予言書作りが進みませんの!
予言書を作ると決めたわたくしには、まずやらなければならないことがございました。それは、情報の整理ですわ!
前世で読んだ『王都の恋』シリーズ。とりわけ、わたくしが悪役令嬢として断罪される第4作『王都の恋は艶やかに』。そして、その後に続く物語。ヒロインのマノン・ボルドとシルヴェストルお兄様が恋に落ち、わたくしは嫉妬に狂った悪役令嬢として断罪される。その後、お父様もお母様も、お兄様たちも、わたくしを救おうとして破滅する。更に、ルヴェリエ家が去った領地を巡ってエーベル王国は弱体化し、隣国コシェに侵攻される。
……うん。改めて考えても、ろくでもない未来ですわね!
しかも、原作には災害や疫病なども登場いたしました。わたくし自身の破滅だけなら、まだ何とか出来るかもしれません。けれど、一族の未来に王国の命運まで絡んでくるとなると、話は別ですわ。
予言書には、出来るだけ正確な情報を記さなければなりません。いきなり古代語で書き始めるのは、流石に無謀でしょう。まずは日本語で、覚えていることをノートにまとめますの!
わたくしは机に向かい、ノートを広げました。そして、羽根ペンを手に取ります。さて、何から書きましょう。
原作の筋書き。災害や疫病。わたくしの断罪。家族の処刑。王国の衰退。……書き出しただけで、気が重くなってまいりましたわ。
けれど、ここで投げ出すわけにはまいりません。大好きな家族を、あんな未来から救うのですもの。
わたくしは真剣な顔で、ノートに向かいました。5歳児が黙々と勉強している。傍らで様子を見ていた侍女たちは、そんなわたくしの姿に感心しているようでした。
「お嬢様は、本当にお勉強熱心でいらっしゃいますね」
「ええ。まだお小さいのに、あのように真剣に取り組まれるなんて」
……違いますの。これはお勉強ではなく、我が一族の存亡をかけた極秘作戦ですわ。とはいえ、わざわざ説明する必要もございません。
わたくしは、再びノートに視線を落としました。
よし。この調子で進めれば、きっと大丈夫ですわ。そう、このときのわたくしは、心からそう信じていたのです。
まさか、ここからが本当の戦いになるとは思いもせずに。
ノートを広げ、漸く書き始めようとしたところで。
「フラン!」
元気な声とともに、三人のお兄様たちがいらっしゃいました。
……。早速ですの? いえ、まだ何も始まっておりません。ここでお兄様たちを追い返すなど、妹としてあるまじき行為。
わたくしは笑顔で振り返りました。
「どうなさいましたの、お兄様たち?」
「今日は一緒に庭を散歩しようと思ってね」
そう仰ったのは、長兄のマティアスお兄様です。包容力があって、優しくて、わたくしにとって自慢のお兄様。但し、わたくしに関することとなると、少々大人げない一面もございます。
「フラン、昨日はあまり一緒にいられなかっただろう? 今日はゆっくり過ごそう」
にこにこと微笑むマティアスお兄様。その隣では、ユルリッシュお兄様が何やら見慣れない玩具を持っていらっしゃいました。
「僕は、新しい遊び道具を用意したんだ。フランが好きそうだと思ってね」
……流石ユルリッシュお兄様。わたくしが何を喜ぶか、先回りして考えてくださったのでしょう。策士ですわ。
そして、3番目のラザールお兄様は、実に真面目なお顔で仰いました。
「今日は剣術の稽古を見せてあげよう。フランにも、護身のために覚えておいて損はないからね」
剣術。新しい遊び道具。お兄様との庭のお散歩。
……魅力的ですわね。いえ、いけません。わたくしには予言書作りという重大な任務がございます。
「お誘いは嬉しいのですけれど、今日は少し忙しいのです」
わたくしは、出来るだけ申し訳なさそうにお伝えしました。
すると。
「……忙しい?」
マティアスお兄様が、僅かに眉を下げました。
「フラン、私たちに遠慮しているのかい?」
「え?」
「そうそう。お兄様たちは、フランのためならいくらでも時間を作れるからね」
ユルリッシュお兄様が、にこやかに続けます。
「遠慮なんてしなくていいんだよ。僕たちはフランと一緒にいたいんだから」
ラザールお兄様も、真剣に頷きました。
「何か困っていることがあるなら、私たちに相談してほしい。フランのためなら、出来ることは何でもするから」
……。……困りましたわ。お兄様たちは、わたくしが遠慮していると思っていらっしゃるのです。
違いますの。遠慮ではなく、作業を進めたいのですわ。
けれど、お兄様たちがわたくしのために時間を作ってくださるのは、本当のこと。お忙しいときだって、わたくしがお願いすれば、きっと時間を作ってくださるでしょう。それを知っているからこそ、断りにくいのです。
「……では、少しだけですわ」
わたくしは、そう答えてしまいました。
「勿論!」
マティアスお兄様が嬉しそうに笑いました。ユルリッシュお兄様も、ラザールお兄様も、満足げです。
……少しだけ。そう、少しだけですわ。庭を一周して、お兄様たちとお話しして、それから遊び道具を試して、剣術の稽古を見せていただくだけ。それだけなら、すぐに終わるはずです。
ところが。
「フラン、こっちにも綺麗な花が咲いているよ」
「この遊び道具は、こうやって使うんだ」
「フラン、剣を持つときはこうするんだよ」
お兄様たちは、それぞれにわたくしを楽しませようとしてくださいます。誰も悪気などございません。寧ろ、わたくしのために一生懸命なのです。だからこそ、わたくしも笑顔で応じてしまうのですわ。
そして、気がついたときには。
「もうお昼ですね」
侍女の言葉に、わたくしは固まりました。
……午前が終わっておりますわ。ノートは? わたくしの机の上で、最初の数行を書かれただけのノートが、静かにわたくしを待っていることでしょう。
第一の敵。三人のお兄様。恐るべし、溺愛兄弟ですわ。
午後こそは。午後こそは、何としても作業を進めますの!
わたくしは昼食を済ませると、急いで自室へ戻りました。
ノートを開き、羽根ペンを手に取ります。さあ、続きを書きましょう。まずは原作の筋書きから――。
「フランシーヌ」
……。お母様? 振り返ると、オリアーヌお母様が優雅に微笑んでいらっしゃいました。
「お母様と一緒に、お茶はいかが?」
お茶。お母様とのお茶。……断れませんわ。お母様は社交界の華と呼ばれるほど美しく、優雅で、誰からも憧れられる女性です。
そして、わたくしにとっては、何より大好きなお母様。淑女としての振る舞いを教えてくださる一方で、まだ5歳のわたくしと過ごす時間を、何より楽しみにしてくださっています。
「今日は、新しい焼き菓子を用意したのよ」
「まあ!」
焼き菓子。それは魅力的ですわ。
「それから、フランに似合いそうなリボンも見つけたの。あとで一緒に見てみましょうね」
「リボンですの?」
「ええ。あなたの髪には、こちらの色も似合うと思うのだけれど」
お母様は、わたくしの髪をそっと撫でてくださいました。その手つきが優しくて、わたくしはつい頬を緩めてしまいます。
お母様との時間は、大好きです。美味しいお菓子をいただきながら、お母様のお話を聞くのも、お庭の花についてお話しするのも、とても楽しいのです。……だからこそ、断れませんの!
しかも、お母様はただお茶を楽しむだけではございません。
「フラン、カップはそのように持つと、より美しく見えるわ」
「はい、お母様」
「それから、相手のお話を聞くときは、少しだけ顔を上げて、目を合わせるのよ」
「はいですの」
「ええ、とても上手ね」
褒めていただけると、嬉しくなります。
けれど、気づけば淑女教育まで始まっているではありませんか。お母様は、わたくしの表情や言葉遣いをさりげなく見ながら、自然に教えてくださるのです。
流石は社交界の華。お茶の時間ひとつ取っても、無駄がございません。
そして、話題は尽きませんでした。新しい焼き菓子。似合うリボン。庭に咲いた花。どれも楽しくて、どれも大切な時間です。
……けれど! わたくしの頭の片隅では、ノートがずっと待っております。ノートが。ノートが、わたくしを待っておりますの!
お母様とのお茶が終わる頃には、午後もかなり進んでおりました。
「また一緒にお茶をしましょうね、フラン」
「はい、お母様……」
わたくしは笑顔で頷きました。
お母様は満足そうに微笑んでいらっしゃいます。そのお顔を見れば、わたくしも嬉しくなります。……ええ、嬉しいのです。
嬉しいのですけれど! ノートの進捗は、ほぼゼロですわ!
第二の敵。お母様のお茶会。愛情と淑女教育の合わせ技、恐るべしですわ。
漸く自室に戻ったわたくしは、急いで机に向かいました。
今度こそ。今度こそ、ノートを進めますの! 羽根ペンを持ち、書きかけの文章に目を落とします。
……よし。続きから書きましょう。
「フラン」
……。
今度はどなたですの!? 振り返ると、お父様がいらっしゃいました。
クリストフお父様。ベロワイエ公爵家の当主であり、忙しい公務をこなしながら、家族を大切にしてくださる方です。そのお父様が、手にお菓子を持っていらっしゃいました。
「菓子を用意したのだが、一緒に食べないか?」
……。お菓子。しかも、お父様がわたくしのために選んでくださったお菓子です。わたくしの好みをよくご存じのお父様が用意してくださるのですから、きっと美味しいに違いありません。
「まあ、お父様! ありがとうございますの!」
……言ってしまいましたわ。
けれど、仕方ございません。お父様は公爵としてお忙しい方です。そんなお父様が、仕事の合間を縫ってわたくしに会いに来てくださったのです。5歳の娘が、お菓子を差し出す父親に向かって「今は忙しいのでお帰りください」などと言えるはずがございません。
わたくしはお父様の隣に座りました。
「フランは、何をしていたのかな?」
「お勉強ですの」
「そうか。偉いね」
お父様は、わたくしのノートに目を向けました。
「こんなに小さいのに、きちんと机に向かっているのか。フランは本当に頑張り屋だね」
……。お褒めいただきましたわ。嬉しいです。とても嬉しいです。
ですが、お父様。今、わたくしがしているのは、普通のお勉強ではございませんの。予言書を作るための情報整理ですわ。
……などと言えるわけもございません。
「お父様、わたくし、少しだけお勉強を……」
「勿論。終わったらまた見せておくれ」
お父様は優しく頷きました。
そのお言葉に、わたくしはほっといたしました。そうですわ。お菓子をいただいて、少しお話しして、それから続きを書けばよいのです。
少しだけ。ほんの少しだけですわ。
ところが、お父様はお菓子を勧めながら、わたくしのお話を聞いてくださいます。わたくしが最近覚えた言葉を披露すれば、目を細めて褒めてくださる。好きなお菓子の話をすれば、次は何を用意しようかと考えてくださる。
そして、ノートに目を向けるたびに、頑張っているねと微笑んでくださるのです。
……。お父様は、何も悪くございません。寧ろ、お仕事の合間にわたくしのことを気にかけてくださる、とても素敵なお父様です。だからこそ、邪険になど出来ませんわ。
そして。
「では、フラン。私はそろそろ仕事に戻るよ」
「はい、お父様」
「勉強が終わったら、また見せておくれ」
「はいですの!」
お父様は満足そうに微笑み、部屋を出ていかれました。わたくしは、すぐさまノートへ向き直りました。さあ、続きを――。
窓の外が、茜色に染まっております。
……。……もう夕方ですわ。
第三の敵。お父様のお菓子攻撃。美味しいお菓子と優しい笑顔に、わたくしの作業時間は見事に溶けてしまいました。
お父様、ありがとうございます。でも、わたくしのノートが!
夜。わたくしは、机の前で深く息を吐きました。
今日は、ほとんど作業が進んでおりません。
お兄様たちと遊び、お母様とお茶をし、お父様とお菓子をいただき。どれも楽しくて、幸せな時間でした。……ええ、幸せだったのです。
ただ、わたくしには予言書を作るという大切な仕事がございます。家族の未来を守るためにも、少しは進めなければなりません。
しかし、ここまで邪魔が入るとなると、作業時間そのものを変えるしかないでしょう。家族が起きている時間に作業をするから、皆様がいらっしゃるのです。ならば、皆様が寝静まってから作業をすればよいのではなくって? わたくしは、名案を思いついたとばかりに顔を上げました。
そうですわ! 夜のうちに作業を進めればよいのです。今なら、誰も来ないでしょう。お兄様たちも、お母様も、お父様も、もうお休みになっているはずです。
……シルヴィ兄様を除けば。いえ、シルヴィ兄様だって、流石に夜中にいらっしゃることはないでしょう。そう信じたいですわ。
わたくしはノートを広げ、羽根ペンを手に取りました。さあ、漸く本番ですの!
「フランシーヌ」
……。……。……。嘘でしょう?
わたくしは、ゆっくりと顔を上げました。
そこには、シルヴェストルお兄様がいらっしゃいました。
シルヴィ兄様。七歳にして、わたくしを誰よりも可愛がってくださる再従兄。王族としてのお立場もございますのに、わたくしと一緒に過ごす時間を何よりも大切にしてくださる方です。
「シルヴィ兄様……どうなさいましたの?」
「フラン、今日は一緒にお昼寝が出来なかったね」
……。はい? わたくしは、思わず瞬きをいたしました。
今日は一緒にお昼寝が出来なかった。それは、確かにそうですわ。けれど、今はもう夜です。お昼寝をする時間ではございません。……なぜ、今からお昼寝のお話を?
わたくしには理解できませんでした。しかし、シルヴィ兄様にとって、わたくしと一緒に過ごす時間は、何よりも大切なものなのでしょう。今日、一緒にお昼寝が出来なかったことが、心残りだったのかもしれません。そう考えると、少し申し訳なくなってしまいます。
「フラン、少し疲れているのではないかな?」
「え?」
シルヴィ兄様は、わたくしの顔を覗き込みました。
「今日はずっと頑張っていたのだろう? 無理をしてはいけないよ。少し休もう」
……。いえ、シルヴィ兄様。わたくしは、確かに疲れております。お兄様たちと遊び、お母様とお茶をし、お父様とお菓子をいただいたのですから。
でも、それは決して、勉強を頑張ったからではございませんの! 今から頑張るところですわ!
そう申し上げようとした、そのとき。 シルヴィ兄様が、わたくしを優しく抱き寄せました。
「大丈夫。今日はもう休もうね」
「シルヴィ兄様、わたくしは……」
抗議しようといたしました。いたしましたけれど。シルヴィ兄様の腕の中は、暖かくて。声は優しくて。
わたくしは、今日一日、思った以上に疲れていたようです。まぶたが、だんだん重くなってまいりました。
……いけませんわ。ノート。予言書。家族の未来。わたくし、まだ何も……。
……。
……。
……。
そして、翌朝。わたくしは、すっきりと目を覚ましました。
よく眠れましたわ。体も軽く、頭もすっきりしております。
……。……あれ?
わたくしは、はっといたしました。昨夜、何をしていたのでしたっけ? そうですわ! 夜のうちに作業を進めようとしたのです!
慌てて机へ向かい、ノートを開きました。そこには。昨日と、ほとんど変わらないノートがございました。
「……一文字も進んでおりませんわ」
わたくしは、呆然と呟きました。
……。……。……ラスボスですわ。シルヴィ兄様こそ、ラスボスですわ!
お兄様たちの誘いも、お母様のお茶も、お父様のお菓子も、何とか時間を調整すれば作業を進められる可能性はございました。
けれど、シルヴィ兄様は違います。わたくしが疲れていると判断したら、休ませてくださる。そして、わたくしが眠ってしまうまで、優しくそばにいてくださる。それは、わたくしを大切に思ってくださるからこそ。
シルヴィ兄様には、何の悪気もございません。寧ろ、わたくしがぐっすり眠れたことを喜んでくださるに違いありません。……だからこそ、厄介なのですわ!
わたくしは、深く息を吐きました。お兄様たちも、お母様も、お父様も、そしてシルヴィ兄様も。皆様、わたくしが大好きなのです。それは、とても幸せなことですわ。
でも。でもですわ! わたくしにも、やるべきことがございますのー!
こうなったら、最終手段ですわ。
早朝と深夜。家族の皆様が起きていらっしゃる時間に作業を進めるのが難しいのであれば、起きる前と寝静まった後に進めればよいのです。わたくしは、固く決意いたしました。
翌朝。まだ屋敷が静かなうちに目を覚まし、机に向かいます。
ノートを開き、羽根ペンを手に取りました。
……よし。誰もいらっしゃいませんわ。
わたくしは、少しずつ情報を整理していきました。原作の筋書き。マノン・ボルドとシルヴィ兄様の関係。わたくしが断罪されるまでの流れ。その後に起こる、一族の破滅。王国の衰退。
覚えていることを、ひとつずつ書き留めていきます。勿論、前世で読んだ物語の内容を、全て正確に覚えているわけではございません。細かな台詞や出来事には、曖昧なところもございます。
けれど、大筋は覚えております。家族を救うために必要な情報を、出来る限り整理しなければなりません。
……。……。……。……眠いですわ。
5歳児の朝は、早いのです。まだ体が眠りを求めております。
それでも、わたくしは頑張りました。少し書いては目をこすり、また少し書いては姿勢を正す。そうして、どうにか作業を進めていきます。
夜も同じです。家族の皆様が寝静まった頃、わたくしは再び机に向かいました。眠気と戦いながら、ノートを開きます。
羽根ペンを動かしているうちに、文字がだんだん歪んでまいりました。
……あら? この文字、どうしてこんな形になっているのでしょう。 わたくしは書きかけの文章を読み返し、首を傾げました。……自分で書いたのに、よく解りませんわ。
いけません。眠気が限界に近づいております。わたくしは、頬をぺちぺちと叩きました。駄目ですわ。
ここで眠ってしまったら、また朝になってしまいます。そうしたら、きっとお兄様たちがいらっしゃるでしょう。お母様がお茶に誘ってくださるかもしれません。お父様がお菓子を持ってきてくださるかもしれません。そして、シルヴィ兄様がわたくしを休ませようとなさるかもしれません。
……。……。……。いや、最後の可能性は、かなり高いですわね。
わたくしは、眠い目を擦りながら、再び羽根ペンを握りました。
お父様も、お母様も、お兄様たちも。皆様、わたくしを大切にしてくださいます。わたくしだって、皆様が大好きです。だからこそ、皆様を悲劇から救いたい。
そのためには、わたくし自身も少しは頑張らなければなりませんわ。
……面倒臭いことはごめんですの。けれど、大切な家族を守るためなら、頑張りますわ。
わたくしは、眠気を堪えながら、ノートに向かいました。
少しずつ。本当に少しずつではありますけれど、作業は進んでおります。
これなら、きっと大丈夫。いつか、このノートをもとに予言書を作り、家族と王国の未来を変えてみせますわ。
わたくしは、ぐっと拳を握りました。
「一か月あれば、何とかなるはずですわ!」
……と。このときのわたくしは、そう信じておりました。
まさか、本当に一か月もの時間が必要になるとは。そして、その一か月の間にも、家族の皆様がわたくしを大切にすることを、少しもやめてくださらないとは。
まだ、知る由もなかったのです。




