第23話 推薦(押しつけ) 2
ラヴィの叫びがギルドの喧騒にかき消されたころ、何か考え込むように顎をなでさすりながら黙っていたマキシが沈黙を破り、今までの彼にはない神妙な面持ちで唯人に尋ねる。
「…ふむ。タダヒト。おめぇは俺達のパーティーに入る気はないんだよな?」
「…ええ」
「で、そのラヴィってぇ嬢ちゃんは俺達のパーティーに入れろと?」
「…はい」
「そんな虫のいい話が通るとでも思ってんのか?」
「無理は承知の上です」
唯人にとってこれはラヴィに対する最大の譲歩だ。
もしマキシが断ったとしても唯人はラヴィを連れて行く気はない。
彼女に事情があるように唯人にも事情がある。
結果彼女がこの依頼で死んだとしても、それがこの世界の摂理と言うものである。
例えるならアニ○○プラネットのカメラマンがいくら可愛くとも、肉食獣に襲われる動物の赤ちゃんを助けないのと同じ感覚、と言ったところであろうか。
再びの沈黙の後、マキシが意外な答えを口にする。
「…いいだろう」
「おい、旦那!?」
「ちょ!冗談だろ!?」
「あら、新しい仲間が増えるのですね」
マキシの答えに、キースとミリアは驚きの、ソフィーは喜びの声を上げる。
そしてマキシは先程までの神妙な顔などなかったかのようにニヤリと笑い、
「ただしタダヒト、これはデケェ貸しになるぜ?」
そう唯人に告げた。
(はてさて、何を要求される事やらだが…)
「無理を言っているのはこちらのほうです。今すぐ返す事はできませんが…出世払いに期待してください」
唯人はそう答える。
が、唯人の中では、
出世払い=しばらく後=元の世界に帰ってしまっている。
と言う可能性もあるため、踏み倒す事になるかも知れないことが心苦しくもある。
事実、約束を果たせずに元の世界へと帰ってしまったことは幾度もあるのだ。
「…っくくく、が~はっはっはっはっ!!!おい!聞いたかよ!やっぱりこいつぁ大したタマだぜ」
そんな事と知ってか知らずか豪快に笑うマキシ。
そんな彼をみて、説得しても無駄だと悟ったのか、
「まったく…困ったもんだぜ。ま、俺はカワイ子ちゃんが増えるのは歓迎だけどな」
「けっ…まぁ決まっちまったもんはしょうがないね」
「あらあら、ミリアったら本当は新しいお友達ができて嬉しいんでしょう?ラヴィちゃん、一緒に頑張りましょうね」
仲間達もラヴィを迎え入れることに同意する。
ただ当の本人だけはこの状況について来れていないようでいまだ戸惑った様子でオロオロしている。
「えっ、あのっ、私は…」
「心配しなくても彼らは腕利きらしいからいろいろ助けてもらうといい」
「いえっ、そうではなくて…」
「よし!この件はこれで決まりだ!でだ、それとこれとは別でよ、なあタダヒト!最初だけでも俺らと一緒に行かねぇか?別にパーティーに入れってわけじゃねぇ。俺らはこれからラヴィの初依頼に付き合うことになるわけだしただのついでに付き合おうってだけだ」
まだ何か言いたそうにしているラヴィを置き去りにしてマキシは話をまとめ、別件として話を続ける。
「ありがとうございます。でも僕は1人でできるところまでやってみたいんです」
が、唯人の答えは変わることはない。
「そうか…。よし!男が決めた事に口を出すのは漢じゃねぇ!これ以上はいわねぇ。が、最後に一個だけだ!おめぇ身寄りがねぇだろ?」
「…ええ」
いきなり変な方向に話が飛び、やや慎重に答える唯人。
「自分が死んでも悲しむ奴がいねぇ、そう思ってるだろ?」
「…はい」
「ここにいるぜ?」
マキシは分厚い胸板をドンッとたたくとそう唯人に告げる。
「…は?」
唯人はマキシが何を言っているのかわからず、猫をかぶるのも忘れ、素で聞き返してしまう。
「おめぇが死んだら悲しむ奴ならここにいる!だから死ぬなよ!!」
そう言うと今度は唯人の胸を軽く――マキシ基準で――たたく。
「…はい。少なくとも貸りを返すまでは」
再び猫をかぶりなおした唯人はそう答える。
「いい返事だ」
「では、彼女の事、よろしくお願いします」
「おう!任せときな!おめぇら!!今日の予定は変更だ!ラヴィの初依頼のサポートをするぞ!!!」
唯人の返事に満足した様子のマキシにラヴィを託すと早速『ワイルド・ストーム』の面々は行動を開始する。
「あいさ~」
「りょ~か~い」
「ラヴィちゃん、さあ、一緒に準備しましょうね」
人ごみを切り開くマキシの三歩後ろを歩むソフィーに連れられ、ラヴィはミーティングを行うためにだろうがギルド内に設けられたテーブル席へと向かっていく。
まだ何か言いたそうに唯人を見つめていたものの状況を受け入れたのか、
「…タダヒトさん。ありがとうございました。それと、無理を言ってしまってごめんなさい」
礼と謝罪を唯人へと伝え、ソフィーに続きテーブルへと向かっていった。
すると、タイミングを見計らっていたのかそれと同時にキースとミリアが唯人に声を掛けてくる。
「兄ちゃん、いや、タダヒト。すっかり旦那に気に入られちまったな」
「だな。ああなったらしつこいよ?観念してあたしらのパーティーに入ったほうが楽だと思うけどねぇ」
「ミリア、入って欲しいオーラが出すぎてるぞ?タダヒトみたいなタイプはあんまりガツガツしてると引いちまうぜ?」
「えっ!?そうなのっ?…じゃなくてっ、別にそんなオーラ出してないからっ!」
「まあこいつの事は置いておいて、だ。さっきの旦那の言った事だけどよ、ま、あんま気にすんな」
「…はい」
「おい、無視すんなっつぅの!…まあキースの言うとおり気にしないほうがいいよ?なんせ旦那は例のまだ帰ってきてないルーキーの事を知ったとき『俺が強引にでも引き止めていれば…。』なんて後悔していたくらいだしね」
「次の日には何事もなかったかのように笑ってたけどな。けどそんな旦那だからこそ俺達は付いていけるのさ。ミリアじゃねえが入る気になったらいつでも言ってくれ」
「ええ、僕はギャザラー志望ですからハンターの皆さんにはお世話になる事もあるでしょう。そのときはよろしくお願いします」
「おう。じゃあ俺らも行くわ。頑張れよ。っし!行くぞミリア」
「あいよ。なんか困った事があったら手ぇ貸してやる…あ、べ、別にあたしはタダヒトに入って欲しいってわけじゃないからね!?」
「ミリア…それはそれで狙いすぎでドン引きだわ」
「えっ!?おいっ!キースがガツガツすんなって言ったんだろ!」
「はいはい、もう行くぞ。じゃあな」
そう言うとキースは背を向けながらもタダヒトへと手を振りながら立ち去り、ミリアもギャーギャーと騒ぎながらもそれに続いて行った。
キースたちが立ち去り1人取り残された唯人はなんとも言えない寂しさを感じていた。
クラスメイト達との出会いによって友情と言うものが解り始めた唯人はかつて訪れた数々の世界でも僅かながら友と呼べる者達がいたと思っている。
中には彼らのような者達もおり、ともに旅をしたこともある。
もし、この世界に来たのが唯人だけだったなら彼らと共に行ったのかもしれない。
だが、この世界に来たのが唯人だけだったなら彼らと出会わなかったかもしれない。
そんな奇妙な巡り会わせを感じながらも思いは変わらない。
今はただ皆のため。
決意を新たにし、最初の依頼をこなすため唯人はギルドを後にした。
唯人の一人称は、素が『俺』で猫かぶり時は『僕』としてあります。
普段『俺』って言ってる人も会社では『私』とか『僕』って言っちゃう。そんな感じ。
次の話からようやく異世界転移ものっぽくなる予定。
…あくまで予定です。
あと、メリークリスマス!
今年はクリスマスに一人寂しく釣りに行って来ます。
女の子を釣るとかではなく普通の釣りです。
…寂しくないもん。




