表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6話 ポトフ


 リメアがティーセットを持ってきてくれたので、二人でゆっくり紅茶を飲んでいた。

 そこで、ふと気になったことを彼女に聞いてみる。

 

「リメア。私の事を助けてくれた方はどなたか分かる?」

 

 絶体絶命のあの時。私を助けてくれた男性にまだお礼が言えていない。

 リメアはポン、と手のひらに拳を当てた。それから、少し微妙な顔をしてこう言った。

「公爵邸騎士団の団長……カオンさんです。人懐っこい犬みたいな人ですよ」


(騎士団長!?)


 動揺を落ち着けるために紅茶を一口飲んで、呼吸を落ち着けた。


 「カオンさん、何処にいるのか知らない?」

 

 リメアは少し俯いてから、ボソッと呟いた。

「……今の時間なら訓練場にいらっしゃると思います。行ってみますか?」


「うん、行ってみたい。」


 リメアはしぶしぶといった様子で頷くと、上着を持ってきてくれた。

 けれど、いつもの凛とした姿とは違って、何やらそわそわしている。


「どうしたの?」


 私が首を傾げると、リメアは早口でまくし立てるように口を開いた。 

「カオンさんは結構面倒なタイプです。ルチェット様が色々な方と仲良くなるのは嬉しいんですが——」


「ですが……?」

「な、何でもありません!」


 リメアが顔を赤くして慌てている。なんだかそっとしておいてほしそうだったので、それ以上は追求しなかった。

 

「何か差し入れを持っていったほうがいいかな?」


「……きっと何でも喜んでくれると思います!」


 そう言ってくれて少し安心した。

 ここは公爵様みたいに怖い人間ばかりじゃないみたい。


 私は上着を羽織ってから部屋を出る。長い廊下をリメアと並んで進み、厨房へと向かった。


 ホールの階段を降りて、一階の廊下を通って——ようやく厨房に着いた。やっぱり広い。


「えっ、夫人!?どうしたんですか?」


 厨房に足を踏み入れた途端、料理長らしき人が驚きながらも話しかけてくれた。


 いきなり来て迷惑だったかな。

 そう思ったら緊張してしまって……もじもじ手先を動かして俯いてしまう。


 リメアをチラリと見たけれど——親指を立ててウィンクされるだけだった。そんなぁ。


 料理長がおろおろ困っているので、私は意を決して言うことにした。


「あの、騎士団の方々に差し入れがしたくて……!」


 料理長は目を見開いたあと、安心したように小さく息を吐いた。

「差し入れ……そ、そういうことでしたか。それなら昼食を一緒に作られますか?」


「い、いいんですか。よろしくお願いします!」

 私は手を入念に洗ってからまな板の前に立った。料理人の皆さんはチラチラ私を見ていて……


(なんだかむず痒い)


 やっぱり、突然婚約者が来て料理するのは変かな。でも、ここでやめたらカオンさんに会う口実がなくなってしまう。

 騎士団の方々は訓練で忙しいだろうし……


「さて。本日の昼食はポトフです」


「ポトフ……食べたこと無いです……」


「玉ねぎやじゃがいも等の野菜、それから肉を入れて煮込むんです。素朴ですが旨味が染み出てとても美味ですよ」

 料理長の説明に喉を鳴らしそうになったけれど、なんとか耐えきった。

 

 私は腕まくりをして、エプロンを着て、置かれた野菜と睨み合う。


 ——シュルシュルと野菜の皮を剥いていく。

 それからひたすらに、一口大に切っては鍋に落としていく。


 実家では昼食をこっそり作ることもあったから、料理はできる方だと思う。

 調味料を適量入れて、じっくり煮込んでいく。暫く待つと、とても優しくていい匂いがしてきた。


「はい、これで完成ですよ」

「美味しそう……!」


 湯気の立つポトフは、野菜とお肉がゴロゴロ入っている。スープも旨味が溶け出していて、キラキラと輝いていた。


「じゃあ、次はこれを宿舎の食堂まで持っていきます」


「わかりました、ふんっ……重い……です……」

 私はお鍋を持ち上げようと奮闘するも、一ミリも上がらなかった。


「……台車を使うんですよ」

 料理長から小声でそう言われた私は全身が熱くなった。

 

(は、恥ずかしい……!)

 台車で運ぶ物を自力で持っていこうとしちゃった……


 一人が台車を持ってきたので、料理長さんと一緒に台車に乗せる。

 それから、付け合わせのパンが大量に台車に乗っていく。焼きたてで香ばしい匂いがする。


 私は料理長と一緒に厨房を出た。

 台車をカラカラ鳴らしながら外廊下を歩いていると、木剣が交わる音が聞こえてきた。


 御者に襲われた時を思い出しそうになるも、首を振って違う事を考えた。


「こんにちは、どうされましたか?」

 すると、こちらに気づいた団員の一人が駆け寄ってきた。

 私はしどろもどろになりつつも、聞こえる音量でこう伝えた。

「あの、昼食を……」


 それを聞いた団員さんが、訓練場へ思いっきり叫ぶ。

「おーい、昼食の時間だってよー!」


 ピタリ、と剣の音が止まった。団員の方々が続々と宿舎へと入っていくのが見える。

 それを追いかけるようにして、私たちも宿舎の食堂へと向かった。


 

「今日の昼食はなんだろうな。」

「あぁ、お腹すいた……」


 綺麗に整えられた宿舎の食堂では、団員の方々がお腹を空かせて待っていた。

 色んな会話が聞こえてくる中、見慣れない場所にキョロキョロしていると——うっすら見覚えのある顔が。


「あっ、公爵夫人!!」

 私が話しかける前に、彼の方から気づいて口を開いていた。

 

「せ、先日はどうもありがとうございました!!」

 私が勢いよく頭を下げると、すぐに上げるように促された。 

 頭を上げてみると、チョコレート色の髪と瞳の男性が立っていた。

 

「覚えていて下さってたんですね! 僕、公爵邸騎士団長です。カオンって言います!」


 カオンさんは私を見て「顔色が良くなった」と言った。

(なんだか犬みたいな人だなぁ。リメアの言った通り)


 そう思いつつ、私はポトフのお鍋の蓋を開け、どんどんお皿によそっていった。


「うまそう!」

「公爵夫人が直々に……」

「俺、ちょっとタイプかも……」


 カオンさんの大きな声は、もちろん他の皆さんにも届いていた。

 いつの間にか、会話の内容は私と昼食で分かれている。


 配膳が終わると、団員の皆さんは勢いよく食べ始めた。

 

「いただきまーす!」

「うわ、うまい!!」


 それぞれポトフとパンを頬張って、笑顔で美味しいと言っている。

 嬉しさもあるけれど……頬張っている様子がリスみたいだ、なんて思ったりしてしまった。


 料理長とリメアと一緒に隅っこへ移動する。そこで皆さんの食事を見守っていると——突然、食堂の扉が静かに開いた。


「カオンはいるか……何故ここにいる」

 低い声、大きな体躯、薄い青の双眸。


「こ、公爵様。ごきげんよう……?」


 入ってきたのはなんと、公爵様だった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ