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第十話 変化と影響

一ヶ月は空けたくなかったので区切って投稿

オルトリーゼに案内された大食堂でのささやかな晩餐会を終えた一行はそれぞれが用意された部屋に通され備品の説明や施設の案内を個々に受け一息ついた後、風香の部屋へ集合していた。

風香は豪華な天蓋付きのベッドに腰掛け、他の三人は用意された椅子に座っているが椅子が三つしかないため唯人は立ったままだ。

風香に隣に座るよう言われたが低調(誤字にあらず)にお断りしたため部屋の主は少々不機嫌な様子だ。


「こう言っちゃあなんだけどお城で出される料理って言うにはちょっと物足りない感じだったよね~。」


開口一番、風香がもはや恒例と言うべき失礼発言をする。


「ご馳走して頂いておいてこういう事言うのはあまり良くないとは思うけど…。でも風香の言いたいことはわかるわ。きっと私達とは食文化も違うのよ。」


普段こういったことをあまり言わない玲奈も風香に同調する。


彼女達に振舞われたのは良く言えばワイルドで素材の味を生かした料理、悪く言えば大味で工夫が足りない、といったような料理であった。

城の造りやオルトリーゼたちの衣装からこの世界にどことなく欧風のイメージを抱いていて食事についても欧風のものを想像していたのだが、それは概ね合っており、違っていたのは彼女達の想像していたのは高級フランス料理であり、実際に出てきたのがイギリス料理、もしくは中世ヨーロッパの料理だったという事だ。

図々しい考えのような気もするがそれほどにこの城やオルトリーゼの衣装は荘厳で、釣り合いを考えれば自然とそうなってしまうのもうなずける。


「その事についてだけど大体の想像は付いてる。」


唯人は今までの経験からこの世界の傾向を大体ではあるが読み取っており、その一部を話題に絡めて話す事にした。


「この城のなかを見たところ、外観だけなら中世から近世ヨーロッパといった感じだがそこかしこに魔法を使ったと思われる設備がある。例えば自動で開く扉とか声一つで点く燭台とかだな。だから一概に俺達の世界より遅れているというわけでもないとは思うがやはり科学はあまり進んでないみたいだから、品種改良や調理技術が未発達なせいで俺達の舌には合わないんじゃないか?」


「ふむ。確かに私達が食べているものの中には品種改良されているものがほとんどだしね。そうじゃなくても飼料とかに美味しくなるような工夫がされてる訳だしその説は結構いい線行ってるかもね。」


唯人の伝えたい所は料理どうこうではないのだがこれ以上深く突っ込むといろいろ疑われそうなのでやめておく。

まあ、梢はちょっと怪しいが他の三人にはこれからこの世界を理解しやすくなるヒントとして頭の隅に残っただろう。いわゆる「点と点が繋がった!」という奴の点だ。


そんな唯人の気持ちを知ってか知らずか、唯人の説を肯定した風香だが


「まあそんな事は些細な事よ。」


とあっさり話を打ち切る。自分で振っておいてあんまりのような気がするがこれが風香の平常運転だ。


「唯人は元の世界に帰るからいいとしてこれからの事を――「あー、ちょっといいか?」…なによ?」


風香がこれからについて話し合おうとしたところで唯人が口を挟む。


「俺、しばらくはこっちの世界にいるぞ。」


「…ちょっとあんた、さっきの先生の話聞いてなかったの?」

「そうよ唯人君。危険だから帰ったほうがいいわ。」

「私達の事なら心配要らないわ。」

「そうです!大丈夫ですから先に帰って待っていてください!」


即座に全員から帰るよう促される。

うれしい反面少しの寂しさも感じる。この場合悪意ではなく善意であるが唯人は帰れコールをされる人の気持ちが少しわかった気もした。


「あ~、みんなのその気持ちはありがたいんだが別に帰らないって言ってるわけじゃない。しばらくって言っただろ?」


気を取り直して本題に入る唯人。


「さっき食事が終わった後にオルトリーゼにそのあたりのことを聞いてみたんだよ。そしたらやっぱり準備やら星の位置がどうとかで少し時間がかかるんだってよ。まあある意味今回の召喚だって失敗したようなものだしその原因の究明もしてからじゃないとちゃんと送り返せるかわからないっていうのもあるらしいけど。」


理由を説明すると先程の熱の入った発言が恥ずかしかったのか皆顔を赤くしてしまっており風香などは

「そ、そうならそうと先に言いなさいよ!」

と文句をつけてくる。


そんな一同にゴメンと謝罪を入れながら話の続きを言うべきなのか逡巡する。

これを言うと怒られたり――主に風香に――呆れられたり――主に玲奈に――するだろう。

だが黙っておけば後にそれらが数倍となって自身に降りかかる事になる。

こういったことはさっさと言ってしまった方が良いのだ。

そう考えた唯人は言葉を続ける。


「それにせっかくこんな世界に来たんだからいろいろと見て回りたいだろ?」


当然だが観光するつもりなどはなく唯人が一人で出回るための方便なのであるが、そうとは知らない一同は唯人のあまりにも空気の読めてない発言に先の熱も冷め呆れている様子だ。

そしてやはりというか風香は怒っているのだがその怒り方が普段とは違っている。

普段のおちゃらけた様子はなりを潜めておりふざけた様子はない。

つまりは真剣(マジ)だという事だ。


「あんた、自分の立場分かってんの?あんたはねぇ、この国にとっては役立たずなのよ!ただ飯喰らいなの!お荷物なの!居ない方がマシなの!」


いくらなんでも言い過ぎだと玲奈が咎めるが気にせず風香は続ける。


「そんなあんたを帰すためにその儀式だか魔術だかを使う事にどんな意味があるって言うの?せいぜい私達のご機嫌取りがいいとこ。あの感じからしてそれなりに費用がかかるだろうし少なくとも準備や調査の人件費はかかる以上あんたを帰す事はどう考えても大赤字。そんなあんたがふらふらと観光でもしてたらどうなると思う?この世界では街を一歩出れば、いえ、恐らく街の中でも私達の世界では考えられないくらい簡単に人が死ぬらしいわよ?まだこの世界に疎い私達に適当な理由でごまかして、例えばモンスターに襲われたとか盗賊に襲われたとか言ってあんたを――」


そこで一際鋭い眼光を唯人へ向け


「――始末する事くらい十分考えられると思わない?」


そう言い放った。


それに息を呑んだのは言われた唯人(ほんにん)ではなく他の三人であった。

唯人は知らない所ではあるが神が言っていたこの世界の危険性を風香の言葉で思い出したのだ。


一方の唯人は


(最初からその可能性に気付くとはさすがと言うかなんと言うか…)


と感心と呆れが混ざったような苦笑いを心の中に浮かべていた。

当然唯人もその可能性については考えており、――普段は仮に刺客を放たれても全く問題にならないためそこまで気にしていないのだが――適当な対策も誂えてあった。


「…うん。オルトリーゼから似た様な話は聞いてるよ。だからもし万が一、どんな理由だったにせよ俺が死んだ場合は俺の代わりに皆の内の誰かを帰らせるように約束させた。」


そう告げたところでようやく風香の表情が元に戻る。


「…なるほどね。唯人が死んでしまえば私達の誰かが元の世界に帰ってしまって戦力ダウン。そうならないためには唯人を始末するどころか守らなければいけないってわけね。唯人にしてはうまい事考えたじゃない。」


実際はいろいろ穴があるといえばあるのだが所詮方便であるためその事に気づかれる前に話を続ける。


「当然護衛もつけてもらうし心配要らない。後他にもいろいろ聞いてきたから軽く報告するよ。」





「ふ~ん、なるほどね~。つまりまとめると…この世界にいる間は私達は年を取らず成長しない。ただし性能の向上はする。例えば筋トレをしても筋肉は増えないけど今ある筋肉の性能が上がって結果的に筋力が上がる、と。こんな感じ?」


唯人が長々と話した事を風香が簡潔にまとめる。

いろいろ聞いてきたといったがこれは唯人の経験によるものでありオルトリーゼから聞いたわけではない――そのため伝聞という体裁を繕うためにあれやこれやと蛇足を挟んだのだが――。

よってこの事象が彼女達にも当てはまるとは限らないため「古い記録によるとらしいけど」と予防線を張っておく。


「そう。」




「よかったね、先生。」


「…ちょっと、霧崎さん?それはいったいどういう意味です?」


灯先生が眼鏡をクイッと直しながら風香に詰め寄る。心なしか眼鏡がギラリと光ったようにも見える。


「私はまだ二十、…に、じゅう…。」


自分でいいかけたセリフに動揺する先生。


「ちなみに私達は十七歳ね。まぁ知ってるとは思うけど。あっ、って言う事はこの世界にいる間私達って永遠のじゅう・な・な・さいね♪」


ピシリという音が聞こえそうなほど見事に硬直する先生。先程直した筈の眼鏡がずれているのが哀愁を誘う。


そんな先生をスルーしながら今度は玲奈と梢に向かってまるで葬式で遺族に告げるかのように神妙な顔をして『ある部位』を見つめながら


「二人は、その…残念、だったわね。」


と、そう告げたのだった。


告げられた二人は一瞬「「?」」となっていたが風香の視線を追う事でその意図に気付き、


「な、なんのことかしら?わ、私は別にこのままで全く何も問題ないわ。だ、大体そんなにあっても邪魔にしかならないだろうし?…だろう、し。…む、胸が邪魔になるとか想像すら、できない…。」


「わ、わたしはこれでちょうどいいんです。分相応なんです。背が大きくなったらちょっとは大きくしてもいいかな?なんて……。っ!こ、ここでは、背も…背も、伸びないんでした~。あ~、わたしはいったいどうしたら!?」


と二人とも分かりやすく落ち込んでいる。


こうして三人を沈めて満足そうにしていた風香だったがさすがにちょっとやりすぎたと思ったのか唯人に目を向けると、


「ちょっと、女の子、括弧一人は『子』じゃないけど括弧閉じるが落ち込んでるんだからなんか声掛けてあげなさいよ。」


さらりと先生に対する追い討ちを挟みながら唯人に尻拭いを要請する。

こういった流れになるだろうと予見していた唯人は「はいはい」と生返事をしつつ要請に従い三人にフォローを入れる。


まずは石の様に固まってしまっている先生の両手を握り目を見据えながら、


「先生。確かに先生は俺達より大人ですがそれは悪いことじゃないですよ。俺達よりいろいろな経験をしているだろうしそこに大人の魅力があります。それに先生はそれだけじゃなくて包容力や母性といった女性らしさも持ち合わせています。それらは他の三人には無い物ですし年齢が少し上だからといってそんなに悲観する事はないです。むしろ誇っていいくらいだと思います。」


次にうつむいてぶつぶつとなにやらつぶやいている玲奈の頬に軽く手を添え上を向かせ、先程と同様に正面から目を見つめつつ、


「玲奈。玲奈がその、あれを気にしているのは知ってるけどそのせいで玲奈の魅力が損なわれるとは思わない。むしろ無駄を省いたような洗練された美しさがあるとすら感じられる。何より玲奈の凛とした佇まいが好きなんだ。そんな風に俯いているのは似合わないよ。」


最後に周りの様子が一切入ってこない様子でわたわたとしている梢を両肩をしっかりと掴んで動きを止め今回も目を見つめながら、


「梢。梢も小さい事を気にしているようだけど、世の中ではそれを希少価値と言っている人もいる。俺も彼らと同意見だ。こんなにかわいらしいのに他の人達と同じにする必要はないだろう?むしろ成長してしまわないか心配なくらいだ。」


とそれぞれに告げた。

三人とも顔を真っ赤にして「え?あ、…はい。」みたいなぼんやりとした返事を返すだけだ。


(そりゃこんなシュールストレミングも真っ青なクサイ台詞を真顔ではかれれば言われるほうも恥ずかしいだろうな…。でも言うほうも結構つらいんだぜ?)


唯人の目論見としては精神的ダメージを受けている状態を自分が醜態をさらす事で引き戻そうという計画だった。しかしながら実際は目論見通りにはいっていなかったのだがそれでも彼女らは落ち込んだ状態から復帰したようではある。

ただし唯人の顔はまともに見れないという副作用が発生してしまっているが。

それを唯人はクサイ台詞を真顔で言ったせいだと思っているようだが実際のところは彼女達にしか分からず唯人が知る由もない。


兎にも角にも目的を果たし、風香に『これでいいだろ?』と視線を向けると、風香はこちらをじと~っと見つめながら


「私には?」


と尋ねてくる。


「…は?」


何のことかわからず尋ねると、


「私には何かないの?」


つまり風香にも皆に言ったような歯が浮いて大気圏離脱しそうな台詞をはけという事らしい。

正直特に理由がないのならあんな辱めは遠慮したい唯人は心なしかわくわくしているようにも見える風香に


「あ~、風香はそのままでほとんど完璧なんじゃないかな?…性格以外は。」


とぞんざいな台詞を投げかける。


「…それだけ?」


「え?あ~、まあ、…うん。」


「…そう。」


若干寂しさもはらんだような返事とともに本日二度目、そしてこの世界に来て初となる風香のどす黒オーラが展開される。

それ自体は――あんまりあっても困るが――いつものことで日常的な光景ではあるのだが、一つ違っていることがある。


「あ、あの風香さん?」


「ちょっとは女心を勉強しろー!!」


怒りの叫びとともに鋭い蹴りが繰り出される。

これもある意味よくあることではあるのだがやはりいつもと違う。


(相変わらずなかなか鋭い蹴りd…ちょ!?速っ!!)


風香から繰り出された蹴りは普段とは比べ物にならないほど鋭くまさに疾風のような蹴りであった。

唯人は蹴り自体は辛うじてかわしたものの直後に襲い掛かる衝撃波のような風圧に吹き飛ばされて受身も取らずに(・・・・)床を転がり壁にぶつかる事でようやく止まった。


あまりの出来事に一同が声を失う。

一番に我に返った玲奈が唯人に駆け寄る。


「た、唯人君!大丈夫!?頭打ってない!?」


「あ、ああ。驚いたけど特に強く打ったりはしてないよ。ありがとう。」


そうは言ったもののまともに受ければかなりの衝撃があったと予想された。

直撃は避けたもののその後の風圧もなかなかなものだった。

さすがにダメージ自体はないのだがあまりきれいに受身を取りすぎるといろいろまずいと思い派手に転がってしまったが心配させてしまった事に気付き心が痛む。


風香には先生と梢が駆け寄り声を掛けている。

どうやら一番ショックを受けているのは風香のようだ。

既に先程体から『実際に』溢れ出ていた――どす黒というか濃緑色の――オーラは引っ込んでいる。


ややぼんやりした様子の風香へ


「風香大丈夫か!?」

と声を掛けると


「え?あ、うん。大丈夫。…って心配するのはこっちのほうなんだけど。」


と返事がくる。

どうやら調子を取り戻しつつあるらしい。

余計な心配を掛けないために軽い調子で話を進める。


「なんというかいつも以上にキレのある蹴りだったな。これも神の加護とやらの影響か?」


「…たぶん、そう。………ごめん。」


珍しく素直に謝る風香。


「俺の事なら心配要らない。いつも風香に鍛えられてるからな。そんな事より部屋の備品とか壊さないように気をつけないとな。その加護の力の使い方も覚えないといけないし…。」


そうして少しの間思案すると


「よし、その辺の事をオルトリーゼに相談しよう。みんなは今日はいろいろあって疲れただろうしゆっくり休んでくれ。くれぐれも怪我したりしないよう気をつけてな。」


そう一方的に告げると部屋を出る。

後ろで「え?ちょっと?」といった戸惑いの声が聞こえるが聞こえなかった事にして廊下を進む。


ある程度先に進んだところで天井に目をやり、


「聞いての通りだ。今からオルトリーゼの私室に行く。悪いが先に言って伝えておいて貰っていいか?さっきみたいに強引に通るのはできればあまりやりたくないんだ。」


そう小さく口にすると天井から了承を示す合図があり次の瞬間に先程まで僅かに在った天井の気配が消える。


それを確認すると唯人は僅か『一時間ほど前までいた』オルトリーゼの私室へと再び足を向けるのであった。

仕事を辞めたのをはじめいろいろとごたごたがあったのでだいぶ間が開いてしまいました。

辞めて暇になると思いきや仕事を探したりするとさほど忙しさは変わらないという・・・。


今回は唯人君の恥ずかしい台詞がありますがこういう台詞を考える才能無いと痛感しました。実際こんなこと言われたら普通ドン引きしそうですよね。一応そういう意図で言っている事にしてごまかしてますが・・・。

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