8話 いざお出かけ
時はあっという間に過ぎて、一週間後のこと。
私は目覚めると同時にメイド数人に囲まれていた。
速やかに食事を済ませてから、急いで空色のドレスに着替える。
化粧をして、髪の毛を整えて……
「さあ、執務室へ行くぞ!」と意気込んでいたその時、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「僕です、カオンです!」
扉を開けるとカオンさんが笑顔で立っていた。
「カオンさん、どうしてここに……?」
「実は、夫人を執務室まで送り届けてほしいと言われまして」
(むむ、怪しい)
だって、あの私に関心の無さそうな公爵様が付けたってことでしょう?きっと、何か裏があるに違いないわ。
「あの、どうして送迎を……?」
「えっ?あー……」
カオンさんは前を歩いていたけれど、一瞬だけ固まるように止まった。
(ほら、やっぱり!)
カオンさんはこちらへ向き直ってから、こそこそと小声で話す。
「……実は、公爵様って小動物がお好きなんですけどね」
「えっ、意外ですね……!」
「きっと、夫人がウサギさんみたいに可愛らしいので送迎を頼んだんですよ……!」
そんなにウサギに似てるのかな?と、私は見られる範囲まで自分を確認する。
確かに、髪の毛がふわふわしてるからそのせいかもしれない。ウサギみたいだなんて思われたことないから、なんだか新鮮。
私がウサギなら……リメアはきっと世話焼きのリスね。カオンさんは耳のたれた犬で、公爵様はオオカミかも。
……なんて、皆を動物に例えていたら、前を歩いていたカオンさんが止まった。
「あっ、執務室に着きましたよ!」
執務室の扉は他の扉よりも厚くできていて、音を通したくないのが伝わってくる。私が控えめに扉をノックすると、革靴の音が聞こえてから扉が開いた。
「来たか。では行くとしよう」
「は、はい!」
カオンさんと別れてから、私たちは玄関に向かった。その間会話は一つもなかったけれど、カオンさんの話のおかげで少し恐怖が和らいだ気がした。
私たちは停められていた馬車に乗り込んだ。屋敷の窓からリメアとカオンさんが手を振っているのが見える。
馬が一度いなないてから、ゆっくりと動き始めた。
馬車の中は二人きりで、何となく居心地の悪いような空間が続いていた。
何より、公爵様の顔がとても怖かった。眉間がきつく寄せられていて、口はきゅっと硬く結ばれている。
私はこの状況をなんとかするために、必死に話題を探していた。
(公爵様は小動物が好きだって、カオンさんが言ってた)
小動物の話をしたらいいのかな……何の小動物?
好みも知らないし、怖い人ということしかわからない。なら、飼育の話が無難なのだろうか。
私は一人で頷いて、公爵様に向かって話を切り出した。
「あの……公爵邸では小動物は飼われてないんですか?」
「……急に何だ」
眉間にシワがさらに寄ってしまった。私は慌てて弁解しようとする。
「いえ……公爵様は小動物がお好きだと聞いたので……」
(やっぱり話すべきでは無かったかな?)
と、少しパニックになっていたその時——ガタン、と馬車が大きく揺れて、私は体勢を崩してしまった。
「……バランス感覚が無いのか?」
「す、すみません……」
私が謝った後、公爵様はまた無言になってしまった。笑いもしないけれど、怒るような素振りもない。
ここに来てからずっと、彼が何を考えているのかがわからない。
仕方がないので、私は寝たフリをして凌ぐことにした。窓へ頭を傾けてから、そっと目を閉じて到着を待った。




