第7話 私の好きな人
「好き…」
空色の長い髪の“青子”は、ひっそりと、ささやく。
“青子”。
謎めいた美少女。
恋する女の娘。
あの人に、届けたい。
好きな気持ち。
大好きな気持ち。
心の底から、あふれるこの気持ち。
何で、気づいてくれないの?
私、ここにいる。
ずっと、見つめてる。
霊力が無いから、私のこと見えないのね?
だから、他の女の娘を好きになってしまうの?
私の恋人になってくれないの?
…返事が無い。
「江西さん…」
名前を呼んだ。
返事が無い。
江西さんは、青子以外の、人間の女の娘を見つめている。
江西さんは、人間。
妖怪と人間は、恋してはいけないの?
「私は、江西さんが…好きな女の娘。妖怪の女の娘」
ただ、この気持ちが届いてくれれば良いのに。
ただ、願い続ける。
第7話 私の好きな人
学校帰りの寄り道。
三角神社。
無人の小さな神社。
「ケンジの明るいところが好きなの」
ソウルチャイナローブに身をまとった遊呼は、瞳を輝かせる。
普通の人に見えない状態で、神様と人間の女の娘が会話をしていた。
人間の女の娘は、遊呼のことである。
神様は、自称・恋愛の神様の女媧さまと、その弟二人。
弟の伏犠くんと神農さんは、見習い神様らしい。
「そうか。そうか」
天界の仕事を終えた女媧さまは、遊呼の話をゆっくり聞いている。
女媧さまは、天界の偉い大人の神様らしい。
忙しい合間に、遊呼に会いに戻ってきたばかり。
聞いている話は、遊呼の好きな幼なじみのケンジのことだ。
遊呼がケンジと会ったのは、幼稚園のころ。
一人で、砂遊びをしていたら、ケンジが話しかけてきた。
「…オレと遊ぼうじゃん」
ケンジは、幼稚園児の時から、明るく元気。
同世代の園児たちからも、先生たちからも大人気の男の子であった。
反対に、遊呼は無口で無愛想な園児だった。
集団行動が苦手だった。
いつも、遊ぶ時は、一人で遊ぶ。
一人で遊ぶのが楽しかった。
一人で遊ぶ、砂遊びが一番楽しい。
「一緒に、遊ぼうじゃん」
ケンジは、無口な園児の遊呼の隣で、砂を集める。
その砂を、遊呼の砂で作った山にかける。
「…や、やめてよー」
慌てる遊呼。
ケンジは、さらに砂をかけ続ける。
「大きくしようじゃん」
「え?」
「大きくしたほうが楽しいじゃん」
「えー?」
驚く遊呼の前の砂山は、どんどん大きくなっていく。
砂は、高々とかけられてしまう。
それをニヤリと笑うケンジ。
ドサッ
小さなケンジは、砂山の上にダイブする。
砂山は、砂煙をまき散らしながら、壊れる。
ケンジはというと、全身砂だらけ。
園児服も汚れてしまっている。
先生や親に怒られるんじゃ…?
「…だ、大丈夫?怒られちゃうよー」
遊呼は、心配になって言う。
「めっちゃ、楽しいじゃん。アハハじゃん」
大笑いするケンジ。
全然、園児服のことを気にしていない様子。
それを見ていた遊呼も、だんだん笑いがこみ上げる。
「アハハ!ケンジくん、お洋服、砂だらけー」
「大丈夫じゃん。お洗濯あるじゃん」
ケンジは、Vサインをしてみせる。
「アハハ…!アハハ…!」
これに、遊呼は大笑い。
「遊呼。友達になろうじゃん?」
「え?」
「オレのことは、ケンジって呼んでほしいじゃん。これからは、一緒に遊ぼうじゃん」
それから、遊呼とケンジは仲良くなった。
「一緒に笑う人がいるって、楽しかった。その時から、ケンジのこと好きになったの」
遊呼は、「失恋したけど」と言葉をたす。
「…良い、恋バナじゃのう。恋愛じゃのう」
女媧さまは、感動している。
「そんな恋するような話に思えないぞ…」
「可愛いお話ですね」
弟二人。伏犠くんと神農さんも、それぞれ感想をのべる。
「好きだったな…」
遊呼の想いは、届かなくなった。
今、ケンジは、ミホのことが好き。
学校の屋上で、キスしていた。
目撃した。
ミホとは、電話を通して親友でい続けることを約束しあったけど。
ケンジとは、あれ以来、話をしていない。
コオオ…ン
遠くから、キツネの鳴き声がする。
「空狐じゃな」
女媧さまの言葉のあと、空から空狐が一匹。
「恋愛話に水を差してしまうが、闘うのじゃ。遊呼」
「…え?また?」
遊呼は、闘うことになる。




