032●道
「じゃあ、あとは自由行動、帰る時間も自由ってことで。月曜日にまたね。」
部長が高らかに宣言する。お昼も速攻で済ませたし、駅までは例によって遠いけど、でも、電車に乗ってからは早かった。やっぱり、都心に学校があるっていいよね。あんまり、出歩いたことないけど。
土曜日はお得な感じ。午後からはのんびりとする。でも、早く週休2日にならないかな。授業で先生が「学校は、いずれ土曜日も休みになる!みんなが大人になったころだろうけどな!」って言ってたけど。教室の扉も自動ドアになる、なんて日が本当にくるのだろうか?
あれっ、もう、みんなどっかにいっちゃった!あわてんぼうだなあ。まあ、これだけの人出だし、遠足じゃないし、自由参加だし、引率の先生もいないし。好きな作品を早くみたいよね。でも、ジン君、なんか落ち着いている。キミはいつもどおりだね。
ジン君と展示室を見て回る。う〜ん、この画家すごい。両脇に茂った草むら、中央になだらかにのびている道。ただ、それだけなのに、なんでこんなにいいんだろう。あっ、これもいい。月と桜、背景の森。静寂に包まれた華麗な生命力。すばらしい。わたしも、いつか大自然の、できれば、ジャングルの中みたいなところで、絵を描きたいなあ・・・。いや、感慨に浸っている場合じゃない。こんなに混んでいるとたいへんだ。
「人混みは苦手だあ。」
「そうですよね。まあ、自分も人混みの一部なんですけど。」
相変わらず、キミはどこか達観してるのよね。まずい、本当に押し流されそうだ。人混みにおぼれるって、いやだ、わたしは、まだ、ここにいたいんだあ!バタバタしていると、わたしの手を誰かがやわらかく包んでくれる・・・ジン君だ・・・キミの手は心地いいね・・・。ふたりで流れに逆らう、何だか舟をいっしょに漕いでいるようだね。
「いつから絵を描きはじめたの?」
「うーん、気がついたら広告用紙の裏に落書きしていましたね。」
あっ、わたしもそう。パパが今でもそんなのを持ってる。
「じゃあ、最初にうわぁ、って思った絵はなんだっかおぼえてる?わたしは、わすれたけど。」
今、ちょっとわらったな!
「モネですね。名前はあとで知ったけど。美術館でずっと見ていました。小1ぐらいだったかな?」
「どんなの?」
「朝か夕方かは、わからないんですけど、海辺の白い建物の壁が太陽に照らされて、乳白色というか、薄いオレンジ色になってるんです。いやあ、見事だったなあ。立ちつくして、どのくらいかわからないぐらい見ていたら、学芸員さんが心配して声をかけてくれましたね。’ぼく、だいじょうぶ?’って。」
「へっ〜、わたしも見たいね。」
「どこで見たのか、今、どこにあるのか、わかりませんね。大人になったら探しにいきたいな。」
「じゃあ、一緒に行こうか?」
「本当?!いいですね!約束ですよ!」
「うん!女子に二言はない!」
言い切っちゃった。手はつないだまま。なんか、ほっとする。このままがいいな。
「うまくいったね!」
「だいたい、あのふたりって、ぜんぜん進まないんだもの。こっちがやきもきしちゃう。」
「お互い、もっと攻めなきゃダメ!」
「まあ、いいんじゃない。ちゃんと手、つないでる。」
「部長、いいアイデアでしたね。」
「まっ、わたしたちはわたしたちの道をいくのみ!」
ホントはわたしも、彼氏、ほしいんだけどなあ・・・。




