7話 リメアの提案
食堂に入ってくるなり、私を見てすぐ眉を寄せる公爵様。
何故って言われても……ここに来てはいけないなんて言われてないし。公爵様こそ何故ここへ来たのだろう。
「はぁ……まぁいい。カオン、後で執務室へ来い」
「はい、わかりました」
カオンさんは、何故呼ばれたのか分かっていないという顔で返事をしていた。
公爵様は返事を聞くと、私を横目で見る。チラリと見る……というより、ほぼ睨む感じだった。怖い。
「公爵様」
すると、今まで黙っていたリメアが突然口を開いた。
「今度の休日、ルチェット様とお出かけなさってはいかがでしょう」
「えっ。ちょっとリメア……!」
止めようとしたけれど、その前に公爵様が口を開いていた。
「何故一緒でなければならない」
「休息と街の案内を兼ねて、です。どうですか」
リメアは怯えることなく言い切った。それから、私が遠くであたふたしているのを見て……
パチッ、と可愛らしくウィンクをされた。リメアは後で叱ったほうがいいかもしれない。
恐る恐る公爵様の方を見ると、視線が交わってしまった。彼は深くため息をついてから顔をそらす。
「……一週間後、朝食の後に執務室へ来てくれ。分かったか?」
言葉がすぐに出てこなかった。
「分かったか?」
「は、はい!!」
裏返りそうなほど震える声で返事をすると、公爵は食堂を出てどこかへ行ってしまった。残された私は……
「リメア……!」
「も、申し訳ありません。でも! お二人に仲良くなってほしいんです!」
キラキラした光線のような目を向けてくるから、つい許してしまった。
私は食事の後片付けをしてから、また台車を転がして宿舎を出る。
私は料理人さんと一緒に洗い物をして、一段落したら自分の仮部屋に戻った。
部屋に戻ると私の昼食が用意されていて、料理長からの置き手紙もあった。
『公爵夫人の手さばき、素晴らしかったです。気が向いたらまた来てくださいね。』と書いてあった。
(また近いうちにお邪魔してみようかな)
なんて思いながら昼食に手をつける。
昼食はお魚のムニエルだった。レモンの酸っぱさが口に広がって、とっても香ばしくて……
また食べたいと思いつつ、私はリメアと一緒にお出かけ当日の洋服を選んだ。
リメアが見せてくる服は、今日着ているものよりもずっと豪華で……小さな宝石があちこちに付いている。
派手なものは着たことがないのでやんわり断った。
私が選んだのは——薄い青色で雲みたいなフリルが付いた、晴れた空のようなドレス。
他は派手なものばかりで困った結果、比較的落ち着いたものを選んだのだ。
リメア曰く、ドレスは全て公爵様が適当に買ったものらしい。
「女性はキラキラした派手なドレスが好きなんだろう」という先入観からこのラインナップになったのかもしれない。
ドレスも選び終わって、公爵邸をリメアに案内してもらった。公爵邸は実家よりもやっぱり広くて、一人だと迷ってしまいそう。
雪の積もった庭園、もはや余っているたくさんのお部屋。色々な場所を巡って——いつの間にか空が紺色に変わりかけていた。
私たちは食堂へ向かって夕食をとる。デザートは濃厚なプリンだった。
そうして——波乱の一日はよくやく終わりを迎える。
「ではルチェット様、おやすみなさい」
「おやすみ……」
リメアがベッドメイキングを終えて部屋を立ち去った。ふかふかのベッドに体を預けながら、私は一週間後の事を考える。
街へ出かける。それは少しの息抜きと同時に——大衆の目に晒されるかもしれないということ。
(もし、何か失敗をしてしまったら?)
ぐるぐる回る嫌な考えを落ち着かせるために、私は深く息を吐いた。
きっと大丈夫。だって、今まで受けてきた事の方が辛かったもの。
意識して呼吸を繰り返すうちに、だんだんと瞼が下がってきた。そして、いつの間にか私は眠りについていた。




