第5話 アル見守り隊
あれから、父さんたちの行動が怪しい。
どこへ行っても、隠れながら僕についてくる。
……いや、隠れているつもりなんだろうけど。
「いや、バレバレなんだけど……」
木の陰から覗いている父さん。
壁の裏からこちらを見ている母さん。
そして、少し離れたところから僕を観察している姉さん。
――うちの家族、尾行下手すぎないか?
しかも、どうしてこんなことをしているのか、まったく思い当たることがない。
もしかして、何か悪いことでもしただろうか。
……いや、何もしてない。
だって、あの岩だって本気で斬ったわけじゃない。
僕としては、ただ軽く刀を振っただけだ。
それなのに、どうしてこんなに怪しまれているんだろう。
まあ、尾行されているからといって、僕のやることが変わるわけじゃない。
そして――明日から、ついに学園の試験が始まる。
僕にとっては、初めての学園生活。
どんな場所なのか、どんな人たちがいるのか。
楽しみな気持ちもあるけれど、それ以上に少しだけ不安だった。
「よし……明日の試験に向けて、今日も魔法の練習頑張るか」
僕は気持ちを切り替え、今日も魔法の特訓を始めた。
◆ ◆ ◆
一方、その頃――。
僕が知らないところで、家族会議が開かれていた。
「シエルの才能を気づかせてあげよう大作戦、まずは見守りから!」
父さんが楽しそうに言った。
「そうだね。普段の行動の観察から」
母さんも頷く。
「そう言って、もう一週間もそうしてるけど……」
私は呆れながら言った。
この一週間、家族全員で兄さんを観察している。
……正直、何をしているんだろうと思う。
「成果はあった」
姉さんがキメ顔で言った。
こういうときの姉さんは、大体カッコつけている。
「成果ってなに?」
「気づかせてあげるというのは、思ったよりも難しい」
「姉さん、それ成果って言わない。それに学園は? 父さんも母さんも仕事はどうした?」
「休んだ」
父さん、母さん、姉さんが同時に答えた。
「……この家族は」
思わず呆れてしまう。
でも――。
そんな家族だからこそ、私は嬉しかった。
兄さんに才能があることが、私は本当に嬉しい。
王族である兄さんに、時代遅れと言われている剣の才能が見つかった。
普通なら、誰か一人くらい馬鹿にする人がいてもおかしくない。
でも、この家族は誰一人として兄さんを蔑まなかった
むしろ、みんな喜んでいた。
私は、兄さんが自分の才能を意図的に隠しているんだと思う。
だから私は――。
兄さん自身が話してくれるまで、待つことに決めている。
◆ ◆ ◆
そして、次の日の朝。
「行ってきまーす!」
僕はルーナと一緒に屋敷を出た。
今日から、いよいよ学園の試験が始まる。
学園までは馬車で移動する。
馬車に揺られながら、僕は窓の外を眺めていた。
胸の奥が、なんだか落ち着かない。
楽しみなのか、不安なのか、自分でもよく分からない。
「ねぇルーナ、学園はどんなところかな?」
「兄さん、浮かれすぎ」
「ルーナは楽しみじゃないの?」
「楽しみだけど、兄さんが浮かれすぎ」
「試験ってどんなのかな。受かるかな……」
口に出した瞬間、急に不安になってきた。
今まで魔法の特訓はしてきた。
だけど、僕の魔法力は「無属性・星一つ」。
学園の試験で、僕はいったいどんな評価を受けるんだろう。
そんな僕を見て、ルーナが言った。
「大丈夫だよ。もし兄さんが受からなかったら、兄さんの分まで楽しむよ」
「辛辣。そこは頑張ってでしょ」
妹よ、兄さんは悲しい。
「兄さん、願っても結果は変わらないから」
「現実主義ー」
そんな会話をしているうちに、馬車がゆっくりと止まった。
窓の外を見る。
そこには、これから僕たちが通うことになる大きな学園があった。
「……着いた」
胸が高鳴る。
楽しみだ。
でも、それと同じくらい緊張する。
今日から始まる。
僕の知らない世界で、僕自身がどこまで通用するのか。
そして――。
「これから、試験が始まるんだ」
僕は小さく呟き、学園へと足を踏み入れた。




