第21話 本当の名前
~???~
「ねえ、貴方の本当名前ってなんていうの」
「そんなもの、あんたも知っているだろう?」
「アレは名前なんて代物じゃないでしょう?大体誰がつけたのよ。センスのかけらも感じないわ」
「別に意味なんてどうだっていい。これが俺の名前だ」
「だからそれは名前じゃなくて『コードネーム』って奴でしょ」
「それだって『名前』だ」
「大層(笑)な名前の癖に屁理屈こねるわね」
「何度も言わせるな。意味なんてどうだっていい」
「どうでもよくないわ!名前ってのはねちゃんと意味を考えて付けられるべき物なのよ」
「じゃあその通りの意味でつけられたんだろう。事実そうだからな。何の問題もない」
「…貴方、自分の事何もわかってないのね。いいわ、わたしが新しく付けてあげる」
「必要ない」
「だめよ。もう決めてあるし」
「なら勝手に呼べばいい。だが生まれてこの方今の名で呼ばれてきたんだ。急にあんたが名前をつけたところでなじむわけがない」
「言ったわね。じゃあ今日から貴方は『唯一』ね」
「タダヒト?あまり聞きなれない名前だな」
「貴方も日本人でしょう?唯一って書いて唯一、よ」
「血筋ではな。なるほど。そういうことならある意味納得だな。俺みたいな奴がほかにいるはずもない。これなら案外父、…博士も納得するかもな」
「そういう意味じゃないわ。これは、わたしが貴方を呼ぶための名前。だから他の人間に呼ばせる必要なんてないの」
「じゃあどういう意味なんだ?」
「経緯はどうあれ私は貴方の『物』になったの。だから貴方は私にとって唯一の存在、と言う事よ」
「俺は別にいらないって言ったんだけどな」
「だから私は貴方に全てを捧げるわ。この名も含めて、ね。きっとその変な名前より私の付けた名前が気に入るはずよ」
「好き勝手言ってくれる。…そういえばあんたの名前を聞いてなかったな」
「そういえばそうね。私は『----』。貴方の名前とは相反する名前ね」
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「……ん」
「…さん。タダヒトさん。私の前で意識を飛ばすとはいい度胸デスね?」
カードに浮かんだ名前とそれを付けた人物の事を回想した唯人を現実に引き戻す声。
過去の記憶を追いやり現実、目の前で『素晴らしい笑顔』を浮かべる受付嬢へと視線を移す。
「…いや、ちゃんと聞いてますよ?」
意識を飛ばしていたのは事実なのにもかかわらずしれっとそんな事を言う唯人。
「そうなんデスか。私ったらてっきりタダヒトさんがカードに浮かんだ名前に思うと殺がありそれに関することで頭がいっぱいになって私の話なんて右から左ど殺か耳にすら入っていないのかと思って死まいま死た。申死訳ありません」
相変わらず笑顔を貼り付けたまま謝罪?の言葉を口にするヴァイオラ。
「いやいや、そんな失礼な事しませんよ」
唯人は穏便にことを進めたいのでわざわざ本当のことを言ったりしない。
できればこのまま話を進めたいが、
「そうデスよね。ではちゃんと理解できたか確認のために私が何を言っていたことを簡単でいいので説明死てください」
そうは問屋が卸さない。
その様子を見ていた冒険者達が再び騒ぎ始める。
「あのガキ、とうとうやらかしたな」
「ああ、よくもった方だったがもう終わりだな」
「いやまあ仕方ないだろ。ヴァイオラちゃんの美貌の前では男なら皆ぼ~っとしちまうって」
などと好き勝手なことを言っている。
列に並んで特にすることのない彼らにとってヴァイオラ――と彼女にボロクソに言われる者――を眺める事は目の保養であり、娯楽でもあった。
そして今回はどんな罵声が飛び出すのか、そんな期待を胸に唯人たちを見ているのだ。
が、彼らの期待に唯人が応える事はなかった。
「はい。依頼についての説明ですね。先程少し触れていただいたように大きく分けて討伐系と収集系の依頼がありそこから更に討伐系は討伐、捕獲、特定部位の納品、収集系は納品、採取、探索があります。採取、とは言いますがこれには情報なども含まれるので収集と言い換えてもいいかもしれないですね。また、納品以外の依頼については『場所』の指定が設けられる場合がありそれを偽った場合即ギルド登録が抹消されます。例えばモンスター討伐の依頼でA地点の個体を討伐して欲しいのにB地点の個体を討伐したところで何の解決にもならないからです。採取においても例えば薬草一つとっても地域ごとに効能が違ってくるため指定があった場合その地域以外で入手したものは納品してはならない事になっています。産地偽装は即抹消、ということですね。こうやって口にすると面倒そうに感じますが、要はズルせず依頼内容を守ってその通りに実行すればいい。他にも複合系の依頼や護衛の依頼などもありますがこれらも依頼内容をきちんと確認して実行すればいいだけの簡単なお仕事です、と言ったところでしょうか」
と、先程の意趣返しのように一息に答えて見せたのだ――どうやらこの世界でも産地偽装が問題になっているようだ――。
確かに唯人は意識を飛ばしてしまったかもしれないが、その上で彼女の話もきちんと聞いていたのである。
「…聞いていたのならいいデス。ただ人の話を聞くときは相手の目を死っかり見るように死た方がいいデスよ。先程はまるで腐りかけの魚のような目を死ていま死た死ね。それと――」
ヴァイオラは一旦言葉を区切ると今言ったように唯人の目を真剣なまなざしで見つめると、
「最後の『簡単な仕事』、と言う考えは捨ててください。依頼を死てくる人たちはなにかに困っている人がほとんどデス。時には依頼の成否が命にかかわる場合もあります。そもそも依頼を受ける以上、大きいも小さいも関係ありません。それにそんな舐めた考えの人の多くは必ず痛い目にあいます。それで反省死て考えを改める人もいますが、『次』が与えられるとは限りません。現に先日貴方と似たような事を言ったルーキーはまだ帰ってきていません。生きていればいいのデスが逃げた先で同じように不利益をまき散らされたらたまったものではありません。デスからどうか依頼とは真剣に向き合ってください。そこに並んでいるだら死のない顔を死た人たちも依頼をこな死ている最中だけは少死は見れる顔になるくらいデス。貴方にもそれを望みます」
それを聞いた周りの冒険者達はデレデレと先程より二割り増しほどだらしのない顔をしているが、依頼を受け出発するものの表情は力強く凛々しいものとなっている。
唯人の言う『簡単なお仕事』とは元の世界のスラングのようなものであるが唯人にとっては本当に簡単なため翻訳がうまく機能せずそのままの意味で通ってしまったようだ。唯人も普段はこのような言葉は使わないが『覚えたての言葉』と言うものは使ってみたくなるものである。
「すみません。そういったつもりではなかったのですが、今の言葉を重く受け止め真剣に依頼をこなしていきます」
「ええ、あなたがそんなつもりで言ったわけではない事はわかっています。デスが、今の言葉を忘れないでくださいね」
素直にそう謝った唯人にヴァイオラは再び笑みを浮かべるのだった。
「と殺でタダヒトさん。先程『ワイルド・ストーム』の方達と話をされていたようデスがお知り合いデスか?」
「『ワイルド・ストーム』?」
と言っても唯人が話した、という時点でマキシ達だと察しはついている。
「あの何でも力技で解決死ようとする筋肉禿達磨と、女癖が悪いくせに本当に好きな女には手を出せないヤリチ『キ』ンと、未経験の癖にさも経験豊富かのように振舞う処女ビッチと、清楚で可憐でか弱い花のようでありながらも聖樹の様に芯が強く、仮に神が女性ならばきっと彼女のような存在であるに違いなく、強いて、強いて悪い点を述べるならば男の趣味が悪いことくらいというほぼ完璧な女性の一人と先に挙げたその他三匹で構成されるパーティーデス」
前半と後半の温度差が尋常ではないが、聞いてみればなるほど、最初から、マキシ、キース、ミリアの順だと言う事がわかる。最後の一人にはまだ会っていないがヴァイオラにここまで言わせるとはどんな女性なのだろうか。
「ああ、彼らでしたら今日が初対面です。パーティーに入らないかと誘われました」
「そうで死たか。彼らはこの界隈のチームの中でも腕利きデスから特に事情がなければ受ける事をお勧め死ます。…ただ死、彼女に手を「しばらくは一人でやっていこうかと思います」――そうデスか。まあいいで死ょう。さて――」
話が長くなりそうなので割り込むように一人でやっていくことを告げると存外にあっさりと認めてくれる。
そしてヴァイオラは二枚の紙を取り出す。
「これが最初の依頼デス。最初だけはこの二つの依頼のどちらかから選んでいただきます」
ヴァイオラの差し出した二枚の紙をてにとって見ると
一つは討伐系の依頼。
『ホーンラット十匹の討伐』
もう一つは採取系の依頼。
『薬草十本の採取及び納品』
どちらも場所の指定は最寄の森、通称『試しの森』となっている。
「さあ、どちらを受けますか?」
「では薬草十本のほうでお願いします」
唯人にどちらも大差ない依頼であるが、一応マキシ達にギャザラー志望と言ってしまった手前、そちらを受けるほうが不自然ではないだろうと言う思惑からの選択だ。
「か死こまりま死た。それではカードに依頼を登録死ます。これにより討伐数や入手数が自動的にカウントされますので達成までの数などを確認する事ができます。特に数の多い依頼の場合重宝すると思いますので確認する癖をつけておくといいデスよ。また、期限のある依頼の場合は残り時間も表示されます。…はい、では登録が終わりま死たのでカードをお返死死ます」
そう言って手渡されたカードを見ると、
『薬草十本の採取及び納品』
地域指定:試しの森
採取数
薬草:0/10
納品数
薬草:0/10
と表示されている。
「以上で登録及び初依頼の受注が終わりま死た。何か質問は…その様子だとなさそうデスね」
「はい。何かわからないことがあればまた聞きに来ます」
そう言って立ち上がり
「ありがとうございました」
そう礼を述べる。
「貴方が無事に戻ってくる事を祈っています。…一応決まりになっていますから言いま死たけど本当は全然心配は死てません」
「それは残念ですね」
「いえ、そういう意味ではなく貴方なら何の問題もないで死ょう、と言う意味デス。む死ろさっさと帰ってきて面倒な依頼をバリバリ消化死ていってもらいたいデスね」
そう言って山積みになった紙の束を倒れない程度にぽんぽんとたたいてみせる。
「ご期待に沿えるよう努力します。では――」
「いってらっ死ゃい」
「――いってきます」
そう互いに挨拶を交わすと唯人は早速依頼を遂行するべくギルドを立ち去ろうとする。
「あ、あのっ!」
が、その背に彼を呼び止める声がかかる。
声の主は女性ではあるが先程まで話していたヴァイオラのものではない。
このまま気付かないふりをすることもできるのだがどう考えても自分に向けられた切羽詰った声につい振り返ってしまう。
そして振り返った唯人の目に入ったもの
それはモコモコとした白い毛に覆われたぴこぴこと動く二本の長い謎の物体。
そこから更に視線を下に移すとその物体と同じ色の頭髪。そして上目遣いで唯人を見つめる少女が映る。
そう、謎の物体とは彼女の頭部から生えたウサ耳だったのだ。
唯人にはこのウサ耳に、と言うか彼女に見覚えがあった。
彼女は唯人の隣の席で新規登録をしていた少女である。
「あなたもこれから最初の依頼に行くんですよね?」
唯人がそんな事を考察しているとウサ耳の少女尋ねてくる。
「ええ、そうです」
隣の席でヴァイオラと会話をしていたのでこの長い耳が話を傍受している可能性が高く、嘘をつこうにもつけないので素直に答える。
「じゃ、じゃあ、―――」
(あ、これは…)
経験上この後に続く言葉は一つである――経験がなくともわかりそうなものではあるが――。
「私と一緒に行きませんか?」
(ああ、やっぱり)
唯人は心の中で天を仰いだ。
回想部分は自分でも『何書いてんだ?』状態です。
唯人の過去を小出しにしていきたいけれどこんな風にしか書けないならいっそのこと一気に書く機会を設けたほうがいいのかも、なんて思う今日この頃。
正直飛ばして読んでいただいてもいいくらい(なら前書きに書け、と言う話ですが)。




