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Life1の死霊使い!~前世の嫁を召喚したつもりが別人だった件~  作者: るろ
第一章 冷たき生に、死の花束を――
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重ならない影【Ⅲ】


「目的……だと?」


 理解するための、反芻だった。


「なら、僕を殺すか――

 あるいは、世界そのものに復讐を遂げる悪霊である可能性だってあるじゃないか」


「はい。

 その可能性は、充分に考えられます」


「そうなってからでは遅い!」


 思考より先に、声が跳ねた。

 

「出来るだけ早く『救済聖書ビブリオ・サルバシオン』を手に入れ、

 カレンを――葬るべきだ!」


 叫びは回廊に反響し、石壁を震わせて消えた。

 後に残ったのは、耳鳴りのような静寂だけだった。


 アーイシャではない。

 その事実だけで、もう充分だ。


 知る必要などない。

 理解する価値もない。


 カレンがどんな目的を抱いていようと、

 彼女をこの世に呼び出したのは僕で、

 僕が主である以上、その在り方は――僕が決める。


 殺す。

 そうでなければ、この先、僕は――

 また、何かを失う。


 その震えを、声か、あるいは心臓の鼓動から読み取ったのだろう。

 アミナは、小さく笑みを作った。


 嘲りではない。

 むしろ、壊れかけたものを宥めるような、静かな微笑だった。


「臆病な、我が王よ」


 その呼びかけに、叱責はない。


「私の現世での生涯は、すでにあなたのためにあります。

 カレン様が、王に仇なす存在であると判断したなら――」


 剣を振り下ろす前のような、研ぎ澄まされた声音。


「その時は、

 私が、命に代えても――

 カレン様を殺します」


 ――!


「ですから、どうか」


 一歩、距離を詰めるでもなく、

 ただ、真っ直ぐに視線を重ねて。


「どうか、恐れないで」


 そして、アミナは自身の願いを、差し出す。


「カレン様の想いと、その目的。

 彼女が何者であるのかを――

 王自身の目で、明かし、見届けていただきたく存じます」


 息を、飲んだ。


 アミナの言葉に、理由を問う必要はなかった。

 分かっている。

 カレンとの出会いは、輪廻を越えた巡り合わせなのだと――

 そう、彼女は言いたいのだろう。


 善か悪か、そんな単純な話ではない。

 意味があるはずだと、アミナは信じている。


 だが、僕としては論外だ。

 得体の知れない存在を、側に置いておくなど。

 この世に未練があるのかは知らないが、出来ることなら一刻も早く、

 然るべき場所へ還ってほしい。


 “未知”というだけで、危険で、恐ろしい。


 この平和になった世界。

 アミナがいて、

 ソウマのような優秀な魔術師が戦争ではなく、競技に興じていられる世界。

 その均衡を、容易く踏み荒らす悪魔ではないのか――

 僕は、そう恐れている。


 もはや嫌悪などではない。

 これは、現世を守りたいと働く本能だ。


 だが――

 仕方がない。


 それが、願いであるのなら。


 民の願いを踏みにじるなど、王のすることではない。


 僕は、深く息を吐いた。


「……分かったよ」


 言葉は、驚くほど静かに落ちた。


「カレンについては、もう少し探りを入れる。

 早まったことはしない」


 そして、息を吸う。


「だが、『救済聖書ビブリオ・サルバシオン』も手に入れる。

 念のためだ」


 一瞬、視線を逸らしてから、付け加える。


「命を賭けると言われて――

 君に、本当に死なれては困る」


 アミナは、命令への服従ではなく、選び取った献身として行動を選択する。

 もし、カレンと対立すれば――

 彼女は文字通り、僕のために命を差し出すだろう。


 だからこそだ。


 カレンを“裁かれる存在”として切り捨てるより、

 “見届ける存在”として側に置く方が、結果としては穏便に済む。


 王としての判断。

 そして同時に、臆病な僕自身を守るための選択でもあった。


 アミナは、わずかに頬を緩め、胸に手を当てる。


「身に余る御信任……

 ただ、感謝と忠誠をもってお応えいたします」


「いいよ」


 肩をすくめる。


「ただ、殺すから、正体を見極めてから殺すに変わっただけさ」


 軽口のつもりだった。


 だが――

 その瞬間。


 心臓を、鷲掴みにされる。


 空間が、震えた。

 否、震えたのはこちらの認識だ。

 まるで世界の膜が一枚、剥がれ落ちたかのように、

 空気が冷たく、重く、張り詰める。


 ――殺意。


 明確で、迷いのない、剥き出しの意思が、

 僕たちを包み込んだ。


 足が、動かない。


 アミナも、僕も、

 一歩を踏み出すことすら許されず、

 その場に縫い留められた。


 やがて。


 冷たい声音が、上から落とされる。


「ねえ、イズヒト様」


 喉が、ひくりと鳴る。


「そちらの女性は――

 どちら様でしょうか?」


 息を飲み、

 ゆっくりと、振り返る。


 そこにいたのは、カレンだった。


 いつもの間抜けな表情ではない。

 感情を削ぎ落とした仮面の奥から、

 抑えきれない何かが滲み出ている。


 視線が、刃のように鋭い。


 ――悍ましい。


 そう形容するしかない相貌で、

 彼女は、静かに――

 そこに、佇んでいた。


 

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