第17話 異世界の朝食(改)
大食堂。
恐らく端と端の席では会話が不可能などころか表情の機微も把握できないであろうほどの広壮さ、さらに不必要とも思えるほどに空いた頭上の空間には豪奢なシャンデリアが等間隔に配置され、中でも中央部分に配置された物は一回り大きいだけでなく施された装飾も一段階上の物であろうことは素人目にも明らかだ。
さらに、食事の場となるテーブルや椅子そのものはもとより、それらに付随するリネンや食器類なども一級品。そして周囲に配置されている絵画や調度品についても同様であるという一見非の打ち所の無いように見えるこの食堂にも残念な部分がある。
一つは今はまだ来ていないが食堂においての主役の一つとも言える料理。
そしてもう一つは女性五人に囲まれ正座をさせられている男がいることであった。
「…で、私達の世界のことをオルトリーゼに話していた、と」
「…ハイ」
「そうならそうと先に言ってくれれば良かったのに」
「…ハイ」
「わ、私は唯人さんはそんな事してないって信じてましたよ!?」
「…ハイ」
「でも事実はどうあれ、女性と一晩過ごすというのはあまり褒められた事ではない、というのはわかるわよね?」
「…ハイ」
「まぁ普通に考えて唯人にそんな甲斐sy、じゃなくて度胸があるわけないしね~」
「…ハイ」
正座させられている男、唯人は女性陣の言葉に対して肯定の意を示す事しか許されていないかのようだ。
そんな唯人に助け舟という名の泥舟を寄越す者が一人。この状況への引き金を引いたといっても過言ではない存在。オルトリーゼである。
「そんなことはございません。唯人様はわたくしの無理な願いを聞き届けてくださった上に、手取り足取り丁寧に指導してくださったのです。甲斐性がないどころか女性の扱い方がわかっていらっしゃるとお見受けいたしました」
風香の言いかけた「甲斐性」というワードをしっかりと拾ったオルトリーゼが余計な事を告げてくる。
「…オイ」
言葉とは不思議なものでたった一文字違うだけだが先程までの肯定の言葉ではなく抗議の言葉が唯人の口から発せられる。
そしてオルトリーゼを睨み付けようと上げた唯人の視線に鮮やかな色彩が映り込む。
それは色の数は足りないが濃淡やそれぞれの色が重なる事によって虹のようにも見え非常に美しものであったが、唯人にとっては先程の仕打ち――彼の精神のために詳しくは語らないが――もあって、同じ色鮮やかさであっても唯人にはどこぞの国の汚染された川の様に禍々しく映るのであった。
「へぇ~、何をどう手取り足取り教えたのか詳しく聞かせてもらおうじゃない?」
実際に何をしていたかといえば色気のあるような事など一切していない。
手取り足取り丁寧→実際にやらせてみせてできるまで指導→体に刻み込むようなスパルタ、といった具合で一晩という短時間で知識と技術を詰め込んだのである。
一応お互いに、ではあるのだが、数多の世界の表も裏も渡り歩いた唯人にとって一つの世界の知識や技術を掌握する事はさほど難しくはないためほとんどはオルトリーゼへの『指導』へと充てられた。
そしてそれは元の世界のもののみならず、唯人が他の世界で得た物も多分に含まれていたため膨大な量となり比率で言えば1:100を優に超え、さしものオルトリーゼも心身ともにボロボロとなりベッドへ倒れ伏す事となったのだ。
余談ではあるがその過程でオルトリーゼがいざという時のために着て行った勝負服はもとより勝負下着ですら無傷ではすまないほどに本人同様ボロボロとなったため傍から見ている分には十分に色気はあったのかもしれない。
だが唯人はそんな事を気にした風もなく、服が破れてオルトリーゼの美しい肢体が露わになったときですら目もくれずに『指導』を続けようとしたほどで、見かねたシェイラが止めに入ったほどだ。
さらに、何故オルトリーゼへ知識や技術を提供するのかといえば、皆にそれらを反映させるためでありオルトリーゼはもとよりこの世界のことなどそこまで考慮されていない。せいぜい、協力への対価程度だ。
そうした経緯もあり心身だけでなく女として、1人の人間としてのプライドまでも傷付けられたオルトリーゼが行った反撃により今の状況に陥っているのだが、その事に唯人は全く気づいておらず、厳しくしすぎて嫌われたかな?くらいにしか思っていないのであった。
「いや、別に変な事はしてないって!例えば、箸の持ち方とかの礼儀作法とか、え~と、あと料理とかそんなのだよ」
「ん?料理?」
風香が料理というワードに反応を示したためそこに突破口を見出し畳み掛ける。
「そ、そう!料理!昨日皆ここの料理は微妙みたいな事言ってただろ?」
「ちょっと!?唯人君!?私達は何もそこまではいってないのだけど!?」
あまりにストレートな表現に玲奈があわてて止めに入る。
さすがに料理を出してくれた本人を前に否定的な意見を口にするのははばかられるのだろうが、オルトリーゼには既に料理に対する苦情を『よりストレートに』伝達済みだ。
「言ってないだけだろ?それに日本人、俺たちの国の人は謙虚で慎ましやか、言い換えると言いたい事をはっきり言えない傾向があるって説明してあるから今の反応で十分汲み取られたと思うぞ」
それを聞いた玲奈は申し訳なさそうな顔をしているがこればかりは仕方がない。
オルトリーゼもその事を理解しているようで玲奈をフォローする。
「わたくしも他国の料理で口に合わないものは幾つかありますし…。それに唯人様に作っていただいた料理はどれも口にしたことのないすばらしい物ばかりでした。そういったものを口にされていたのでしたらわたくし供のお出しした料理などでは満足していただけないのも当然というものです」
「別にそんな大層な物は作ってないけどな。そもそも昨日言ったように俺達が食べている物は改良されているものが多いから同じような食材でも味が違うし、調味料もしょうゆや味噌は勿論オリーブオイルとかありそうな物もないし、さらには俺達の世界にはない食材、これはモンスターの肉とかそういうのだな、そういったものもある関係で俺達の世界と全く同じ料理を作るのは早々にあきらめた」
「じゃあ私達が慣れ親しんだ料理、というわけではないのね?」
唯人の説明を聞いた玲奈が少し残念そうに唯人に尋ねる。
「う~ん、確かに厳密には違うけどできるだけ口に合うように近づけた、って感じかな?食材の関係でいろいろな料理が混在する和洋折衷料理、といったところか」
「ふ~ん、そう。で?」
そして唯人の説明をつまらなそうに聞いていた風香が片眉を上げつつ尋ねる。
ただ『で?』といわれただけだが唯人には風香が何を言いたいのかは良くわかっている。
「わかってるって、たぶんそろそろ…、おっ、来たみたいだぞ」
唯人がそう言うや否や食堂から厨房へとつながる扉が開かれ料理が運び込まれる。
元の世界と同じく、通常は料理を運ぶ専門の役職、コミ、ボーイ、ウェイター、仲居もしくはギャルソンなどと呼ばれる者たちが料理を運び調理担当の者は厨房からあまり出ないものなのだが今回はなぜかシェフをはじめ全員が食堂へと姿を現した。
その中から唯人たちの前へ歩み寄る初老の男性が一人。
「陛下、ならびに勇者様、おはようございます。朝食の準備が遅くなり申し訳ございません」
そう言って深々と頭を下げる。
「…あんただr」
「失礼ですがあなたは…?」
また失礼な事をいいそうになる風香の口を塞ぎ玲奈が尋ねる。
「失礼致しました。私は料理長を勤めさせていただいておりますサンジェルマンと申します」
「なぁ、サンジェルマンさん?なんか料理の量が多すぎないか?」
そう、何故シェフまでもがぞろぞろと出てきたかというと料理の量があまりにも多く運びきれず、シェフまでも動員し運び込んできていたのだ。
「おお!唯人様!先程はご指導頂きありがとうございました」
「いや、それはいいんだがこの料理の量は…」
「?ミルから料理が勇者様方のお口に合うか確認するよう指示があったと聞きましたが?」
ミルとは厨房の中でも最も若い見習いシェフの少女である。
確かに唯人は皆に口に合うか確認するよう指示を出したのだがそれはこれからの食事にこれらの料理を出し、その際に口に合うか逐一確認して欲しいという意味だったのだが…。
「確かに言ったが一回の食事、しかも朝食でこれだけの量を確認するとかおかしいと思わなかったのか?」
そう言ってシェフ達の方に目をやると「しまった!」という血の気の引いた顔をした十四、五歳ほどの調理の邪魔にならないようにか明るい茶髪をベリーショートにしている少女がいた。それが唯人が伝言を頼んだミルという少女である。
「いやはや、お恥ずかしい。確かに私もおかしいとは思ったのですがわれわれ料理人の性といいますか、新しい料理を作るのが楽しくなってしまいまして…。それに彼女もこれで情報を正確に伝える事の大切さを知ったでしょう」
ミルの様子を見たサンジェルマンは笑みを浮かべつつそう口にする。
後ろで料理を配っているシェフたちも申し訳なさそうな顔をしつつもどこか満ち足りた表情でこちらを見ている。
「…はぁ、わかったよ。でも俺以外は皆女性なんだしこの量は無理がある」
「残った物は後ほど私達で食べますので。まだ味も把握しきれておりませんし」
元の世界のレストランでは残された物はすべて廃棄するのが常識である。
もちろん『勉強のために』こっそりスタッフが食べたり持って帰ったりする場合もあるのだろうが。
「後でスタッフが美味しくいただきました、ってやつか。でもな、料理は冷めたら美味しくないだろ?」
唯人はそう言うとテーブルに並べられた料理を小分けにして取り皿へと移し始める。
「これだけの量、俺達だけでは食べきれない。だからスタッフの皆も一緒に食べよう。幸いここは無駄とも言えるくらいに広いし全員座ってもまだ余裕がある。オルトリーゼもそれで構わないか?」
唯人の言葉を聞き、先程まで和やかで落ち着いた雰囲気だったサンジェルマンも取り乱す。
「いえいえいえ!陛下や皆様とともに食事を取るなど!」
叫ぶようにそう言うサンジェルマンをはじめとするスタッフ達は唯人の言葉にたいそう驚いている様子だ。
通常料理人や給仕などをするものたちが仕える主人と食事を共にすることなどありえない。
だが、
「はい、勿論構いません」
唯人の提案をオルトリーゼは嫌な顔一つせずに受けるのだった。
「へ、陛下!?」
自らの主人の言葉に固まるスタッフ一同。
「はいはい、ぼさっとするなよ、こうしている間にも料理が冷めたり温くなっていってるんだ。俺がこうして取り皿に分けていくから各席にこのセットを配置していくように」
唯人の言葉で我に返ったスタッフ達は唯人の用意した皿を席へと配膳していく。
席に配膳された料理は例えるならフランス料理やイタリア料理など単品ずつ出てくる料理を小分けにし、旅館などで出される会席料理の様にまとめて提供しているといったところだろうか。
普段給仕に慣れているスタッフは勿論、あまり慣れていないであろうシェフ達も料理を適温で食べる事の大切さは理解しているので無駄はあれどもスピーディーに配膳を行っていった。
こうして唯人の指示の下全員に料理が行き渡ったところでようやく朝食となった。
ちなみに給仕をする物も一緒に食事をするよう強要したため最初だけは唯人が代わりに給仕を行っている。
朝食の内容はミルのミス、というよりシェフ達の好奇心によって朝食で食べるには重い物も少なからずあったのだが、見る見るうちになくなっていく。
「この魚料理、カレーソースかしら?少し辛味があるけど後に引かないし香りもいいわ」
玲奈はカレーに似たソースを使った魚料理が気に入ったようだ。
それをギャルソンの真似事をしている唯人が解説する。
「こちらは香辛料をふんだんに使ったソース、仮にエキゾチックソース、としましょうか。このエキゾチックソースとハーブをあわせた物に白身魚を絡めた物でございます」
「エキゾチック、ね。今の私たちにとってはお互いが異国、いえ、異世界情緒に溢れている、と言ったところかしら」
玲奈は唯人のギャルソン調のしゃべりにクスクスと笑いながらもなかなか胴に入ったギャルソンぶりに感心して解説を聞いている。
ちなみに香辛料はそこそこ高価なようで最初に作って見せたときサンジェルマンの顔は引きつっていた。試食した後で唯人に調理法を聞くと嬉々として自分でも作っていたのだが。
同様に梢は淡い緑色のなめらかなスープが気に入った様子だ。
「えと、この緑色のスープはなんですか?」
「こちらは豆のヴィシソワーズ風でございます。浮かべてありますのがチキンベースのスープをゼリー状にした物ですのでお好みで味に変化をつけられる様にしてあります」
こちらはヴィシソワーズよりもゼリー用のスープに手間がかかった。
極端な話もとの世界なら調味料のコンソメで十分だったのだがわざわざ鶏や野菜から作る必要があったし、この世界にはいわゆる『出汁』を取るという習慣がないようで――習慣がないだけで結果的に山車がとれている場合はある――事前の準備もできずに手間がかかったのだ。今回は出汁を取った鶏や野菜も料理に使ったが出汁だけとって捨てていたら白い目で見られたかもしれない。
灯は早くもデザートに手を着けている。カップ状の容器に入れられたそれは生クリームでふたをされていて全容はつかめなかったがスプーンを差込むことでその内容が明らかとなる。
「これは…、みつまめかしら?でも寒天やフルーツは見当たらないし…」
「こちらはクリームみつまめ風ケーキでございます。寒天のようなものとちょうど良いフルーツがありませんでしたので、寒天の部分はでんぷん粉があったのでわらびもち、フルーツの代わりに栗のような木の実を入れてあります。スポンジ部分は抹茶風味にしたかったのですがなかったので香りの強すぎない紅茶を使用いたしました」
この世界の砂糖はちょうど和三本のようなまろやかな甘みであり、こうした和風のデザートに適していた。甘すぎず紅茶の香りもあいまっていくらでも食べられそうである。
そして残る風香は…。
「でんぷん粉があって紅茶もあるならあとは牛…かわからないけどミルクがあればタピオカミルクティー作れそうねえ。…それはそれとしてこれってもうないの?」
既に完食した上御代わりを要求してきた。
「さっききっちり全員分分けちゃったからなぁ。冷めかかってるけど俺のでよかったら食っていいぞ」
先程までのギャルソン調の喋りをやめた唯人が風香に提案する。
「それじゃあ唯人の朝食がなくなっちゃうでしょ?まあ私は構わないけど」
「俺は教えたり作ったりしてるときに味見してるから結構食べてるんだよ」
「そう?それじゃあ遠慮なく」
そう言って隣の唯人の席へ移り食事を再開する。
かと思いきや唯人に尋ねる。
「なんでわざわざオルトリーゼやシェフ達に料理を教えたりしたの?っていうかこの世界を見て回るのなんてやめて唯人はここで料理人でもしていればいいんじゃない?」
それについてはやや遠くの席に座っているシェフ達も同じ気持ちのようだ。
事実、丁重にお断りしたものの料理長のサンジェルマンをはじめとした料理人達から『弟子にしてください!』と頭を下げられたのだ。
「…まぁ、それも悪くはないと思うんだけど、ね」
そう言って料理を食べている面々に目をやる。
「じゃあ…」
「なんで料理を、それに俺達の世界の知識をオルトリーゼに、しかもつめこみ気味に教えたのかって言うとな…」
そこで視線を風香へと戻す。
「俺は今日にも出発する事に決めたんだ」
これは昨日のうちに既に決めていた事でオルトリーゼにはもう既に話してある。
理由は前述したように帰る方法を探すため、そしてそれを見つけるには時間がかかることが多いため少しでも早く取り掛かりたかったのだ。
それを聞いた風香の手からナイフとフォークが滑り落ち、『ガシャーン』と耳障りな金属音が大食堂に響き渡る。
「…すぐに替えをお持ちいたします」
唯人はギャルソン口調に戻しそう言ってナイフとフォークを拾おうと手を伸ばす。
『ガシッ』
その腕を風香が強く掴む。
「そんなの後でいい。で?何で、そういうことを、相談もなしに、決めるわけ?」
近くの席で聞いていたほかの三人も同じように『何故?』という視線を向けてくる。
「理由はいろいろあるんだけどね。いずれにしろもう決めた事だし手配も済んでる」
「そんな勝手なことっ!」
唯人を掴む手に更なる力を込める風香。制御できるようになったとはいえまだ未熟なのだろう。感情的になると力の押さえが利かなくなるのかその手には僅かに、そしてこの二日でもう見慣れた風香の力の象徴ともいえるオーラがにじみ出ていた。
昨晩、そして先ほどのことを考えれば唯人の腕には相当の力がかかっているのだろう。
だが唯人は表情一つ変えずに、そして風香に応える事もなく話を進める。
「風香に勝手どうこう言われてもな~。ああ、これが『おまいう』ってやつか(笑)。っと、そうそう。ミル。さっき渡したアレ、持って来てくれないか?」
「っ!ふぁいっ!ふぐもっふぇいきまふ!」
突然呼ばれたミルは驚いて顔を上げるとさながらリスの様に口に料理を含んだまま唯人に答える。
それをサンジェルマンが窘めるが他のシェフ達はそれを見て和んでいるようで、ミルは厨房のマスコット、と言った所なのだろう。
「ちょっと!人の話を聞きなさいよ!」
そんな声が聞こえてくるがあくまでスルー。
心なしか唯人の腕を掴む手から出るオーラの量が増えた気がしなくも無い。
そうしているうちにミルが唯人に言われて持ってきたのは紙の束、それは今日出された料理をはじめとする唯人特製のレシピであった。
「言葉はこうして通じるんわけなんだが文書にすると読めなくはないが表現がおかしかったりして伝わりにくくてな」
そう言ってそのレシピを梢へと渡す。
「できるだけ丁寧に書いてあるからたぶんそれを見ればこのくらいの料理ならすぐに作れる様になるだろう。技術的な部分はサンジェルマンさんや他の料理人達に聞いてくれ。ミルはまだ見習いで常識に囚われきってないから吸収も早いだろうしこれを見て二人で勉強してみてくれ。あ、もちろん他の三人も勉強してもらってもいいぞ」
「梢様!まだ未熟な身ですがなにとぞよろしくお願いします」
そう言って梢に頭を下げるミル。
「え、えと、はい」
そうして梢達が困惑している間に未だにオーラが滲み出る風香の手からするりと腕を抜くと、
「あ~しまった~。もうしゅっぱつしないといけないじかんだ~。すぐにいかないといっしょにきてくれるひとたちにめいわくをかけてしまうな~」
とわざとらしく声に出すとそのまま颯爽と出口へと向かう。
「っつーわけで俺はもう行くよ。ミル。立ったついでで風香のナイフとフォークの替えを用意してやってくれ」
扉の前で振り返りそう告げ、そのまま出て行こうとする。唯人を再び風香が呼び止める。
「…唯人。あんた本当は何考えてるの?」
静かに、しかし遠くの席からも届く強い声で風香が尋ねる。
「…。ん~、まだ見ぬ食材が俺を待っている!とか?」
一瞬の間の後笑ってそんな答えを返す唯人。
だがすぐに真顔になると
「心配掛けてごめん。だけどもっと自分達の心配もしてくれ。俺が戻ってきたときに…
誰かがいなくなってる。
なんて事の無いように、さ」
その言葉に息を呑む一同。
特に風香達四人はまだこの異常な事態に至ってから丸一日と経っていないにもかかわらず、唯人の言葉を重く受け止めていた。
それは彼女たちに宿った力がそうさせたのか。
それとも唯人の表情や言葉からそれを感じ取ったのか。
それを確かめる余裕は彼女達には無い。
「…な~んてね。あ、元の世界に帰ったって言うなら大歓迎だけどね。え~っと、とりあえずご飯と、あと味噌としょうゆが欲しいし~、米と大豆でも探しにいこ~かね~」
再び明るい調子でそう言うと、じゃ!と手を挙げ唯人はそのまま大食堂を去っていった。
その後しばらくの間、ミルが『え、えと、ご、ゴハンとか、ミソとショウユって、何なんですか?』と尋ねるまで大食堂は静寂に包まれ、唯人の分の料理はすっかり冷めてしまったのであった。
出てくる料理はホテルのレストランで食べた物を参考にしました。
次回ようやくプロローグに追いつきます。本当に話が進むの遅いですね(反省)。書くのが早ければそれほど気にならないのでしょうが(猛省)。




