてくるとさすがに木々が鬱蒼と茂り、下草の茂り方から人はもとよりモンスターを含めた獣ですらこの付近にはあまり近寄っていない事が窺い知れる。
そんな道なき道を踏破し辿り着いたその場所で唯人の目に飛び込んできたのはなんとも幻想的な光景だった。
森の中にぽっかりと空いたように開けた空間。
木々に遮られる事なく降り注ぐ陽光に照らされキラキラと輝く澄んだ泉。
その陽光の輝きを反射しているのかと見紛うほどの輝きを『自ら』放つ草花。
その草花の間々にひっそりと生える薬草たち。
・
・
・
そしてその光景の中で明らかに場違いで異様な存在。
輝く草花の中心で全身に傷を負い、苦しげな様子を見せながらも唯人を威嚇するそれは、全身を返り血で染めたような深紅の鱗を持つドラゴンであった。
が、唯人はそんなドラゴンの事など眼中になく
「…やっと見つけた」
そう口にし思わず笑みを浮かべるのだった。
~?~
この森の上空であの異様なモンスターの集団に襲われてからどれほどの時間がたったのであろうか。
十年か、百年か、…いやまだせいぜい一年と言ったところだろう。
我ら龍族にとって一年など考え事をしている間に過ぎてしまうような期間だと言うのにこの一年間のなんと長い事か。
あの程度のモンスターなど我らの咆哮一つで竦み上がるはずが何の迷いもなく向かってきた。
おそらく後ろに控えてきたヒトのかたちをしたナニカ。アレに操られていたのであろう。
奴らを叩き落し、炎で焼き払い、噛み砕き、引き裂き続けたが少しずつ傷つき最後には翼を裂かれ我はこの森へと落ちてきたわけだがあのナニカは終始笑っているだけだった。我が傷つくたび、仲間、もしくは部下であるはずのモンスターが無残な死を遂げたとき、我が森へ落ちたときも笑い続け満足したようにその場を去っていった。
まるでそれが遊びであったかのように。
我は龍族の中では若輩だがこれほどの屈辱を受けた事はない。
すぐにでも傷を癒し奴を微塵に引き裂いてやろう、そう考えていた。
だが、普通ならばこんな傷など瞬く間にふさがるはずが何か意思を持ったかように今も我の体を蝕み続けている。
最初はまだ良かった。
龍とはいえ弱っていると見たモンスターが襲い掛かってきたからだ。
こちらからすればそれは餌がわざわざこちらに向かってくるだけの事。
労せずに食料を得る事ができた。
だが、しばらくするとそんな輩も減り常に空腹が我を支配するほどになった。
そもそもこの森には余り強力なモンスターがいないのか、狩りをしたところでその労力と得る物がつりあわない。
我が身を蝕む傷。僅かな食料。それに伴う空腹。
それらに耐え何とか生きながらえてきたが先日決定的な出来事が起きてしまった。
それは人間に見つかった事。
その人間は簡素な装備に身を包み我の前に現れた。
我からすればそれは非常に矮小な存在。気にするまでもない出来事であるはずだったが、この耳は聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。
「俺一人では対処できない、応援を呼ばなければ…!」
この人間は冒険者のようだがその様子から新米である事はわかっていた。だがこの者が応援を呼ぶとなれば話は別。
人間が数人束になろうと負ける事はないだろうが今の我にとって無駄な戦闘は死に繋がる。
そして人間とは臆病な存在だ。我の存在を知って放っておくと言う事はできないであろう。
つまり我に残された選択肢はただ一つ。
その冒険者を食らう事のみだ。
その冒険者は善戦した。
何度か我の身に剣がはじかれると我の鱗に自らの剣が通じぬと判断し、この身に残る傷へと攻撃を集中し始める。
更に我の体力が少ないと気付くと攻撃を控え回避に集中し我の体力を削ろうとした。
勿論、隙あらば逃げ出す事を念頭に置いた上で、だ。
が、いくら傷つき弱っているとはいえ人間の体力と我とを比較すれば圧倒的に我が上回るのは自明の理。
数刻の後力尽きたかの冒険者を我は喰らった。
しかし人間一人喰らっただけではわれの腹は満たされぬ。
しかもこの人間は我に必要以上の力を使わせた。
本来ならその健闘をたたえ眷属としてやっても良いほどであったが今の我にとっては余計な手間を掛けさせた上に得る物のない厄介な存在であった。
そして今。
再びかの冒険者と同じような出で立ちの冒険者が目の前に現れた。
その冒険者は小さく
「…やっと見つけた」
そう言うとニヤリと笑いながら我に向かって歩き始める。
(こやつ、我がここにいることを知って?いや、どちらにしろこの者も喰らうしか道はない。)
我は我に向かって歩みを進める人間に対し大きく咆哮すると脅威を取り除くべく、痛む体に鞭打ち排除を開始するのであった。
読んで頂きありがとうございます。
年内に何とか薬草採取は終わらせたいところ。




