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Goddess puppet -女神様の玩具-  作者: 久我源氏
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何も響かない豚野郎

歩たちは、アウロラが作り出した光の中にいた。その光の中で歩は、現状把握に努めていた。歩は学習能力が高い人間だったので、同じ現象に対しては、二の舞を食わない男だった。しかし、自身を引き寄せた光に関しては、あまりにも引き寄せる力が強すぎて、抗うことはできなかった。次もあるかもしれないので、これについても対策が必要だと思った。しかし、周りを見渡しても真っ白で現状を把握することはできなかった。また、前に移動している感覚があった。これを引き返そうとして体を動かすが、うまくいかなかった。強力な力で、無理やり前に進められている感じだった。

『こうなったら、この光の先にあるものをうまく乗り越えるしかない。』

そう思った彼は、光が導く方向に身を委ねるしかなかった。そうしているうちに、光の先が見えてきた。

「う、ん」

光を抜けた途端、彼の意識は飛んでしまったようだった。どのくらい意識が飛んでいたか分からなかったが、目を開けた瞬間から、自身の状況把握に乗り出した。うずくまっていた彼の前には、わらが敷き詰められていた。その先には木造の壁があった。おそらく、どこかの牧場の納屋らしいと彼は判断した。次に、自身のことについて、調べ始めた。まず、自分の手を見た。ピンクっぽい肌に、蹄があった。今までの自分の経験からして、どうやら、自分は豚になったらしいと判断した。自分の中では、そのことに対して激しく動揺するが、努めて平静になるように促す自分もいた。早く、確信をつかもうと、周りを見渡した。すると、豚、あそこにも豚、ここにも豚、向こうにも豚、まさしく豚だらけだった。これで、自分も豚だと確信せざるを得なかった。

そして、豚となった彼の次の行動は、アウロラに飛ばされたもう1人の男の行方だった。おそらく、自分と同じく豚になっているだろうと踏んで、彼を探してみることにした。しかし、丸々太った豚の群れの中から、彼を見つけ出すことは困難だと思った。が、以外にあっけなく、それは終わりを告げたようだった。周りの豚たちを食べようと必死に追いかけるひときわ大きな豚がいたのだった。

『あいつ、共食いする気なのか?』

と思いながら彼らの様子を見るのだった。しかし、人間の時も太っていて、いかにも体力がなさそうだと思っていた。案の定、豚になっても体が大きい分、走るスピードは遅く、徐々にバテていくのであった。そして、彼は体力を失い、足を止めてしまったのだった。そして、ゼーゼー言いながら、きつい顔をするのであった。追いかけられていた豚たちは、彼が体が大きいだけで、大したことはないと知るや、今までの反撃とばかりに体当たりを仕掛けようとした。そこに歩が止めに入った。

「ブー(待ちな)」

「ブブーブブ、ブブブブブブ。ブブブブ、ブーブブブブブ。(こいつは俺の連れなんだ。すまないが、許して欲しい)。」

歩の必死の説得が功を奏し、豚たちは彼を襲うことをあきらめた。歩がホッとしているところに、デブ豚は無防備な歩のお尻にかぶりつくのだった。

「ブーーー!(いったーーー!)」

歩は、大きな鳴き声を上げるのであった。それと同時に、この構図を人間に置き換えた場合のイメージが頭の中によぎったのであった。『気持ち悪』と思い、吐きそうになったその瞬間、聞いたことのある声が聞こえるのであった。

「豚野郎になった気分はどうかしら?」

案の定、アウロラだった。高飛車な声に、歩はイライラ感を募らせるのであった。

「歩の頭の中に刷り込んだイメージはどうだったかしら?イケメン同士なら絵になるかもしれないけど、あんたらじゃ、どうあがいても年末のお笑い番組みたいな映像でしかないわね?」

こいつ、日本のテレビ番組、結構見てんじゃねぇ?と思いつつ、イライラ感はさらに募っていくのだった。

「私の苦しみを真に知ってもらうには、あんたらに実体験してもらうのが一番ね。これでも、私の苦しみの一片でしかないのよ。慈悲深い、私の配慮に感謝することね。この豚野郎!」

アウロラは、『豚野郎』の一言に、思い切り蔑みの念を入れた。一方の歩は、美少女に『豚野郎』と言われれば、ご褒美と思ってしまうが、ブスに言われるとこれほどまでに萎えるのかと思ってしまった。その一方で、デブ男がアウロラを豚扱いしたから、あいつが豚にされることには、理解していた。しかし、自分も巻き添えで豚にされた事には、到底怒りを収めることができなかった。

「ブブブブブーブブブブブブブブブー、ブーブブブブブ、ブブブブブブブ?(あいつが豚にされたことは理解できるが、どうして俺も豚にしやがった?)」

と必死に叫んだ。

それを聞いたアウロラは、

「は?」

と返すのだった。

「ブーブーブー、ブブブブブーブブブブブブブブブー、ブーブブブブブ、ブブブブブブブ?(だーかーらー、あいつが豚にされたことは理解できるが、どうして俺も豚にしやがった?)」

と、またも叫んだ。

アウロラは、

「は?」

と同じように返すのだった。

どうやら、歩がいくら叫んでも、豚の鳴き声になってしまい、話が通じないようだった。それでは、自分はどう表現した方が良いのかと、考え始めようとした瞬間、

「あー、それは連帯責任よ。」

とアウロラは普通に返すのだった。一瞬歩はきょとんとするが、すぐに『通じてるんかい!』と心の中で突っ込みを入れたのだった。

「私があいつに侮辱されたときに、あんたはかばうどころか、あいつに同調するように笑ったじゃないの。それが連帯責任の立派な理由よ。」

とアウロラが話した瞬間、歩はアウロラを笑ってしまったことを激しく後悔した。そして、この状況を打開するには、アウロラの機嫌を何としても取り持つ必要があったのだ。

「ほんっとうに、申し訳ありませんでした。美しさと美貌を兼ね備えた美しすぎる女神様になって無礼なことをしてしまったのでしょう。」

歩は、言葉の矛盾に気づかないほど、必死にアウロラの機嫌を取り持とうとした。そして、デブ男に対しても、アウロラの機嫌を取るように、必死になってけしかけるのであった。

「お前が怒りを収めないと、これから俺たちがどうなるか分からないんだぞ?」

必死になって彼にけしかけるのだった。しかし、デブ男は我関せずとばかりに、何の反応も示さなかった。それどころか、自身が豚になっていることも気付かず、

「僕のアウロラちゃんどこ?」

と自分の飼っている豚のことを探し出すのであった。『豚が豚を探している~!』と歩は心の中で突っ込みを入れたが、この一言がアウロラの怒りの炎に油を注いでしまったと思った。

姿は見えないが、案の定、怒りで震えるような、こめかみをピクピクしているような音がしているような気がした。

「あんたらの、私への思いはよーく分かったわ!一生、この姿でいることね。この豚野郎。」

とアウロラは、怒りを最大限にぶつけて、通信を切った。歩は、何とか取り持とうとしたが、どうにもならなかった。少し諦めが入った、その瞬間、

「あいつ、豚野郎のフレーズをよほど気に入ったんだろうなぁ。何のときめきも新たな性癖の開花もないけど。」

と心の中で独り言をつぶやくのだった。そして、大きく息を吐くと、事態を悪化させた張本人に近付いた。そして、思い切り体当たりした。

「ブブブブブブブブブブブブブブーブブブブブブブブブブ。ブブブ、ブブブブブブブブブブブー。(お前の探している豚のアウロラはここにはいない。そして、お前は豚になったんだ。)」

豚語で、デブ男に話しかけた。その様子を見ていたデブ男は、

「ブブブブブブブブブブブー。(豚が話しかけてる。)」

とこれも豚語で返すのであった。その姿に、愛おしさを感じたデブ男は、歩を撫でようと、手を差し出そうとした。そして、手だと思っていたものが、豚の前足だということに気付き愕然とした。

「ブーーーー!(俺、豚になってるー!)」

ようやく、気付いたのかと思った瞬間、豚舎の入り口からガラガラと音がした。

「なんだよ、うっせーな。」

いかにも、人殺しをしていそうないかつい顔をした男が扉を開けた。そして、のそのそと歩たちの方に近付くのだった。そのもったいぶったような体の動きが、逆に異様なプレッシャーを歩に感じさせるのであった。

「へへへ、ここまで元気だと、お前たちはさぞかしおいしい肉になるだろうよ。」

その一言に歩は、戦慄を覚えるのであった。そして、アウロラが言っていた私の苦しみを味わうが良いとの一言を思い出し、そのために俺たちは豚にされたと理解するのであった。

「あの豚女神、スライムの次は食用の豚かよー。」

泣きそうになる自分を押さえつけ、いかつい男の次の一言を待った。

「ちょうどいい頃合いだし、そろそろ肉にしちまおうか?」

『あー、もう詰んだ』と歩は思った。こうなると、もうなす術がないと諦めた。しかし、そのとき、デブ男がいかつい男に近付いた。その様子を歩はただ見守るしかなかった。

「ブー。(あのー。)」

デブ男の存在に気付いたいかつい男は、デブ男に視線を向けた。デブ男は、

「ブブーブブブブブブブブ?(豚でも豚を食べられますか?)」

と話した。歩は、

「ブーーー!(この馬鹿野郎!)」

と叫んだ。

「ごちゃごちゃうるせえが、お前は特にいい肉になりそうだ。よく肥えている。そっちのうるせぇ奴は、肉付きはまぁまぁだが、それだけ元気があれば、いい肉になるだろう。」

と、いかつい男をさらに喜ばせる結果になってしまった。もう終わりだと思ったところで、いかつい男が、

「これから屠殺場に行く準備をするから待ってろよ!」

とにこやかに言った。その後、すかさず、

「言っても分からないと思うが、逃げたら分かるよな!」

と先ほどの笑顔はどこに行ったかと思うくらい、恐ろしい顔になった。

歩は、逃げられないと思う半分、逃げなくてはと強く思った。いかつい男は何か独り言を言いながら豚舎を出て行った。男が出ていくのを見届けて、とにかく逃げ道を確保しようとあたりを見渡した。豚舎にはいくつかの囲いがあり、その囲いの中に、10匹ずつ豚が配置されていた。その囲いの出入口には鍵はなく、鼻で外すことができる。まずは囲いから出られそうだ。その後、豚舎からの脱出である。豚舎の出入口を見ると、開け放たれている。ここもすぐに出られそうだ。豚舎を出たあとが問題だ。今の位置だと豚舎の外が分からない。また、いかつい男がいつこちらに戻るか分からない。スピードが勝負だ。しかも、いかつい男に出くわさないルートに行き、かついかつい男が豚舎に戻って、逃げられたと気付かれる前に逃げ切らないといけない。これはあてずっぽうだが、間違いが一切許されない一か八かの勝負になる。これは豚舎の豚とも連携して数で押し切った方が良いと考えた。話が通じるかどうか分からないが、まずは同じ囲いの豚に声をかけることにした。

「あのぅ」

と歩が振り向くと、ヌッと図体のでかい豚が歩の前に現れた。

「よぅ」

と図体のでかい豚は、いかにも大物のオーラをまとい、歩を見下したかのような視線を送った。「これは話が通じるか?」と歩は思った。そして、他の豚を見ると、彼ほどのオーラを持っていなさそうであった。この図体のでかい豚がこの囲いのトップのようだった。それなら、この図体のでかい豚を説得できれば、他の豚もそれに従うだろうと思った。歩はおもねるような態度で、図体のでかい豚への接触を試みた。

「私は歩といいます。」

というと、図体のでかい豚は、

「おぅ」

と返した。歩は、

「こちらは長いのですか?」

というと、

「まぁ」

と返した。話が長続きしないと思い、極度の緊張感で汗をダラダラ流していた。それでも、ここを脱出するため、頑張らねばと思い、本題を切り込むことにした。

「新入りがこんなことを言うのはなんですが、ここから脱出しようと思っているんです。一緒に出ませんか?」

というと、図体のでかい豚は、

「否」

と返した。意外な答えに歩は、

「今ここを出ないとあなたたちも殺されてしまうんです。それでいいのですか?」

と感情を出して訴えると、図体のでかい豚は、

「いい」

と返した。そこにいかにも頭のよさそうな豚が現れた。

「親分は命を懸けて、主人の恩義を返そうとしているのです。」

頭のよさそうな豚は、歩にそう話しかけた。

「命を懸けてって?」

と歩は不思議そうな顔を向けると、頭のよさそうな豚はさらに話を進めた。

「ここの主人は、毎日餌をくれ、一生懸命掃除をして、我々豚が快適に過ごせる環境を愛情込めて作ってくれている。もしここを出ても、餌を確保できるか分からない。快適な住まいを確保できるか分からない。もしかすると誰かに食い殺されるかもしれない。我々豚はデリケートで弱い生き物なんだ。」

頭のよさそうな豚の話に、歩は聞き入っていったが、あのいかつい男が愛情込めて豚に接する姿が想像できなかった。

「先ほども主人が出ていくとき、独り言を言っていましたが、何を言っていたか分かりますか?」

頭のよさそうな豚の問いかけに、歩は答えられなかった。

「答えは、うちの豚舎にあの2匹っていなかったよなぁ。です。それほど、主人は豚1匹1匹のことを考え、愛情を注いでいるのです。」

歩はその言葉に強い衝撃を覚えた。

「親分は、その愛情には命で応えるしかないと思っているのです。」

頭のよさそうな豚の言葉に、親分と呼ばれる図体のでかい豚は、首を縦に振った。

「我々も同じ思いなのです。だからあなたの言葉を聞き入れることはできないのです。あなたはここから出てください。あなたなら、生き延びることができるでしょう。」

歩は、他の豚の様子を見た。皆、その言葉に同調しているようだった。しかし、その考え方に歩はどうしても同調できなかった。

「死んだら終わりなんだぞ。それでいいのか?」

との歩の言葉に、

「いい」

と図体のでかい豚は、力強く答えた。そのたった2文字の回答に、歩の考えすべてを崩されるほどの強い思いを感じた。

そして、図体のでかい豚は、

「生きろ」

と初めて3文字の言葉を発した。その言葉に押されるように、歩は外を出る決心をした。

「俺、どんなことがあっても生き延びるよ!」

と話して、勢いよく飛び出した。歩の言葉に、そこにいた豚たちは希望を見る思いがした。豚舎以外を見ることがなかった我々の分まで世界を見てほしいとの思いを歩は感じた。感情をぶつけあうことで、短い出会いではあったが、旧知の仲のように通じ合っている感じが両者ともした。その思いをバネに歩は走り出した。

頭のよさそうな豚は、歩が豚舎から出ていく姿を見届けると、図体のでかい豚に

「短い間でしたが、いい豚でしたね。」

というと、

「あぁ」

と返すのだった。

「ところで」

と頭のよさそうな豚が、振り返りながら、

「彼はどうするのでしょう?」

とデブ豚を見ていった。デブ豚は、先ほどの話には一切入らず、寝ているのだった。図体のでかい豚もデブ豚を見ながら、

「さぁ」

と返した。

豚舎を出ると、歩は何かに導かれるように走っていた。皆の思いが、間違いのないルートを教えてくれていると歩は感じた。そこでますます彼らに感謝せずにはいられなかった。

しかし、彼は何か忘れている感じがした。走っていくうちにデブ豚を置いていったことに気付いた。ここで引き返しては皆の思いを無駄にしてしまう。しかし、みすみす置いていくことも彼には憚られた。

「くそー!」

と叫びながら、歩は踵を返すことにした。

その頃、豚舎には屠殺場に行くための馬車が横に付いていた。図体のでかい豚たちは、すべてを察し、いかつい男に誘導される時を心静かに待っていた。いかつい男は、

「お別れの時間だ。行くぞ。」

というと、囲いの出入口を開けた。図体のでかい豚は、出入口に向かってのそのそと歩いた。そして、出入口にいるいかつい男にすり寄った。どうやら、感謝の態度を示しているようだった。それを感じたのか、いかつい男も腰を下ろし、

「お前との生活は忘れないぞ。」

と抱き寄せながら、話した。数秒抱き合ったあと、いかつい男は静かに立ち上がり、

「さぁ、行くぞ。」

と名残惜しそうにしながら、彼らを誘導するのだった。

もともと豚舎にいた豚たちを馬車に乗せたあと、まだ寝ているデブ豚を見ながらいかつい男は、

「さてどうしたものか?」

と困った顔をした。そこに、歩がやってくるのだった。

いかつい男は、その姿に気付き、

「相棒を置いていくやつがいるか!」

と歩を軽く小突いた。歩は頭のよさそうな豚の言ったとおり、すべての豚を把握しているのだと感じた。しかも、歩たちを屠殺場送りにする気配がない。そう確信すると、歩はデブ豚のところに走り寄り、起こそうとした。

「おい、お前起きろ!」

べしべしと前足で叩いてみたり、鼻で押してみたりした。それでも起きる気配がない。それを見かねていかつい男が近付いてきた。

「見てろ」

というと、べしっとデブ豚を叩いた。その痛みで、デブ豚は起き上がり、悶絶するのだった。

「お前たちは、俺が育てた豚じゃない。だから品質の分からない豚は、どこにでも行ってしまえ!」

と言った。その言葉を受けて、歩が外に出ようとしたところ、

「待て」

と図体のでかい豚が声を発した。図体のでかい豚は、

「戻ってきたなら、俺の最期を見届けろ!」

と今までになく長く話した。その決意の目に、歩は首を縦に振った。そのやり取りをいかつい男も察して、連れて行くことにした。

馬車に歩たちが後を追う形で屠殺場に向かった。豚舎からそれほど離れていない距離に屠殺場はあった。屠殺場は、石造りの立派な建物だった。その入口を入ると受付があった。馬車を止めると、いかつい男は受付に手続きをしにいった。歩たちもいかつい男について行った。受付の女性は、

「こんにちは、ショーエーさん。そこの豚も対象ですか?」

というと、いかつい男ことショーエーは、

「こいつは、うちの商品じゃねぇ。うちの豚たちの友達なんだとさ。」

「あぁ、そうなんですね。ショーエーさんの豚たちは、みんな脂ののりや歯ごたえが最高ですもんね。あぁ、思い出したらまた食べたくなったわ。帰りに買って帰ろうかしら。」

と受付の女性は、頬に手を当てながら、ショーエーの豚の味を思い出して、感慨に耽っていた。そこから反転して、冷たい目をして歩たちを見た。

「それに比べると、前の豚はやせ細っていていかにも安っぽいですし、うしろの豚は絞り出してラードにするしかないようですね。とてもショーエーさんの豚とは思えないですわ。」

受付の女性は、手をひらひらさせながら、語っていた。

「姉ちゃん、豚を見る目が肥えてきたなぁ。」

受付の女性に向かって、ショーエーは大笑しながら話した。

「たしかに、うしろの豚は確かにラードとして絞り出すのがいい。でもな、姉ちゃん。前の豚は見どころがあるぞ。丸焼きにして骨のあたりをしゃぶりつくといい味が出るぞ。」

ショーエーは、歩をパンパン叩きながら、受付の女性に言った。

「そういう食べ方もあるんですね。」

と受付の女性は、手をポンと当てて感心したように話した。しかし、次の瞬間、

「それではさっそく試してみましょうか?」

と一転して、口から出るよだれをぬぐいながら、臨戦態勢になったかのように、歩に視線を向けた。

危険を察した歩は、とっさにショーエーの後ろに隠れた。

「残念だが姉ちゃん、それはできねぇ。こいつはあいつらの客人だからな。それはそうと、早く手続きを済ませてくんな!」

ショーエーは、歩たちをかばいながら、話を切り返した。その言葉に、受付の女性もハッとして、

「失礼いたしました。それでは本日の納品物の確認をさせていただきます。」

と、食にこだわるグルメの目から受付嬢の顔に切り替わり、業務に取り掛かることにした。受付の女性は、馬車に載った豚の様子が分かるように、受付口の横に設置された石段を上った。そこから、豚の数を数えると、石段を下りて受付口に戻った。そうすると、受付口に置いてあった書類に豚の数を記入し、それをショーエーに手渡した。

「確認しました。今日は10頭ですね。それでは、こちらを持って、先にお進みください。」

受付の女性は、ショーエーにそう言うと、右手を進行方向に促すようにかざした。

「おぅ、いつもありがとな。」

ショーエーは、そう言いながら書類を受け取り、馬車に乗り込むのだった。歩たちは、その馬車の横に付いていく形になった。そこへ受付の女性がひょいと歩たちに目を向け、

「間違ってお肉になっちゃだめよ。」

と、先ほど見せたグルメの顔に変わった。歩は、その顔を見た瞬間、顔を真っ青にして、彼女と目を合わせないように、馬車と共に歩みを進めたのだった。歩みを進めると、若い男がショーエーたちを待ち構えていた。

「こんにちは、ショーエーさん。」

男がそういうと、ショーエーも

「おぅ。」

と返した。その男に、受付の女性から渡された書類を手渡すと、男は書類に目を配った。

「今日は10頭ですね。」

男はそう言ったが、馬車の横にいる歩たちに目をやった。

「あれ?こちらにいる2匹も対象ですか?」

男はそういうと、

「こいつはうちの商品じゃねぇ。」

とショーエーは返したのだった。

「あぁ、そうですか。それでは間違えないように、ペイントしてしまって構わないですか?」

男は、ショーエーに確認を取ると、

「そうだな、そうしてくれい。」

と返した。その言葉を受けて、男は横に置いていた刷毛と塗料を手に取ると、歩たちに近付いた。男は歩に向かって、

「ちょっとおとなしくしててね。」

というと、塗料を刷毛に付けて、歩の胴あたりに刷毛を向けた。そして、大きく×マークを付けた。その優しいフェザータッチに歩は、

「アッ」

と艶めかしい声を上げてしまった。そして、そんな声を出してしまった自分を恥ずかしく思ってしまい、赤面しながら下を向いてしまった。

その様子を間近で見ていた男は、にんまりして、

「なんか人間みたいな反応ですね。嗜虐心をくすぐられちゃいますね。」

と言うと、歩の背中を指でスーッと撫でてみるのだった。

「アゥーーー!」

とまたも艶めかしい声を上げると、男はさらに興奮度を増して、鼻息を荒げるのだった。男は、歩の上にまたがり今度は、胸から背中に向かうように優しく撫でまわすのだった。その指使いに歩は体をビクビクさせて、

「アッ、アァーーー!」

と初めての快感に酔いしれてしまった。

男は男で、さらに興奮度を増し、

「次は、次は」

とフーフー言いながら、次はどうしてくれようと手をワキワキさせながら言うのだった。その瞬間、

「もうやめい。」

と男にゲンコツが喰らわされた。ショーエーのゲンコツに男は我に返った。一方の歩は、立ち上がることの出来ない快感に浸りながら、「助かった」と思うのだった。

「すみませんでした、ショーエーさん。なんかこの子がいい反応をするんで、ついついやってしまいました。こちらの子もやっちゃいますね。」

そういうと、男はデブ豚の方に近付いていった。デブ豚も一部始終を見ていてため、どんな快感が待っているのだろうと期待を寄せていた。そうして、刷毛を近付けると目をつぶりながら、視覚を遮断してその分触覚を研ぎ澄まそうとした。「来い、来い!」と思いながら、目をつぶった状態で、目を血走らせながら刷毛の感覚を堪能しようとした。そうこうしているうちに、

「終わったよー!それでは、馬車の馬の作業を始めちゃいましょう!」

と男はデブ豚の頭をポンポンと叩きながら、ショーエーに向かって言った。「えっ」とキョトンとしていると、歩は近付いて言った。

「お前の脂肪が厚すぎて、何も感じなかったんだな。」

その言葉に、自分の大きく肥えた体を初めて呪った。傷心に耽っているデブ豚をよそに、男は馬車の背面を開き、中にいる豚たちを外に出すように促した。そして、豚を全員出した後、男は1頭の豚に手を当て、詠唱を始めた。どうやら魔法を使うようだった。男の手から発した光は、豚の体にくまなく流れ、全身に回った瞬間、その光は彼の手に戻ったのだった。そして、男は、

「さすがショーエーさんですね。この子は、最高級です。」

と言って、塗料と刷毛を持って、その豚の胴にマークをしたのだった。どうやら、そのマークが最高級を表す記号だった。そして、その男が使う魔法は、豚などの家畜の等級を調べるものの様だった。そして、同じ要領で魔法をかけていき、皆1頭目と同じマークをつけるのだった。そして最後に図体のでかい豚だけとなった。その瞬間、歩のゴクリと息を呑んだ。図体のでかい豚は、歩の様子に目をやりながら、男を出迎えるのだった。男も図体のでかい豚の様子を見て、

「この子は、相当いい子ですね。見ただけで分かります。」

感嘆しながら、図体のでかい豚に手をやった。

「それではいきますよ。」

男は図体のでかい豚に手をやり、魔法をかけるのだった。そして、魔法の光が全身に行きわたり、手に戻っていった。男は、戻ってくる魔法の光の感触に体をゾクゾクさせたが、戻りきるまで集中を途切れさせなかった。そして、戻りきったとき、少し体をふらついたが、体勢を戻しショーエーに体を向けた。

「こんな子は初めてです。脂ののり、スジの入り方、弾力性。この子は最高です。超最高級品です。」

体をワナワナさせながら、ショーエーに言った。それを聞いた歩も、その男の感情に突き動かされたように、涙を流していた。歩は、ショーエーの顔を見たが、ショーエーも泣いていた。図体のでかい豚は、そんなショーエーの姿を見て、満足気な顔をした。

そして、最後の場所である屠殺場に向かった。歩は短い間だったが、巡り合った豚たちと別れの時が近付いていると思うと、寂しさややるせなさを感じていた。そんな表情を見透かしたかのように、図体のでかい豚は、体を歩に軽くぶつけ、気をこちらに向かわせた。

「そんな顔をするな。」

図体のでかい豚は、いつもどおりの表情でそう言うと、歩は余計に目線を落とすのだった。

「でも・・・これでお別れというと。」

話そうとすると、涙がこみあげてきてうまく話せなかった。

「豚の一生はそんなもんだろう。」

「そうですとも。でも我々は、いいご主人に巡り合い、愛情いっぱいに育てられましたから、他の豚よりは幸せな一生だったと思います。」

頭のよさそうな豚がそう言うと、まわりの豚たちも同意するようにうなずいていた。

その満足げな表情を歩は見ていたが、どうしても納得のいかない表情だった。

「」


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