12話 変化 +レアン視点
公爵様から金平糖を貰ってしまった。
断るのは失礼だと思ったけれど、報酬だと言われたら断るしかなかったんだもの。
しかも、少しだけ態度が変わっている気がする。今だって手を引いてくれていて、歩く速度も遅くしてくれている。
久々に死にかけたけど……公爵様が助けてくれたから生きている。掴まれた腕がまだ痛むけど、折れてはないと思う。
……思ったより優しい人なのかな?
私たちは言葉を交わすことなく歩いていた。やがて公爵様が立ち止まって——着いたのはレストランだった。
慌てたお店の人に案内される。一番眺めのいいテラス席に座って、私は渡されたメニューを見る。
どれも美味しそうだったけれど、値段を気にしてしまって中々決められないでいた。
「決まったか?」
「う……まだです……」
公爵様は私の様子を見て、何か察したらしい。
「値段は気にしなくて良い。それとも、俺は財力が無いように見えるか?」
「いえ、そんなことは!」
公爵様に煽られた(気がする)私は、仕方なく飲み物だけ頼んだ。
公爵様は不機嫌そうに見てきたけれど、ニコニコ笑って押し切ったわ。
しばらくして、頼んだ料理と飲み物が運ばれてくる。果肉がゴロゴロで、甘酸っぱくて目をぎゅっと閉じて味わった。
(公爵様、綺麗な食べ方)
つい見続けてしまって、慌てて向こうの景色に目を移した。街並みが綺麗に揃っていてとても壮観だった。
*
食事を終えた私たちは、店を出て乗ってきた馬車まで歩いた。無言が前よりも苦痛じゃない……気がする。
御者さんの手を、今度は躊躇わずに取った。そのまま馬車の中へ足を進める。
公爵様が座ると扉が閉められて、馬が鳴き車輪が動き出す。相変わらずゴトゴト揺れてお尻が痛い。
無意識に顔をしかめていたのか、公爵様に「顔がシワだらけだ」と言われてしまった。
(恥ずかしい)
すると、——ガタン、と大きな音を鳴らして馬車が揺れた。私は朝と同じようにバランスを崩して、頭を窓にぶつけてしまった。
「いてっ! ご、ごめんなさい……」
「こちらへ来い」
「えっ? わっ!?」
公爵様は向かいに座っていた私を自分の方に引き寄せ、すぐ隣に押し込むように座らせた。
「えっ、ええっ??」
(少し狭いわ……)
「なんだ、まだ揺れるか?」
「いえ、揺れてません。けど……」
何故、公爵様は隣に座らせてくれたのだろうか。なんだか様子がおかしい気がする。
(もしかして、気分を害してしまった??)
きっとそうだわ、私を捕まえておくために隣に座らせたに違いない。
私は慌てて向かいの席に戻ろうとした。けれど、公爵様がそれを腕で阻止してきた。
「俺の隣は嫌か?」
「いえ、滅相もございません!!」
「……なら座ってろ」
結局言いくるめられて、隣に座り続けることになってしまった。
色々あったせいで眠たくなってきた。
あぁ、私のまぶた。どうにか耐えて——
くれなかった。そのまま私は夢の中へ旅立ってしまった。
◆◆◆
「……すぅ」
(ん、寝たのか?)
横に座る彼女が頭を預けてきたのをきっかけに、俺は彼女を観察することにした。小さい彼女はすうすうと寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っている。
しばらく見ていると、だんだん呼吸が荒くなってきた。
「う……嫌……」
俺は変な夢でも見ているんだろうと思い、無視しようとした。だが——次の寝言がそれを拒否させた。
「痛い、お父様……やめて……」
ルチェットは涙を一筋流し、眉を寄せ悲痛な表情をしている。
俺はそれを見て眉を少し上げた。が、咎めることもなくそのままにしていた。
(別に、咎める理由がなかっただけだ。彼女が夢を見て変な事を言っているだけだろう)
しかし、しばらく俺は彼女のつむじから目が離せなかった。




