↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/15

13話 過去


「おい、起きろ」


 私は公爵様に肩を軽く叩かれて起こされた。悪夢をみていたようで、汗をかき目には涙が溜まっている。


 公爵様にそんな姿を見られたくなくて、ゴシゴシと目を擦って笑顔を作った。


「着いたぞ」 

「はい、すみません」

 

 馬車を降りると、リメアとカオンさんが出迎えてくれた。


「おかえりなさい!」

「ただいまです」


 リメアと私は、先に部屋に戻るように公爵様に言われた。カオンさんは公爵様とその場に残っていた。


 何か話すことがあるのかな。と、私はあまり気に留めなかった。


 部屋に戻ってすぐに、リメアがとてもいい笑顔でこちらを見る。それから——質問責めが始まってしまう。


 公爵様とはどうだったか、何か買ってもらったのか。


 今日の出来事を根掘り葉掘り聞かれ、リメアはそれを聞いて盛り上がっていた。


「公爵様が!? そんな行動をされたんですか!?」

 

「うん。馬車で帰る時も、揺れるからって隣に座らせてくれたの」 

「えぇっ!?」


 リメアは驚きと興奮の混じった顔で、私の手を両手で握った。


「ルチェット様、きっと公爵様に気に入られてますよ! よかったぁ、お出かけを提案して!」


「……気に入られてるの?」

「公爵様は女性に興味があまり無いタイプなので、金平糖を貰ったっていうだけで凄いんですよ!」


 リメアは心底嬉しそうに私を見つめている。別に、気に入られてても、気まぐれでも、どうだっていいのが本心なんだけど。


(私の求める幸せは、愛が条件とは限らないからなぁ)


 でも、公爵様に気に入られるとしたら……殺されるリスクは少なくなるはず。これは一歩前進でいいだろう。


 そういえば——


 公爵様は"顔は怖いけど、小動物が好きな人"という印象だ。見た感じ、無愛想だけど優しいような……そんな人が何故、残虐と呼ばれているのだろう。


「リメア、公爵様は何故残虐と呼ばれているの?」

 

「あ……」


 リメアは少し迷うような間があってから、意を決したように口を開いた。

 

「残虐という名前は——魔物討伐の際に、圧倒的な強さを誇るからです。情けをかけず、無慈悲に相手を斬っていくので……そう呼ばれています」


「な、なるほど……」


 リメアは膝の上で手を固く握りながらも、ぽつぽつと話し続ける。


「幼少期から……今は亡くなっていますが、父親に過酷な訓練を強いられておりました。その強さは訓練に耐え抜いて得たものです」


 一拍の間があってから、

 

「公爵様は、誰からも恐れられていたんです。それ故に、ずっと孤独に生きてきた方なんです」


 と言った。


 私は——いつの間にか、涙を零していた。


「……なので、公爵様には幸せになってほしいんです。幼少期から見てきましたが、あまりにも不憫で……」


 私は袖口で顔を拭いながら、リメアに問いかける。


「リメアは、幼い頃からここにいたの?」


「はい。私の母がここで働いていて、それで」


 ずっと、彼女は公爵様を見てきたんだ。それでも、公爵様は孤独だった。


(だからリメアは、私に公爵様と仲良くなって欲しかったのね)


「……私はね。公爵様と愛し合うつもりはないの」


 リメアはそれを聞いて驚いた顔をした。そのあと、少し下手くそな笑みを浮かべて目元を拭った。


「愛がなくても、ルチェット様ならきっと大丈夫です。聞いてくれてありがとうございます」


 頭を下げるリメアに、私はおろおろと手を動かした。それから、頭を上げるように言う。 


「顔を上げて……聞いたのは私だし、こちらこそありがとう」


 リメアがこちらを見たのを確認してから、私はソファに座り直す。


「あのね——私の生い立ちも、少しだけ知ってほしいの」


 それを聞いて、今度はリメアがおろおろし始めてしまった。 

「えっ、ルチェット様の生い立ちですか……? ご無理なさらなくても大丈夫ですよ」


 私は首を横に振って、黄色いリメアの瞳と目を合わせた。

「いつか、話さないといけないと思っていたから。」


 リメアが覚悟を決めたように座り、私は口を開く。暴力的な部分は外しながら、リメアに生い立ちを少しだけ話した。


 不当な扱いを受けていたこと、社交界に出たことがないこと、身代わりで結婚したこと。


 リメアは相槌をしながら聞いていたけれど、途中で鼻をすすっていた。


「リメア——これからも、私と仲良くしてくれる?」

「ううっ、勿論ですとも……!!」


 暗い話が続いてしまった。窓の外を見ると、夜空に丸い月が浮かんでいる。


 一度話を切り上げ、私たちは食堂へ向かった。夕食をとり、私達は浴場へと足を運ぶ。


 すると、リメアが「髪を洗わせてください」と申し出た。自分で出来ると断ろうとしたけれど、リメアはどうしてもやりたいそうだ。


 髪の毛を彼女のされるがままに、私は湯船にゆっくりと浸かる。ちょうどよい温かさで心地よい。


(今日は本当に色々なことがあったな)


「そういえば、公爵様の弟さんの奥さんに会ったの」

「あ、ディアナ様の事ですか? 綺麗な方ですよね!」


 ディアナさんたちが来るのは楽しみだけど、その前に。私はやりたいことが一つあった。

 

「私ね——貴族教育を受けてみたいの」


 私がぽつりと呟くと、リメアは髪を洗う手を止めた。


「貴族教育ですか……確かに、先程社交界にも出たことがないと仰ってましたね。いいと思います!」

 

「うん。早速公爵様に頼んでみようかな」


 明日の予定が一つ決まったところで、私は湯船を出て浴場を後にする。寝間着に着替えてからベッドに横になると、今日一日の疲れが波のようにやってきた。


「おやすみ、リメア」

「おやすみなさい」


 私はそのまま、眠気に導かれるように目を閉じた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。