009●走るのが速い男子って
体育大会は楽しみだけど、少し憂鬱だ。運動はあまり得意ではない。それもあって美術部にいる。でも、みんなで何かを作り上げていくのは嫌いじゃない。今年も緑団になった。迷わずマスコット係になる。ジン君も同じ団よね。彼は何をするのだろう?
「私、黄色団になっちゃったあ。」春にクラスが分かれた友達がやってくる。
「今年は何やるの?」
「当然、今度も応援団!かっこいいじゃない。」
彼女は活発だ。マスコットも櫓も、ましてや応援席の建設係なんてするとは思えないよね。
「応援合戦でも赤、白、緑には負けないよ。で、なにやるのよ?」
「マスコット。美術部員らしいでしょ?」
「あっ、やっぱり〜!放課後は結団式、いよいよだねえ。」
校庭の四隅に各団が集まる。3年の団長があいさつをし、各担当係のリーダーを紹介する。よかった、マスコットは美術部の先輩だ。あの大きさの張り子だから、力仕事にもなる。どんな男子たちがくるのだろう。
ふ〜ん、ジン君は応援席の建設係なのね。まあ、彼らしい。目立たず、文字通り、縁の下の力持ちだね。
櫓が立つ。団のみんなが集まる。横倒しになっている櫓にロープをかけ引っ張る。引く側の反対の足を支えるのも、男子たち。柔道部のエース、体が大きい!無事に立った櫓を見上げ、櫓係のリーダーがあいさつ。
「いやあ、こんなにまっすぐ立つとは意外でした。わりと適当に目分量で作ったんだけど。」
爆笑!!櫓の前には、丸太と板で作った応援席のスロープもほぼ完成している。マスコット、仕上げをいそがなくっちゃ。
開会式前の校庭。スロープの後に櫓、それにもたれ掛けさせて固定したマスコット。どの団のものも華麗でユーモラスだが、我が緑団は龍だ。う〜ん、かっこいい。私がひとりでやったんじゃないけどね。さあ、整列する時間だね。
競技が進む。スロープに座っていた男子全員が入場門に移動を始める。棒倒しだ。太く長い棒を支えている相手陣地に突進するのは、3年生が多い。
ピストルが鳴る。それぞれの男子が途中で交差して、相手陣地の棒に群がる。周りをがっちりと、主に1・2年生が背を向け腕を組み、何重にも密集して守っているけど、裸足で彼らを踏みつけていく。これは過酷だなあ。去年も見たけど「結構痛かった」って男子たち、言ってたっけ。
あっ、白団の棒が倒れる!私たちの勝ちだね!でもうちの棒、あんなに何人もぶら下がられているのに、倒れないの?
ピストルが鳴る。勝負あり!棒を守っていた男子が外側から囲みを解いていく。棒の中心に座り込んで根本を抱えているのは・・・柔道部のエースとジン君だ。えっ〜、一緒に中心を守るって、彼ってそんなパワフルだったの?
お昼になりスロープでお弁当を食べていると、何か下の方で音がする。なんだろう?不思議に思っていると、横の隙間からジン君が出てきた。
「なにかしてるの?」
「あっ、やかましかった?応援席の横板の針金を留め直していたんですよ。」
「それ、工具なの?」彼が手にしているものをみて尋ねる。
「シノっていうんです。番線、えっと針金をキュッと締めるに便利なんですよ。」
間隔が空いて外れかかっていた幾つかの横板は、きれいにつながっている。
「お昼休みに修理するのも、建設係の役目なの?」
「いえ、そういうわけではないんですけど。やっぱり危ないかな、と思って。」
ジン君らしいなあ。あらためて体育着の彼を見る。筋肉モリモリじゃないけれど、なんかしなやかに引き締まってるのね。・・・やだ、わたし、何見てんだろ。
「じゃあ、ご褒美にウインナー1つあげるよ。」
「わあ、それはうれしい!」
口の中にお箸で1つ放りこむ。
「午後からの競技、何にでるの?」
「1年生の男子800mリレー。1人が200m走ります。」
「ふ〜ん、がんばってね!」
「はい!」
べつに待っていたわけじゃないけど、1年男子800mリレー、入場してきた。トラックは1周200mだから、バトンタッチはスタートラインと同じなのね。
えっと遠目にみると。ジン君、緑のタスキをかけてる。アンカーなの?ふ〜ん。足、速いのかなあ。
ピストルがなる。第1走者は途中までセパレートコース、赤の子、速いなあ。
「赤団、第1走者とアンカー、陸上部なんだって。中学の大会でいい記録だしたらしいよ。」となりの子が言う。そりゃあ、速いよね。
第3走者でだいたいゴール順位がみえてくる。赤、黄色、白、緑。赤と緑の差はかなりある。次々とアンカーにバトンが渡されていく。ジン君が走り出す。あれっ?やけに速いんじゃないの?1周が長いから、これはもしかすると?白を抜いた・・・黄色も抜いた。最後の直線、うわっ、陸上部も抜くの?
応援席に彼が戻ってきた。
「おつかれ。速かったね。」
「ありがとう、です。ソーセージパワーのおかげですね。」
それは口説き文句か?いやいや、自意識過剰だぞ、わたし。
「あの子、速かったね。ちょっとステキじゃない?」
閉会式が終わり、応援団を満喫した彼女が言う。
小学校や中学校のはじめぐらいまでは、足の速い男子はモテる。でも、さすがに高校生ともなると、そんな単純なもんじゃない。「女性は強い男性を本能的に求める」なんて言う哲学者がいたけど、強いだけじゃだめよね。やさしいだけっていうのもどうだかだけど。
「ねえ、彼って美術部なんでしょ。紹介してよ。」
やっぱり活発な子だ。
「でも、年下だよ。」
「年下の男の子はカワイイのよ。」
「なに言ってるんだか。ジン君は恋だとか、そんなもんに興味はないの!」
「ふ〜ん・・・。やっぱりね。じゃあ、やめといてあげる。」
「なによ、それ。」
「いいから、いいから。がんばんなさいよ。」
それだけ言うと、彼女は手をヒラヒラさせながら去っていく。
「ちょっと、ちょっと、それって、どういうことよぉ〜!」
何だか頬が熱い。走るのが速い男子って
「それだけでモテると思ったら、大間違いなんだからあ!」




