表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/99

095●遠い道のり

何度目かの停戦交渉の場は、戦場から遠く離れた中立地帯の古い城館だった。

石造りの広間に、冷たい風が吹き込む。

ウィルフレッド・フォンベルト・アンダーソン子爵は、軍服に身を包み、まっすぐに敵の将を見据えていた。


その相手・・・ヴァルター・グレイヴス将軍は、灰色の軍服に巨躯を包み、老練な鷲のような鋭い眼差しで彼女を迎えた。

「・・・あなたが、あのローレンス卿の身内か。」

その声は低く、しかし敬意を含んでいた。

「はい。ウィルフレッド・フォンベルト・アンダーソン、我が王の名代として、ここに参りました。」

ウィルフレッダの声は凛としていた。

彼女は兄の爵位を継ぎ、男として振る舞うことを王命により義務づけられている。

だが、目の前の男は、彼女の内にある’妹’としての存在を見抜いていた。

沈黙が広がる。


「もう、どれぐらいになるのだろう?・・・あなたの兄は、我が軍の進撃を止めた。その意志の力で。」

ヴァルターはゆっくりと言った。

「我々は勝っていた。だが、彼が立ち続けたことで、兵士たちは進むことを拒んだ。私は、追撃を止めた。」

ウィルフレッダは目を伏せず、まっすぐに彼を見た。

「それは、あなたが、もう戦えなくなった、ということだったのですか?」

ヴァルターの老いた顔に、わずかな苦い笑みが浮かぶ。

「そうだな。あれは、彼の勝利だった。彼の勇気、国を思う決意は、我々の心に響いたのだよ。」

ウィルフレッダの胸に、何か熱いものがこみ上げた。だが、それを表に出すことはしなかった。

「兄の死は、私に道を示しました。私は、彼の跡を継ぎ、国を守ります。あなたが敬意を持って兄を語るなら、私もまた、あなたの戦士としてのご厚情に感謝します。」

ヴァルターは静かに息を吐き、ウィルフレッダに言った。

「ローレンス・フォンベルト・アンダーソン。彼の名は、我が軍の記録に残してある。敵としてではなく、英雄として。」

ウィルフレッダは一歩前に出た。

「ならば、彼の弟として、あなたに問います。戦争をやめることはできませんか?恒久的和平は望めぬものなのでしょうか?」

ヴァルターは目を閉じる。

「・・・ローレンス卿の意志を継ぐ者として、あなたが、彼を超える日が来ることを願っている。」


その言葉に、ウィルフレッダは静かに頷いた。

広間の空気は、戦の残り香をまといながら、静かにして確かな敬意と未来への望みをたゆたわせている。

それでもなお、完全な和平への道は遠い。


ロイ・ラベンダー・エンジェラムが、この世界線に現れるのは、もう少し後のことである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ