034●たいへんね、あなたって
「俺もラボのメンバーってことになるのかよ?」
「はい、そうです。これ、アキラさんのIDカードと首からフォルダーです。」
そりゃ、国家安全保障局員が直接見に行くってのは、相手に緊張を強いるよな。俺たち、非常勤職員だが、相手にとってはセキュリティ・コアって聞くだけで、身構えて当たり前。補完関係にある同業者のほうが、まだ、話しやすいだろう。
「わたしは興味あるけど、アキラは行かなくてもいいんじゃない?」
「いえ、オオガミさんは南米で戦車と戦ったことがある経験から、今回、批判的に性能を見てきてほしいということですよ。」
ラボ・メンでもないのに、駆り出されるってのは、局長のやつ、また何かたくらんでんじゃないだろうな。ブスッとしている俺に、ココアが言う。
「オオガミさん、戦車の弱点って何なんですか?」
そうだなあ。
「一般的に、空から攻撃されること、つまり、トップアタックに弱いことだな。もっと言えば、装甲板の薄い部分、例えばハッチなんかをピンポイントで狙われることかな。まあ、開発の歴史から見れば、分厚い装甲板と移動の高速化を両立するのが難しい、ということだな。」
「あなた、結構、詳しいのね。意外!」
まあ、いろいろあったからな。あんたの国の機関ともやりあったことがある、なんて言えないよな。
「国家安全保障局の仲介で、エンジャラム・ラボが視察に来るそうです。」
「セキュリティ・コアが仲介?うさんくさいな。」
「気づかれましたかね?」
「確信がないからなのか、まだ、公に動きたくないからなのか。ラボに探りをいれさせるんだろう。あるいは、我々への警告かもしれない。」
「そうなると、早くデータを集めて対応したほうがよさそうですね。」
これか。思ったよりコンパクトなのね。
「このLJー09は人工知能による、完全自律運用の実現をめざしています。作戦開始から終了まで、自らが考え、判断します。ですから、操舵手、砲手など搭乗員が不要な分、小型化に成功しました。砲弾数、装弾数は従来より向上、索敵能力では全方位自動追尾も可能です。」
この職員、人が良さそうね。でも、質問は遠慮しないよ。
「人がいない、ってことは、ハッキングされるとお手上げじゃないの?」
「良いご質問ですね、ミズ サマーズ。搭載人工知能の中枢部はスタンドアローンになっています。初期のコマンドを入力すれば、あとは目的完遂に向けて作動するだけ。外部からの侵入は物理的にできません。」
「緊急に作戦を変更しなければならない場合は、どうするんです?」
ジン、それそれ!ナイス・アシスト。
「LJー09単体での作戦行動は想定にありません。同型車両、歩兵、その他戦力との同時運用になります。ですから、友軍同士の連絡傍聴や動きを俯瞰的に見て、作戦行動を柔軟に修正・変更します。もし、敵が全面降伏をし、自軍が攻撃を中止すれば、人と同じように判断します。こちらが退却する時も同じです。」
「最初のコマンド入力にミスがあれば?」
「入力は責任者立会で複数で行います。実際には、統合本部からの指示を流し込むだけですけどね。」
つまり、自分たちには責任はない、ということね。
「悪意を持って、非人道的なことはできない、と理解していいですか。」
「その解釈でよろしいかと。」
「なんか、気に食わねえな。」
あら、アキラの出番ね。
「まあ、戦争ってのは、結局は命の奪いあいだけどな。それでも、撃っていいかどうかの判断を機械に任せるっていうのは、どうなんだろうな。」
「そのお考えはごもっともです。致死性自律兵器について、まさにそのことが、最も懸念されますから。責任の所在や誤判断のリスクも難しいところです。私たちもすぐに配備されるとは思っていません。これからもデータ収集を行い、アルゴリズムを詳細に検討・構築し、実戦運用に向けて開発を続けるつもりです。」
うーん、同じようなことをジンに尋ねた覚えがある。
しかし、汎用人型アンドロイドと戦闘用特化型戦車を、比較すること自体に無理があるな。
戦闘用って、三原則の対人についての縛りはあるのか?絶対、ないよな。
それに、ココアの場合は日常的に、人間関係を学んでいる。ジンが細かな調整もしているんだろうけど、人とメカロイドの間に信頼を築くことができそうだよな。
俺だけの考えだし、数字的・客観的根拠は全くないけど。戦車の場合、どうやって信頼関係を築けばいいんだ?
「俺の相棒は、このライフルさ」なんて小説みたいにいくのか?
いやいや、そもそも戦う兵器への信頼性って、いかに効率よく破壊したり、人命を奪うことができるかってことになるんじゃないか。エンジャラム・ラボとは、理念が異なるよな。そう考えると兵器って悲しいもんだ。
「それでもよ、兵器は兵器だ。戦闘で壊れたり破壊されたりもする。最悪、壊れたからといって、こんな機密情報の塊、戦場にほっぽりだすって、できるのか。そんな時、こいつをどうなるんだ?」
「メンテナンスや修理は、スタッフが行います。その意味では、自律しているが独立はしていない、ということですね。ご質問のように、戦闘による損傷を受け、自力行動が全くできなくなり、運搬も無理となってしまっても、機密保持のための外部からの破壊は、とても困難です。中核部は特に厚い装甲で覆われていますから。ですから、どうしようもない、と人工知能が判断すれば、内部自爆ですね。」
「そんなことすれば、味方がまきこまれるんじゃねえのか。」
「装甲内爆破ですから、内部の秘匿部分を自分で破壊します。まあ、カニの中身が潰れて、甲羅は無傷で残るみたいにイメージしてください。」
ココアが悲しそうに見える。戦車のボディを撫でている。何か話している?そんな気がした。




