第5話 ミホからの電話
極楽堂家。
ちょっと変わった苗字の家だが、ごく普通の一軒家。
遊呼の自宅だ。
その昔、代々続いた銭湯をしていたとか、してはいなかったとか?
江戸時代頃には、温泉宿だったとか?
よく、幼なじみのケンジと推理ごっこをしたことがある。
楽しかった、幼少時代の思い出の一つだ。
極楽堂遊呼は、少し笑う。
「…」
「…顔色が悪いぞ」
玄関前。
遊呼の隣には、伏犠くんと青いウサギがいる。
三角神社からついてきたのだ。
「あなた、三角神社の人じゃないの?」
「三角神社は、夜に何も起きないぞ。オレは、遊呼が心配だから、一緒にいるぞ。家に泊まらせてもらうぞ」
「家に泊まるの…?」
「そうだぞ」
「…無理!」
遊呼は、両手でバツ印を作る。
極楽堂家は、母と姉との三人暮らし。
母は、浮気した父と別れたシングルマザー。
家族は、女性のみ。
家に男の人を入れるワケにはいかない。
「あの外の駐輪場に泊まるから、大丈夫だぞ」
「え…?駐輪場?」
「オレの姿は、遊呼にしか見えないぞ。気にしないでいいぞ」
伏犠くんは、言った。
家の駐輪場に泊まるが、何かあれば駆けつける。
手出しとか、そういうことは絶対しないと誓う。
「…うーん」
遊呼は、伏犠くんは、絶対に手を出して来るタイプに見える。
断わろうと思う。
「家に泊まるのNGだから。三角神社で寝泊まりして!」
「う…、わかったぞ。三角神社で寝泊まりするぞ」
案外、素直に伏犠くんは、引き下がった。
すごすごと、三角神社に帰っていく。
ガチャッ
その時、玄関のドアが開いた。
遊呼の母・極楽堂両子だ。
「遊呼。今日、スマホを家に置いたままだったでしょ。いつも、そうだけど」
「え、あ、うん…」
スマホを、遊呼は持ち歩かない。
落とし物にしたくないからだ。
スマホは、家でゲーム時間を楽しむ専用。
家でのゲームが、遊呼の趣味の時間である。
「お友達のミホちゃんから、電話が何度もかかってきてたわよ」
「え?」
第5話 ミホからの電話
二階。遊呼の部屋。
スマホから、ミホに電話をかけた。
「…ごめん。…ごめんね。遊呼」
すぐに、ミホは応答して、何度も何度も「ごめんね」と言ってきた。
遊呼も、反対に、何度も何度も「ごめん」と言い返した。
ケンジのことだ。
「ごめんね…」
何回目の言葉だろうか。
ミホは、泣きはじめてしまった。
ごめんね。遊呼。
ケンジが、好き。
遊呼も、ケンジが好きだった?
知らなかった。
ケンジに、告白した。
付き合おうと言われた。
そのまま、すぐキスした。
「うえー…。ケンジが好きなの。ごめんね…」
ミホは、泣きやまなかった。
「うー…。私も、だったんだよ…」
遊呼も、泣きやまなかった。
二人して、スマホ越しに相手の泣き声を聞いていた。
自身も、それぞれ泣いていた。
何で、こんなに泣いているのだろう?
同じ“好き”を確認し合う二人。
ミホは、友達をやめたくないと言う。
遊呼とずっと親友でいたいと言う。
「うー…。私も、ミホとずっと親友が良いよー」
泣きながら、遊呼はスマホを握りしめる。
ケンジのことで、ミホを悪く思うつもりなんてない。
絶対、無い。
上手く表現できないけど、許せる。
ミホは、何も悪くない。
悪いのは、自分だ。
親友のミホの気持ちも知らずに、ケンジとお付き合いしようと思ったから。
悪いのは、自分なんだ。
「これからも、友達でいようね…!」
お互いに確認し合って、通話を切る。
涙は乾いてきた。
何か、気持ちが切り替わった。
ミホとは、親友のままでいられる!
心の底から、それがうれしかった。
「…ミホ、大好き!」
遊呼は、満面の笑顔で言った。
すごく、うれしかった。




