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007●凍てつく時間

出陣して3日目だ。敵はまんまと陽動にのった。遠方からここまで再結集するには、時間がかかる。無人の野を行くがごとし。昨日はわずかな兵士と交戦した。警備隊程度、蹴散らしてやった。

気分がいいのか、今朝はやけに早く目が覚めた。よく寝たわりに体が重い感じがする。やはり戦闘意識を維持するのは、この歳ではきつくなってきたかな。そのうち、前線からは外されるかもしれんな。


「おはようございます、隊長!」

「ああ、おはよう。」

部隊の連中にこたえる。若いわりに重々しいゆっくりとした言葉だ。いや、自分自身も話し方がいつもより遅いように思う。

「隊長、どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。今日はボレリアの町をもう1つ落とすぞ。」

「はい!」


朝食を済ませ命令を待つ。ようやく集合がかかる。将軍が激を飛ばす。

進軍速度で移動を始める。どうも思うように動いていない。川の中を渡るように、わずかではあるのだが、歩みに抵抗を感じる。おかしいな。疲れているのかな。並行する百人隊長が寄ってくる。

「おい、聞いたか、あの話。」

「なんのことだ。」

「将軍に、敵から警告が届いたというやつだ。」

「ん?」

「なんでも進軍を続けるにつれて、呪いがかかるんだと。」

「くだらん。我らには神のご加護がある。」

「そうなんだが。領土に入るにつれ‘凍てつく時間’を味わうことになる。ご注意されたし、というんだ。」

「凍てつく時間?」冬はまだ遠い。だからこそ、この時期に侵攻している。

「ばかばかしい。凍り付く魔法でもあるというのか。」

「魔法か。ボレリアには魔法使いが現れたというぞ。」

「俺は生まれてこのかた、そんな連中に出くわしたことはないぞ。まあ、ニセモノやインチキの、自称魔法使いは見たことはあるが。あれは見世物でやっているだけだ。」

これだけの会話に随分と時間がかかる。


昼前には最終駐留地点に到着した。食事を交代でとり、武器や防具の最終点検をする。予定どおりだが、なにかゆったりとしている。気持ちに余裕があるからなのか。あれこれいろんなことを考えてしまう。もっと集中しなければ。


町が見える。おや、わずかな兵が布陣しているな。せいぜい300か。我らの100分の1だ。一気に討ち取り、町になだれ込むぞ。ん?馬に乗った3人が出てくる。降伏の使者か?先頭の男が口を開く。

「これ以上、前に進むことはおやめなさい。さらに、凍てつく時間に包まれますぞ。」

距離があるわりに、はっきりと声がとどく。おっ、突撃のラッパだ。いくぞ!


「ラベンダー伯、こればかりの兵で大丈夫なのか。」

わたしは心配でならない。陛下から出陣の依頼を受け、この地についたのが昨日の夕方。軍監と指名を受けたからには、同行しなければならぬ。主軍が多方面での迎撃に進軍したため、たったこれだけの軍勢しか残っていない。どうやって、あの大軍に立ち向かうというのだ。

「もうすでに迎撃態勢は整っています。では、行って参ります。」

敵軍は突撃に入ろうとしている。伯が馬に乗り、2人の従者をつれて進んでいく。もう、矢が届く距離だが、躊躇なく近づいていく。やけに甲高い早口な声が響く。

「これ以上、前に進むことはおやめなさい。さらに凍てつく時間につつまれますぞ。」

力強いラッパの音がした。次の瞬間、敵が一斉に攻め込んでくる。両翼の騎馬が突進している。歩兵が駆け足で迫ってくる。速い!数が違いすぎる!だめだ、逃げよう!


どうした、体がさらに重くなった。いや、反応しない。騎馬の突撃もいやにゆっくりしている。これでは突撃ではなく並足だ。体が進まん。一歩一歩、ぬかるみを行くようだ。

くっ、まるで動かん。俺だけか?いや、追い抜く者はいない。やっとのことで横に目をやる。我が隊の兵が走っている。むっ、空中をゆっくりと跳んでいる姿が見える。

視線を戻すにも時間がかかる。正面の敵の騎馬、3人が邪魔だ。あの先頭の武装もしておらぬ輩を血祭にあげてやる。


だめだ。動けない。ほぼ完全に止まっている。視野に入る景色も止まっている。


・・・どれくらい時がたったのか。感覚的には数日は過ぎたように思う。体は動かず、景色は止まったまま。意識だけが、この奇妙な沈黙の中で、無限に引き延ばされるようだ。このまま、ずっと止まっているのか。真冬の凍った池に閉じ込められた小魚のようだ。どうにかならないか?


少しずつ動き出した!だが、進もうとすると、また止まる。いかん、後退だ!


どんどん敵兵が迫ってくる。息遣いが聞こえそうだ。もうだめだ、逃げよう。傍らの従者の大声が聞こえる?!

「ご主人様、敵が逃げていきます!」

慌てて振り向く。敵兵が退却していく・・・。どういうことだ?・・・。確かに敵は猛攻撃を始めた。はっきりと見た。騎兵はみるみる近づいてきた。歩兵の雄たけびも、まだ耳に残っている。それが一斉に歩みを止め、なぜ退いていく?伯の姿が見える。彼を恐れたのか?何があった?何をした?


ーうまくいきましたね。

わたしの言葉に、マイロードはわずかにほほ笑む。

ーだれも命をなくさず、このまま終わるのが一番だろう、ムサシ?

ーいかにも。互いの憎しみが連鎖拡大していくことはよくありません。

ーでは、退却の様子を継続してモニターし、報告してくれ。思考加速は彼らが遠ざかるにつれて解除だ。リョウマと王虎も、それぞれ王都と帝都のモニタリングを続けるように伝達。

ー承知いたしました。


何と報告すればよいのか。尋ねても「科学という魔法です」としか答えぬ。見たままを伝えるしかあるまい。筆頭大臣は何というだろう?不思議な男だ、ロイ・ラベンダー・エンジェラム・・・。


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