another side 3 14.5話 それぞれの夜
another side 1と同じように勇者sideは誰の視点と言う訳でもない会話メインになっております。
一応another sideは読まなくてもいい蛇足といった感じで書いていますが今後は本編の補完的な意味合いを持つ事があるかもしれません。
~オルトリーゼside~
「…ふぅ」
先の出来事を思い返し今日何度目かのため息をつく。
彼はとんでもない事をさらりと言い放ち部屋を出て行った。
普通ならあんな事を言った時点で拘束、投獄、そして高確率で処刑である。
だが自分はそれを認め受け入れたのだ。
勿論普通に考えてあれほどの男がそんな短絡的な行動に出るとは考えづらいがどんな事にでも『万が一』ということはありえるのである。
故にこうして一人湯船につかり身を清めているのだ。
普段ならば使用人に身の回りの世話をさせるのだが、自分以外に触らせるわけにはいかない場所というものも存在する。
しかも王族、さらには女王という立場上その場所に何らかの細工及び直接的な危害を加えられ子孫を残せなくなるというのはなんとしても避けなければならない事象でもある。
その上ここに至って何かしらの不手際で彼に『この世界の女はこんなものか』などと思われては世界中の女性達に顔向けできない。
故に僅かな効果ではあろうがこうして己を磨いているわけだが、その理由も先に述べたような体裁を繕うような理由だけではない。
女にとって優秀な『オス』を見極める力というのは誰にでも少なからず備わっている物で、さらに王族という血統を重視する家系においてそれを見抜く術というのは先天的に身についており、後天的にも教育されているのである。。
オルトリーゼにとって彼は今までに見たどんな『オス』より、彼女が最も尊敬する父よりも遥かに優れた『オス』であるのは明白であり彼女の中の『女』の部分と『王』としての部分が同時に彼を求めているというのを確かに感じていた。
幸か不幸かこの年まで清い体でいた物の、逆に王族として血を残すという責務を果たせずに来てしまい、その役目は妹に任せなければならないかと重圧を感じ始めた時にこの機会とあっては、僅かながらも希望を感じずにはいられないというのも正直なところではある。
相当にマイナスに考えて彼が口八丁で先程の話をしていたとしても、そのかもし出す雰囲気や話術というのは政治の世界で役に立つ因子である事は間違いない。
…などと自己弁護をしつつ頭まで湯船に沈める。
長い金糸のごとき髪がに湯船に広がる。
普段ならこんなまねは絶対にできないのだが今は本当に1人でこの場にいるため誰も止める者はいない。
本当のことを言ってしまえば怖いのだ。
勿論『万が一』だった場合、初めては激痛が伴う、という知識による恐怖もないことはないが、そんな事よりもあの男そのものが怖い。
それこそ初めて奴らを目にしたときと同等、いや、それ以上に。
彼は何度も違う世界へ行った事があるといっていた。
自らの常識が通用しない世界へ何度も行くというのはどれほどの事なのか。
自分には想像する事もできない。
そんな境遇の彼が手の内に何を秘めているのか想像する事などできるはずもない。
その上そんな得体の知れない存在に身を委ねるなど想像しただけで怖気が走る。
しかし民を治める王として自ら下した判断に後悔はない。
あの男がどんな要求をしてきたとしてもそれを受け入れ、こちらの要求も飲ませるのだ。
そう自らを奮い立たせ静めていた頭を浮かび上がらせたところで声がかかる。
「ご入浴中失礼致します。唯人殿がこれより陛下の部屋へ向かわれるそうです」
声の主の姿は見えないが、声からシェイラだと分かる。
「わかりました。わたくしも丁度あがるところです。許可を出してあるので大丈夫だと思いますが、今回はきちんと警備の者を通して入塔するようお願いして下さい」
「了解」
シェイラはそう短く応えるとどうやら彼の元へ戻って行った様だ。
さて、こちらも彼を迎える準備を整えなければならない。
オルトリーゼはおもむろに立ち上がり湯船から出ると再び覚悟を決める。
彼がどのような思惑であるにしろこの一夜がこの国、ひいてはこの世界の行く末を決める事になる。
そんな確信にも似た直感を胸に、オルトリーゼは浴室を後にした。
~勇者side~
彼が出て行った部屋の中で私達はしばらくの間呆然としていた。
慌しく出て行く彼に対して戸惑いの声を出す事くらいしかできずに4人とも彼の背を見送り、その後に閉まった扉をしばらく見つめ言い知れぬ不安を抱く。
(あんなに慌てて出て行くなんて…。もしかして怖がられてる?)
彼を吹き飛ばした力を考えればもし当たっていればただではすまなかっただろう。
そんな事ができる――可能性のある――人間が4人もいる部屋に居続ける事ができずに出て行ってしまったのでは?という風に考えてしまう。
そんな事を考えつつも私達は先程の出来事についても考える。
彼は今日は休め、そう言っていたけれどそんな悠長な真似はできない。
「風香、もう大丈夫?」
「あ~、うん、大丈夫そう」
この混乱の原因となった蹴りを放った張本人は自らを確かめるようにしながら応える。
先の出来事は少なくとも今の時点では影響がないようだ。
「それにしても凄かったわね。相澤君には悪いけどあのくらいですんで良かったと考えるべきかしら」
「はい!凄かったです!」
「う~ん、でも意識して出したわけじゃないし…」
「そうね、『意識して出せる』、というのも重要だけれど今は『必要でないときは意識しなければ出ない』方が重要かもしれないわね」
「それじゃあ私達にも風香さんみたいなことができるか試した方が良いんでしょうか?」
「確かにそうだけどそれはまたの機会にしましょう。室内では物を壊したりしてしまいそうだし、相澤君の言ったように今日のところは休んでしまいましょう。話も聞いてきてくれると言っていたしその話を聞いてから、できれば場所も提供してもらってから確かめたほうが良いだろうし」
「…ねぇ、それなんだけどなんかおかしくない?」
「「「?」」」
「あの唯人が自分からオルトリーゼに話を聞きに行ったってところよ」
「…確かに唯人君は自分から積極的に人に話しかけるタイプじゃないけれど、今は状況が状況だしそういうことがあってもおかしくないとは思うけれど」
「でも確かに唯人さんは自分から何かをもちかけたりはしませんよね。私達が最初に話したときもそうだったみたいですし」
「私は勿論他の先生も概ねそういった評価ね。少なくとも私達以外に…、いえ今日を除けば私達にも自分から話し掛けているところは見た事ないわ」
「「「「……」」」」
彼の不自然な点に思わず押し黙る一同。
「ま、まあ玲奈の言うとおりこんな状況だから気を回したのかもね」
「ええ、それに昼話した事を気にして積極的になったのかも」
「昼って私達が行く前に何かあったんですか?」
「あら、良ければ私にも教えて欲しいんだけど」
「ん~、まぁ言っちゃってもいっか。実はね~――」
こうして昼にあった出来事を共有する。
「そ、そんな事が…」
「確かにあの通知表は凄いと思っていたけれどまさか狙ってやってたなんて…」
「どこまで本当かはわかんないけどね~。こんな事になっていよいよ本領を発揮しようとしてるのかも?」
「どちらにしても私達は唯人君が帰るまでは守ってあげないと」
その言葉に全員がうなずき雰囲気がやや和む。
「それにしてもこんな時間に女性の、しかも女王様のところに向かうなんて相澤君も結構大胆ね」
「えっ!?」
「オルトリーゼは容姿は勿論立ち居振る舞いも絵になるまさに高貴って感じだったし、ああいう人がタイプなのかしら?」
「っ!?」
「もしかしたら私たちのことを話しに行くって言うのは口実でただ彼女に会いたいがために出て行ったのかも…」
「あ゛ぁん?」
「…ふふっ。みんな若いわねぇ」
「「「!」」」
「ちょ、ちょっとせんせいが何言いたいのかわかんないんですけど?」
「そ、そうです!私は純粋に唯人君を心配しているだけで…」
「/////////」
「さっき先生のことを年増みたいに言ってくれた仕返しです。若ければ良いってもんじゃないんですよ?」
「ぐぬぬ…」
「あぁ、風香のせいでまたとばっちりが…」
「//////」
「これに懲りたらあまり大人をからかわない事です」
「…先生だって男の人と付き合ったことないくせに(ボソッ」
「!!な、何で知ってるんですか!?」
「ふっふ~ん。やっぱりね~。どうやら『ソレ』は武器と言うよりは盾だったみたいね」
「ひ、人が気にしている事をっ!」
「そんなに邪魔ならそこの恵まれない子供達に寄付してあげれば良いのに」
「「くっ」」
「霧崎さんっ!いい加減にしなさ~い!!」
「あはははは~」
こうして彼女達の姦しい夜は更けていく。
次の話でようやく一日が終了する…予定です。
自分で言うのもなんですがこんなにも進みが遅い話はそうそうないのでは…。
一応初日が終われば少しはテンポ良く進んでいくと思いますが…。




