019●無幻斎
「援軍は来ぬか。諜者は戻らぬか。」
「あわせて三名を放ちましたが、帰ってきたものはございません。」
油断したわい。城はすっかり包囲されている。もう、五日だ。このまま籠城し、婿殿からの助成を待つしかないか。しかし、いつまでももたぬ。
「御屋形様、九龍殿がお越しです。」
「無幻斎殿か。会おう。」
来訪中に、すまぬことになった。当家から招いておきながら、このようなことになろうとは。
「申し訳ござらね。拙者の不手際でござる。」
「なんの。相手もさるもの。」
「いかにも。素振りも見せなんだ。援軍がいつになるかもわからぬ。せめて貴殿だけでも、城を出て落ち延びていただきたい。九龍山高宮寺の当主ならば、敵兵も無体なことはすまい。」
「そのことでござるが、ご子息・ご息女を連れて行くわけには参りませぬか。」
なんと。しかしそれでは、無事に抜け出すことはむずかしい。
「かたじけない言葉なれど、それでは貴殿が危うい。また、特に男子を落ち延びるのを見逃すとは思えぬ。」
「身どものことならば、ご心配無用。再度、お伺いしたい。いかがでござろう。」
少しばかり思案に暮れる。
「吉祥丸は出すわけにはいかぬ。」
「では、姫様はいかが。」
うーむ、しかし、城主の身内だけ逃すというのは。
「御心向き次第にて、城中の幼きおなご、全て当山までお連れ致しましょう。」
なんと。そのようなことができるのか。いや、無幻斎殿が言うのであれば・・・。
「ありがたき申し出、しばし時をいただきたい。」
評定を行う。諸々、出尽くした。
「わしは綾だけは、お任せしようと思う。皆も望むのであれば、無幻斎殿に手配いただく。どうか。」
朝が来た。綾と、望む家臣の身内で総勢一八名、城門に集まる。城門を少し開く。無幻斎殿とその付き人たち、そして子たちが出ていく。どうであろうか。城壁より皆が見守る。
無幻斎殿が大音声。
「これなるは九龍山高宮寺の高宮慈栄時英、無幻斎。縁あって城中の子女を連れて帰山いたす。道をあけられよ!」
クリュウザンコウグウジ?タカミヤジエイトキヒデ?ご注進!
「なんと無幻斎がおるのか!」
「子女を大勢つれておるぞ。」
「神兵は同行しておるのか。」
「左右に二人ずつ、後方に一人。白銀の鎧に身を包んでおりまする。」
うーむ。男子はおらずとも、血縁を残すのは望ましくない。しかし、神兵ひとりは一騎当千。さらに、無幻斎は何をするかわからぬ。
「なに!?手出しをしようとしている!?とめよ。うかつに攻めてはならぬ!」
ー攻撃です。応戦します。
ー殺してはならん。グラビティ・マグナムまでにとどめるように。
ー承知しました。
遅かったか!三十余が倒されている。呻いているということは、生きておるのか。
「瞬きをする間もなく打ち倒されてございます!」
「道をあけよ!手出しはならぬ!」
かたじけない。よろしくお頼み申す。あとは死力を尽くすのみ。綾、息災であれ。必ず、生き延びよ。




