028●あれは手品
こわい。ジン君、落ち着いてるけど、相手は5人。なんでこうなるの?なんか、見るからに不良っぽい。「ケンカ吹っかけられたらどうする?」と聞いたら、逃げるって言ってたっけ。でも、わたし、キミみたいに速く走れないよ。
あれっ?財布だすの?お金で解決ってあり?えっ〜、10円?それで大丈夫なの?10円玉もって・・・うわっ、真っぷたつに!引き裂いたあ!メリメリって音、わたしには聞こえた。
「ちょっと熱いよ」って渡すの?相手もなんだか呆然としながら手をだす・・・。アチッって、そりゃあ、熱いよ、銅を千切ったんだから。
「先輩、カバン、預かります。」ええっと、どうぞ、どうぞ、預けます、預けます。
「失礼します。」はい、はい、失礼されます・・・。わぉ、片手でわたしを担ぎあげた!おへそあたりから、彼の肩より上にいる!太もも、スカートの上からかかえてるの?!!ギュッと抱かれてる?!ふにゃあ、そのまま走りだすの?!勢いで頭も胸も彼の背中に密着する!えっ〜!顔をあげると、5人の高校生たちの後ろ姿が見える。
「先輩、すいません、体、そらさないで。」
よくわからないよぉ!速いよぉ!!
涙がとまらない。駅のホームのベンチ、彼が買ってきてくれたココアを飲む。
「ごめん、乱暴でした。甘いもので少しでも気を沈めてね。」
いやいや、そんなことない。乱暴じゃない。思考力がまだ、元にもどらない。わたし、なんで泣いているの、わからない。
「・・・キミ、すごいね。10円玉、引き裂いちゃうんだ。」
「ああ、あれは手品です。」
「手品?」
「万一のときのため、小道具を財布にいつも入れてるんです。逃げる時間をかせげるかもしれないから。」
「でも、熱いって、むこうも言ってた・・・。」
「熱いよ、っていって渡すと熱く感じるものなんですね。」
えっ~!本当に手品なんだ?!迫力あったなあ。
「なんで相手の方に走ったの?」
「人って自分の前のほうへ逃げるものは、追いかけますからね。相手の背後へ敵中突破!関ヶ原の島津みたいでしょう?」
可笑しい。笑いがこみ上げる。泣きながら笑ってる。へんだな、わたし、すごくへん。うふふ。困った顔してるジン君、キミも、とってもへんだよ。でも、そんなとこ、好きだな。
「あのあたりに行くの、もう、やめような。」
「あいつ、怯えるどころか、わらってたよな。」
「けど、目はマジだったぞ。なんか、体がすくんで動けなかった。」
「10円玉、熱くて、俺、手のひらヤケドした。跡残ってる。今でも痛い。」
「あんなことできるやつ、いるんだあ。怖ええ。」




