022●家の中では’王様’
新しい隧道がいくつもできている。山の中を通り抜けていくのは、なんだか不思議な気分だ。灯がともっていて、足元もしっかりと見える。
馬をとばして1日かかっていた道のりが、馬車で半日少しでエターニティに着くことができた。関所がない。入領するための手続きもない。石畳の街道が都市の中心地まで続いている。
軍服を着たひとりの女性が馬を引いて近づいてくる。
「ウィルフレッド・フォンベルト・アンダーソン様でしょうか?」
「そうだが。」
「主のロイ・ラベンダー・エンジェラムより、ご案内するよう命じられました、アリス・ファインと申します。」
丁寧な言葉、優雅な所作、なによりその美貌に少なからず心を動かされる。
馬にのったアリスの先導のもと、馬車を進める。街並みが美しい。白い壁、色とりどりの屋根。通りには2階建ての建物、反対側の海側の見晴らしも素晴らしい。
しばらくすると、城が見える。赤いとんがり屋根、ミルク色の壁、エンジェラムの旗がはためいている。語弊があるかもしれないが、かわいい感じだ。しかし、アリスは馬を停めない。ここが目的地ではないのか。
さらに進む。今度は大きな館だ。凝った作りの、透かし彫りがほどこされた鉄の門が開く。衛兵が敬礼をする。そのまま馬車は正面のコンコースへ。大きな扉の前で停止する。ロイが待っている。
「ウィル、ひさしぶりだ!ようこそ!」
「ロイ、元気そうだね!」
「すごいね、ここは。まるで宮殿だ。」
「迎賓館だからね。いろいろと工夫したよ。」
「途中、城を見たけれど、君はあそこに住んでいるの?」
「ああ、あれはね、病院と、劇場を兼ねた室内広場。会議室やこどもの遊び場もあるんだ。住民に開放している。万一の場合は、避難場所にもなるようにね。」
「えっ、城じゃないんだ。」
「住民は‘ストロベリー・キャッスル’と呼んでいるけどね。」
なるほど、赤い三角屋根はイチゴのイメージかもしれない。
「じゃあ、君の家は別にあるんだね。」
「そのとおり。」
「行ってみることはできるかな?」
「もちろん。じゃあ、あとで案内しよう。」
おどろいた。こんなに小さいのか・・・。飾り気のない扉が、横にスライドする。
「どうぞ、入って。王都の邸宅とは、かなり違うけどね。」
室内が明るい。窓に見たこともない大きなガラスが入っている。
太陽の光が気持ちいい。窓に面してソファとテーブルが置かれている。部屋ごとの壁はなく、キッチンか?ベッドも見える。こんな家があるのか。
「使用人はいないのかい?」
「ひとり暮らし。気楽でいいよ。」
それじゃあ、日々の暮らしはどうしてるんだ?ロイがグラスを持ってくる。
「ここではプライベートは、できることは、なるべく自分でやっているんだ。」
貴族なのに?食事の準備も?身の回りの世話係はいないのか?
「まあ、飲もう。ここのワインも悪くないよ。」
ロイに促されてソファに座る。なんだか心地いい。
ー陛下、わたくしが参ります!お待ちください!
ーそんなに気を使わないで。好きでやっているのですから。
ーしかし・・・。
ーこの家の中では、私は’王様’です。好きにしていいと決めたはずです。
ーそれはそうですが・・・。いえいえ、貴方様はそもそも王様でいらっしゃいます!
ーまあ、大目にみてください。それと’陛下’は禁句ですよ。
もう、ええ、わかってますけど・・・でもぉ〜!
来てしまった。ウィル様の侍女もお連れした。お二人だけで、朝までというのはよろしくない。マイロード、ご無礼します!ノックを3回。
「アリス・ファイン、入ります!」




