新たな仲間
「はぁはぁはぁ」
勇者コバヤシの荒い息があたりをこだまする。しばらくすると荒い息が収まり、歩に向かって、
「延長、もう1回転お願いします。」
と言った。歩はすかさず、
「やるかー!」
と激しく拒否しながら起き上った。しかし、起き上った先にコバヤシの姿はなく、まわりもコバヤシと遭遇した森の中ではない。コバヤシの悪魔のようなひとことはどうやら夢の中の出来事だったようだ。そして、再度よく確認すると、アウロラの宮殿に戻ったようだった。そのことを確認すると、自分の体のことも確認した。手や足の存在を確認し、手で顔を触ってみた。体も元に戻ったようだった。ホッとしたところでアウロラに文句でも言ってやろうと宮殿の上の方に目を向けた。その目の先には、だらしないデブ体系で、ランニングシャツにハーフパンツの男が宙に浮いていた。
「なんでデブが浮いている?」「俺だけじゃなかったのか?」などと思いを巡らせていたが、それよりも強く思った「このパターンは」と思った途端、思ったとおり、歩めがけて男は落下した。歩はこのパターンを予想していたので、あらかじめ体重を後ろに移動し、そのまま後ろに身を引いた。そして、歩は男の体からギリギリよけることができたが、男は宮殿の石床に強打するのだった。見た目には痛そうだが、自分と同じ立場なら痛みは感じないはずだと思っていたが、「ぐはっ」と明らかに強打した感じの声の発した。そして、その柔らかそうな体は、ゴムまりのように弾み、今度はうつぶせになって体を強打するのだった。「これは痛そうだな」と思いつつ、男の様子が気になって、近付いてみた。男は体をピクピクさせながら、何かを言っているようだった。
「おい、お前、しっかりしろ!」
歩は男の肩を揺らして、呼びかけた。
「・・・ロラ」
「ロラ?」
男のつぶやきに、歩は疑問形でその男のつぶやきを声にする。そして、男は、
「ア、ウ、ロラ」
と声に出した。歩はその言葉に反応し、
「おい、お前、あの女神になんかされたのか?」
と再度、その男の肩を揺らして呼びかけるのだった。
男はそんな歩の腕を握り締め、
「俺の肉ー」
と言って、歩の腕に噛みついてきたのだった。歩は激しい痛みを感じ、歩は悶絶するのだった。何とかその痛みから解放するために、男の腹を蹴るなどして抵抗を見せた。しかし、男は何かに憑りつかれたように一向に離そうとはしなかった。何回か蹴るうちにみぞおちに当たり、それでやっと腕を噛む力が弱まった。その隙をついて歩は、腕を引き抜いたが、歯の痕がくっきりと残ってしまった。その男は、歩の腕を引き抜いたことで、意識を取り戻し、
「ここはどこ?」
と初めてまともな言葉を発した。
「どこじゃないよ。」
と歩は突っ込み、
「そんなことより、俺になんか言うことあるだろ?」
と言って、傷あとが生々しい腕をプラプラと見せるのであった。その様子を見ていた男はすかさず、
「まずかった。」
と返したのだった。その一言に歩は、こめかみをピクピクさせながら、拳を上げようとした。そんな歩の行動を遮るように宮殿の上から、
「その男の処理は私の仕事よ。」
と聞いたことのある声が聞こえてきた。
「アウロラ。」
と歩は、目の前の男とのやり取りで忘れかけていた、一番憎むべき相手の名前を発するのであった。アウロラは、光とともに姿を現し、敵意をむき出しにした歩の視線を意に介さず男の方に歩みを向けた。歩みを向けられた男はというと、アウロラの姿を見るなり、息を荒げ始めた。
「はぁはぁ、僕のアウロラちゃん」
と言うと、アウロラに向かって飛びついてきた。
「いっただきまーす!」
ル〇ンを思わせるダイブをしたかと思うと、アウロラはすかさず指先から電撃を発し、指先にたまった電撃の塊を男に向けた。男は、骨が見える古典的な電撃の食らい方をしたのだった。アウロラが発した電撃は数秒ほどつづいた。男の髪はチリチリになり、肌は美味しそうな焦げ目を見せていたのだった。太っているせいか、電撃のショックで体内から脂が吹き出し、それがうまい具合に照りを出し、香ばしい匂いを発するのだった。そして、アウロラは存在を無視していたかに思われた歩に向かって、怒りを込めて話し始めたのだった。
「いくら慈悲深い私でも、これだけの屈辱を味わったのは初めてだわ。なんだって、豚のような下等生物の名前が私と同じ名前なのよ。しかも、こいつは私の名前を付けた豚を育てて、自分で食べようとしていたのよ。」
アウロラは、自身の名を付けた豚を映し出し、歩に見せるのだった。しかし、歩にとっては、目の前にいる豚のような体つきの女と映し出された豚がリンクしてしまい笑いのツボを刺激するだけだった。
「ぷぅ、くっくっく」
歩は、こらえることもせず笑いだし、笑う声はさらに増していった。
「あはははは、まさに豚の神様。」
というと、さらに笑いの勢いは増していった。アウロラは、あの男と同じように電撃を喰らわそうとしたが、何かを思いついたように、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あんた達には、私の気持ちが分からないようだから、あんた達のその身をもって私の苦しみを知ってもらうわ。」
アウロラはそう言うと、杖を取り出し、杖の先端の宝玉から光を発した。見覚えのある一連の行動に気付いた歩は逃げ出そうとしたが、それも徒労に終わり、アウロラが発した光の輪に2人は吸い込まれるのであった。




