どう考えても一族大移動になりますの!
原作回避を決意したわたくし、フランシーヌ・オーレリア・ド・ルヴェリエには、ひとつ大きな問題がございました。
それは、わたくしが前世から一貫して、『面倒臭いことはごめんですの!』 というタイプだということです。
勿論、やるべきことはやりますわ。でも、わたくしでなくても出来ることなら、他の方にお任せしたいではありませんの。
前世で読んだウェブ小説の悪役令嬢たちは、それはもう八面六臂の大活躍をなさっておりました。ヒロインを避け、ヒーローを避け、ヒーローとの関係を改善し、攻略対象たちのトラウマを解消し……。とにかく、忙しそうでしたわ。
わたくしに、そんなことが出来るでしょうか? ……うん、無理。忙しいのはイヤですわ。
けれど、お父様もお母様も、お兄様たちも、大好きです。皆様が悲劇に見舞われる未来など、絶対に受け入れられません。ですから、原作回避はいたします。
いたしますけれど! 出来るだけ時間も労力もかけずに済ませたいのですわー!
では、極力労力が少なそうな方法は何でしょう。……ヒーローを避けること?
シルヴェストルお兄様を避ける? わたくしは、頭の中にシルヴィ兄様のお姿を思い浮かべました。 わたくしが突然距離を置いたら、きっと悲しそうなお顔をなさるでしょう。目を伏せて、しゅんと肩を落として。まるで、捨てられた子犬のように。
……。……あ、駄目ですわ。泣いた子犬が目に浮かんでしまいました。あの表情には勝てません。避けた瞬間に回れ右をして、頭を撫でくり回す自信しかございませんわ!
しかも、シルヴィ兄様はわたくしを避けさせてくださらないでしょう。わたくしが避ける頻度と速度の10倍くらいの勢いで距離を詰め、構い倒してくる未来が見えます。
もし、わたくしが本気で避け続けたら? ショックを受けたシルヴィ兄様を、マティアスお兄様たち3人が揶揄う光景が浮かびました。その後、3人のお兄様たちは、シルヴィ兄様が落ち込んだ原因を追及し始めるでしょう。そして、原因がわたくしだと判明したら……。
……。 ああ、駄目ですわ。 シルヴィ兄様は避けさせてくれませんわ!
では、定番の他国への留学はいかがでしょう。王都から離れれば、少しは原作の展開から距離を取れるかもしれません。留学先は……隣国しかありませんわよね? コシェ王国。将来、エーベル王国にとって脅威となる潜在的敵国です。
そんなところへ留学しようものなら、心配したお兄様たちが絶対についてきます。お父様は領地をお祖父様に任せて同行。お母様は社交界の仕切りを王妃様に丸投げして同行。そして、お祖父様は叔父様に領地を任せて同行。叔父様は他の親戚にあれこれ任せて同行。お祖母様はお祖父様についていらっしゃるでしょう。
……あら? これ、一族大移動ではなくって? しかも、なんだかそこにシルヴィ兄様もいる気がいたしますわ! ルヴェリエ家が一族総出で隣国へ渡り、更に第二王子殿下まで同行する。……戦争待ったなしではなくって? うん、留学できませんわー。
では、これも定番の方法。前世の記憶と、原作の展開を家族にお話ししてみるのはどうでしょう。家族の皆様なら、きっと信じてくださいます。わたくしが大切にされていることは、よく存じておりますもの。……信じてくださるからこそ、問題なのですけれど。
わたくしの脳裏に、恐ろしい光景が浮かびました。お父様と、3番目のお兄様であるラザールお兄様が剣を手に、シルヴィ兄様へ襲いかかる場面です。その後ろでは、ユルリシュお兄様が黒い笑顔を浮かべていらっしゃいます。え、待って。その手に持っているのは、毒薬!? ……シルヴィ兄様、命の危機ですわ! シルヴィ兄様は、まだ何も悪いことをしておりませんのに!
それに、家族がわたくしを守るために亡命する可能性もございます。亡命先は、コシェ……。……また戦争かしら。
駄目ですわね。わたくしが何かしようとするたびに、どうして一族大移動やら戦争やら、物騒な未来がついてくるのでしょう。逃げ道がございませんわ。
これ、回避行動を取りたくないのではなく、取れないのではなくって?
……何か、他に方法はないかしら。
ラノベ、ラノベ……。こういうとき、ラノベでよく出てくるものといえば、聖女や巫女、そして予言。……巫女?
そうですわ!! 我がルヴェリエ家のご先祖様には、何ともご都合主義なことに、『予言の巫女』がいらっしゃるのです!
予言。未来を告げる予言書。ご先祖様の名をお借りして予言書を作れば、わたくしが未来を知っていると明かさずに、家族や王家へ危機を伝えられるのではなくって? あとは大人の皆様にお任せすればよろしいのですわ!
「ご先祖様、可愛い子孫のために、お名前お貸しくださいましね?」
こうして、わたくしは予言書を作ることに決めました。
……ところで。どうやって作りましょう? ご先祖様の時代のものに見える書物でなければ、予言書としての説得力がございません。
古代語に、古代の羊皮紙。わたくし一人では、どう考えても無理ですわ。
けれど、ふと前世で読んだ物語のお約束を思い出しました。
「ステータスオープン! なんちゃって……って、ウィンドウが出てきましたわ!?」
……本当に出てきましたわ。わたくしの目の前に、見慣れないウィンドウが浮かんでおります。
そこに並んでいたのは、スキルの一覧でした。
『超!古代語書写読解』
『超!物質生成』
『超!物質変化』
『超!魔法転写』
『超!物質転移』
……何ですの、この「超!」のオンパレードは。まあ、今は細かいことを気にしている場合ではございませんわね。
おお、このスキルなら、ご先祖様の時代のものに見える予言書を作れちゃいますのね! なんと素晴らしいことでしょう。これで、わたくしが頑張って家族を説得する必要はございません。
予言書を作り、危機を予言し、あとは大人の皆様に丸投げですわ!
ふふふ。これなら、わたくしにも出来そうです。
わたくしは、さっそく予言書の作成に取りかかることを決意したのでした。




