092●ローレンス・フォンベルト・アンダーソンの最期
戦場は、灰色の空の下、血と泥にまみれていた。敵軍の旗が地平線を埋め尽くし、雷鳴のような鬨の声が、湿った大気を震わせる。王の退路を確保する時間を稼ぐため、ローレンスはわずか百名にも満たない家臣団を率いて、最後の防衛線に立っていた。
彼は文官だった。剣を振るうことよりも、ペンを走らせることに長けていた。
だが今、彼の手には、友から譲り受けた鋼の剣が握られている。
父とともに参戦したこの戦争で、彼は自らの役割を超えて、国と民を守る剣となり盾となることを選んだ。
「陛下の退路確保を頼んだぞ。国を、民を、未来を守るために。」
その言葉を最後に、彼は伝令に背を向け、敵の波に立ち向かった。
郷里にも王都にも、これ以上、近づかせてはならない。
軍閥貴族や近衛兵を含む「精鋭軍団」は、あまりの物量の差により連敗につぐ連敗を喫し、雪崩を打つがごとく、我先に敗走している。
彼の胸には怒りと冷静さが混在していた。
家臣たちは何も言わず、ただ、彼の背に続いた。
矢が降り注ぎ、槍が突き出され、仲間が次々と倒れていく。
だがローレンスは退かない。
彼の瞳は炎のように燃え、剣は伝説の聖剣もかくや、敵を薙ぎ払った。
やがて、彼の体は傷だらけになり、血に染まった衣が風に翻る。
膝は震え、呼吸は浅くなっていた。
それでも彼は立ち続けた。
王が無事に退却したことを確かめると、彼は最後の力を振り絞り、敵の前に立ちはだかった。
そして・・・。彼は剣を地に突き立て、両手でその柄を握りしめ・・・立ったまま絶命した。
その姿は、まるで生きているかのようだった。
睨みつけるような眼差しは死してなお鋭く、敵兵たちは近づくことができなかった。
誰もが、彼がまだ生きているのではないかと恐れた。
「・・・あれが文官だと? 無類の戦士ではないか・・・。」
敵の百人隊長がそう呟いた。追撃の命令は下されなかった。
ローレンスの死は、敵軍の進撃を止めた。彼の犠牲によって王は逃れ、国は滅亡を免れた。
後に、彼は次のように語り継がれることになる。
「死してなお、戦場を支配した男」
「睥睨する死者」
「剣を握る文官」と。
そして、後年、彼の妹ウィルフレッダは、その爵位を継ぎ、ラベリアの前に立ちはだかることになる。
そのよき理解者と共に。




