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Life1の死霊使い!~前世の嫁を召喚したつもりが別人だった件~  作者: るろ
第一章 冷たき生に、死の花束を――
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重ならない影【Ⅴ】

 

 眼前で、稲光が炸裂した。


 それは攻撃というより、宣言だった。

 ――私は、会話より先に、世界を壊せる。

 そう示してみせるための、露骨な意思表示。


 網膜を刺す光。

 細める間も、息を整える暇も惜しい。


 あれを、真正面から受ければ――

 アミナは、灰になる。


 相殺は不可能。

 避雷も、遮断も、間に合わない。


 ならば、選択肢は一つしかない。

 結果を変えるのではなく、時間を稼ぐ。


 僕は回廊の石壁へ、左手を叩き付けた。


「【骸骨戦士グェレロ・エスケレティコ】!」


 詠唱はない。

 今の僕に可能な、無詠唱の限界召喚――

 時間も精度も、すべて削ぎ落とした、即席の呼び出し。


 壁面に亀裂が走る。

 石の内側から滲み出るように、魔術紋が浮かび上がり、

 白骨の戦士が、這い出るように現れた。


 次の瞬間。


 柴色の雷光が、それを呑み込んだ。


 骨は砕け、魔術紋は引き裂かれ、

 骸骨戦士は存在を主張する暇すらなく、粉々に散る。


 ――だが。


 確かに、勢いは殺した。


 雷が空間を裂く、その一瞬の“遅れ”。

 それだけで、十分だった。


 僕はアミナの手を掴み、

 力任せに引き寄せる。


 床へと叩き伏せるように、

 身体ごと押し倒し、覆い被さる。


 雷光が、頭上を掠めて通り過ぎた。


 回廊の空気が震え、

 石壁が、耐えかねた獣のような悲鳴を上げる。


 ――それでも、まだ油断はできない。

 なぜ僕は、攻撃を仕掛けてきた相手の安否など気にしているのだろう。


「イズヒト様! どうしてその女を庇うんですか!」


 投げられた問いには構わず、言葉を被せる。


「カレン! 学園の防衛魔術が来るぞ!」


「な、何ですかそれ……!」


 元はといえば、この学園は千年前の僕の居城だった。

 骨格は当時のまま。

 ゆえに敷地内で反逆の意志を示した者には、等価――いや、それ以上の制裁が自動的に下る。


 本来、競技外で攻撃魔術を振るう者など存在しない。

 それを想定しないほど、この学園は「王の統治」を信じ切っている。


 ……説明していなかったか。


 しかも、今の破壊規模は小規模とは言い難い。

 当然、それに見合う罰が選択される。


 カレンの周囲に、無数の魔術紋が浮かび上がる。

 赤く、冷たい包囲網。

 それは対象を「生徒」ではなく、「排除すべき異物」として認識した色だった。


 僕は、この判断に全面的に同意する。


 ――カレン。

 短い時間だったが、スリリングな日々をありがとう。さようなら。


 わざとらしく涙を浮かべようとした、その瞬間。


 床に這いつくばったままのアミナが、腕を伸ばした。


「【牽引アトラクシオン】」


 瞬間、カレンの周囲を黒い星々が包み込んだ。

 それらは重力井戸のように螺旋を描き、視界を塗り潰していく。


 完全に覆い尽くされた、その刹那。

 カレンの姿は、吸い込まれるように消失した。


 重力系魔術【牽引アトラクシオン】。

 本来は対象物を引き寄せるだけの、初級魔術――のはずだ。


 だが、これは。


 学園防衛システムは、排除すべき対象を見失ったことで、

 どこか名残惜しそうに赤い残光を揺らし、やがて霧散した。

 出撃命令を受けて勇んだ兵が、

 「誤報だった」と告げられた時の気分に、少しだけ似ている。


 そして、消えたはずのカレンはというと――


「わあ!」


 頭上から声が降ってきた。

 比喩ではなく、文字通り。


「「ぐえっ!」」


 アミナと同時に、

 潰れたラニートめいた声を漏らす。


 これは引き寄せというより、転移に近い挙動だ。

 やはり王位アブソリュオクラスの魔術は、

 基礎理論よりも、応用と悪意とセンスで出来ている。


 ――感心している場合ではない。


「アミナ、無事か?」


「川の向こうで、千年前の守護者たちが手を振っておいでです」


「そいつらは、ただのセールスだ。

 無視して帰ってこい」

 

 アミナが赤い瞳をくるくると泳がせている。

 突然の宣戦布告。

 僕に叩き付けられ、さらにカレンを瞬時に救い、その体重まで一身に受け止めたのだ。

 無理もない。


 やはり彼女の判断としては、

 カレンを殺すことに“反対”――というより、“早計”と映ったのだろう。


 防衛システムに便乗して、

 心の中でエールなど送っていた自分が、少しだけ恥ずかしい。


 思えばアミナは、あのソウマと同格の実力者だ。

 僕が慌てずとも、状況を一つずつ切り分け、確実に処理できていたかもしれない。


 ――ふむ。

 一人で背負う必要はなかったか。


 ならば。

 今は、僕にしか出来ない役目を果たそう。


 カレンの額を、指で軽く弾く。


「あだっ」


「お前な。

 いきなり攻撃するなんて、何を考えている」


 少し間を置き、息を整えてから続ける。


「ソウマは、悪い手本だぞ」


「イズヒト様は、この方に脅されていたのではないのでしょうか?」


「なに?」


 僕が、アミナに?

 この女は、一体世界をどう見ているというのだ。


 カレンは至って真面目な表情で続ける。


「イズヒト様は以前、仰っておられました。

 学園に出向いたなら、話をする者もいたけれど、その程度だと――」


 言葉を選ぶように、確信を含んで告げる。


「イズヒト様にご友人など、おられないはずなのです!」


 面と向かって事実を突きつけられると、胸の奥が小さく痛む。

 その痛みは、彼女の純粋な観察眼が、僕の孤独を正確に捕まえたからだ。


「だから、“友人”として紹介されたのは、イズヒト様からの救難信号かと思いまして……

 それに、彼女の指輪はあの“王位アブソリュオ”! 人格破綻者の象徴ですよ!」


 言葉が重なるほど、現実の認識が増幅される。

 僕は思わず、喉の奥から叫んだ。


「お前の方が、何千倍も破綻してるわあ!」


 僕は小さく溜め息を落とし、床の石の冷たさを感じながら立ち上がる。

 その背中には、戦場の残滓ではなく、日常への回帰がひそかに漂っていた。


王位アブソリュオの第一印象が悪かったのは分かる。

 だが、だからといって、人を一色で染める必要はない。

 孤独な者が歩み寄ったからといって、僕が盗人と呼んだことがあったか?」


「いえ。決してそんなことは……」


 言葉の先に、カレンは一瞬躊躇する。

 真実を知った時、どこか安心し、どこか驚き、頭の中が整理されていく様子が見える。


「だろう?

 実際、アミナはお前を防衛魔術から救ってくれた。間違いなく命を守ったんだ」


「アミ……ナ?」


 カレンは、記憶の奥底からその名をゆっくりと引きずり出す。

 言葉にするたび、彼女の胸の中で理解と信頼が、静かに芽吹いていくのがわかる。


 赤い瞳を見て、ひとつの結論に辿り着いたのだろう。

 表情が徐々に解け、瞳に柔らかな光が戻っていく。


「アミナさん!?

 【秩序の番人】の!」


 ――瞬間、僕とアミナは互いの目を鋭く見据えた。

 やはり、カレンは僕だけでなく、千年前の臣下たちの記憶さえも、有している。


 だが、彼女の口から発せられた名前は――

 悠久の再会に胸を震わせるわけではなく、

 まるで、英霊や偉人に初めて出会った時の、純粋な好奇心が瞳に宿っていた。


 しばし思い出すような間を置いた後、カレンは再び口を開く。


「久しぶりじゃないですか!

 現世でもお会いできたなんて、嬉しいです」


「は……はい。

 ご事情はイズヒト様より伺っております。

 私も再び、お二方に仕えることを、心より嬉しく思います」


 跪いたアミナは、微かに歯を食いしばる。

 怒りか、諦念か、虚無に近い感情か――

 その微妙な力のバランスは、カレンの無垢で無邪気な笑顔によって、より際立つ。


 僕もまた、似たような気持ちを胸に抱いていた。


 ――アーイシャは、アミナ・ビント・ヌリーヤという名を愛していた。

 だから“ヌリーヤ”に愛称を持たせ、彼女を『ヌリ』と呼んだ。


 だが決して、一度たりとも、

 『アミナさん』などと呼んだことはない。


 カレンとは――誰だ。

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