その光の行く先は
「う〜ん」
歩は、光に包まれたあと気を失い、一転して世界が真っ暗に切り替わっていた。しばらく経ったのだろうか、ようやく頭がはっきりしてきた。鼻で息をすると草の香りがし、頰にはその草の感触があった。
徐々に頭がはっきりし出してきた彼の頭の中では、アウロラの宮殿から飛ばされたのだろうと状況を分析しだした。そして、もしかしたら、ここは俺んちの裏手の森に飛ばしたのかもしれない。アウロラが、自身の所業に罪悪感を感じ、俺を蘇らせたのかもしれない。徐々にはっきりしてきた頭の中では、そんな淡い期待を持ち始めてきた。反省してるなら、今回は水に流してしんぜようなどと、考えながら、ようやく目を覚ました。
目の前には、考えたとおり森が広がっていた。普段、外に出ることを嫌がっていたが、蘇ったと思うと、新緑の風がなぜか心地よく感じてしまう。新しい命を吹き込まれた感じだ。
そして、起き上がろうとしたが、なぜか体が動かない。どんなに力をかけても起き上がれない。家から一歩も出ていないとはいえ、そこまで体力は落ちていない。もしかしたら、蘇った直後だから、生命力が底を尽いて、起き上がれないのかもしれない。自分ではどうしようもないと思ったので、とりあえずこの状況を理解しているであろう人物に声をかけることにしてみた。
「アウロラ、いるんだろ?この状況を説明してくれ。」
歩は、この状況を導いた憎き相手に半ば怒りを表に出しながら叫んだ。
「ようやくお目覚めね。いつまでも寝ているなんていい身分だわ。」
いつもの高飛車な口調で、声だけが響く。
「あんたの今の状況の説明?お安い御用だわ。いくらでも説明してあげる。まずはこれを受け取って。」
アウロラは、そういうと歩の目の前に魔法の球を出現させた。その球はグニグニと状態を変化させ、徐々に姿を露わにしてきた。そうして出されたのは鏡だった。
「歩、あんたの姿をよーく見なさい。」
アウロラがそう言うと、鏡は歩の方に向きを変えていった。息を呑みながら鏡を見ると、歩は愕然とした。
「こ、これは?」
鏡から映る自身の姿を見ると、状況を受け止めきれず、そう言うのが精一杯だった。なんと歩の姿は、スライムと思しきモンスターに変わっていたのだ。しばらくの時間が経ち、頭の整理がようやくついたタイミングで、歩はアウロラに語りかけた。
「これって、俺、スライムになったのか?」
アウロラは、その声を待っていたように、楽しげに語りだした。
「ふふん、そうよ〜。あんたは、スライムになったの。これがあんたの第2の人生の姿よ。低脳なあんたにはもってこいの姿ね。」
高飛車な笑いを交えながら話すアウロラの声に歩の頭は憤怒の炎が燃え盛っていた。そして、アウロラの声がする方向へ突進しようとするが、前に進めなかった。そのことで、憤怒から一気に焦りに気持ちが切り替わってしまった。
「前に進めない?もしかして、新しい身体に切り替わった影響で動けなくなったのか?」
と思っていると、その心を読んでいたアウロラは、すべて計算づくと言わんばかりにもったいぶるような声で話を進めた。
「あら?動かないの?そうでしょ〜!あなたの新しい身体が慣れるまで、私がレクチャーしようと思ったのよ〜?」
宮殿で歩の様子を見ていたアウロラは、ゲーム機と思しき機会を手にしていた。悪趣味にもその様子を歩にも見えるようにわざわざ映し出した。
「お前、まさかそのゲーム機で俺を操ろうとしているのか?」
「ピンポーン、大当たり!顔はイマイチだけど、あんたのそういう勘のいいところ、私は好きよ!」
そのようなやり取りをしていく間に、歩の不安は極限にまで達していた。ただでさえ青いスライムが、さらに青くなっているような感じさえした。逆にアウロラは、その歩の姿を見て悦楽の極に達していた。そして、コントローラを握りしめると、
「ナーバスライム、行くわよ」
と極限にまで青くなった歩に変な名前をつけて、コントローラのBボタンを押しながら、矢印キーの上を押した。
「変な名前を付けるなよ〜。」
と言いながら、歩はもの凄い勢いで、森の中を進めていった。自分の力で進むとそれほどの怖さがないのだが、他の者に体を預けることほど、怖いものは無い。目の前に木があっても、普通なら避けるか、手でショックを吸収しながら止まるかができるが、そんなことはできる状況ではない。歩は目の前の木に迫る木に恐怖するが、アウロラはギリギリのところで、避けるのであった。しかし、ギリギリ避けることが、かえって歩の恐怖心をさらに増長させるのだ。今度はぶつかるのではないか?ぶつかったら、木っ端微塵になるんじゃないか?と木が迫るたびに思うのだった。そして、スライムになった歩の身体は、恐怖心が増すたびに青さを増していき、紺色にまで染め上げられてしまった。そして、長い時間が経ち、歩の精神と体力は極限にまで達してしまった。それを見計らったようにアウロラは、コントローラの操作をやめたのだった。
「はぁはぁはぁ、やっと、終わったのか?」
息を切らしながら、途切れ途切れの絞りきったような声で歩が話すとアウロラは、
「これからがメインディッシュよ!」
と更に追い討ちを掛ける一言を発した。
そういうと、歩の目の前には、いかにも強そうな戦士が立っていた。その姿を見た瞬間、俺は死ぬと直感した。いかつい顔、大きな身体、それを纏う頑丈そうな鎧に、重みだけでスライムなどは潰れてしまいそうな巨大な剣、目の前の男の風貌は、歩が確実に殺されて当たり前なものだった。
「あんたも身体が慣れてきたと思うから、身体の制御は、あんたに戻す。そして、チュートリアルの締めとして、目の前に立つ勇者コバヤシを倒して貰うわよ?」
アウロラは、そういうとコントローラを手放し、歩の様子を見ることにした。
「チュートリアルでこんな強そうな奴が出るゲームなんて、あるはずないだろう?初期のファミコンより、タチが悪いわ!」
恐怖心にあえいでいた歩の頭は、アウロラへの怒りに切り替わった。しかし、コバヤシは歩の怒りを払拭するように近付いてきた。そして、コバヤシは頑丈そうな鎧を脱ぎ始めたのだった。スライムと見て、鎧や剣など無くても倒せるという、挑発行為のような感じに見えた。その姿を見ながら、挑発され軽んじられていることへの怒りが芽生えたが、同時にそれだけ強いのかという恐怖心がないまぜになっていた。しかし、その2つの思いのほかに、歩は対峙する勇者コバヤシを見て、ふと思った。
「コバヤシ、コバヤシ、確かにどっかで見た気がする。」
と歩が思った。そして、フンドシ一丁になった途端、一気に確信に変わった。
「もしかして、お笑い芸人のジュージュツコバヤシか!」
と思った瞬間、コバヤシは歩に突進した。歩は避けようとしたが、先程の疲労で動くに動けなくなってしまった。アウロラは、すべてを計算づくで、歩の身体の動かす権利を歩に戻したのだった。
「謀ったな〜アウロラ!」
そう歩が言ったあと、コバヤシは歩に向かってダイブした。歩はボディプレスで圧死させられるのだろうと思った。そして、すべてを諦めたかのように、歩は目を閉じた。が、次の瞬間、スライムになった歩の体は、ダイブしたコバヤシの方向へ体を伸ばしたのだった。そして、伸びた歩の体の上で、コバヤシは体を上下するのだった。コバヤシはその感触を楽しみながら、何者かに取り憑かれたように、体を上下しまくった。
「こ、これは?っていうかこの先っぽが当たる感触、気持ち悪!」
歩は、逆にコバヤシの体や先端が当たる感触に戦慄していた。
「このコバヤシは、強くてかなり先の方まで行っているけど、たまにスライムの感触を楽しみにここら辺に戻って、こんなことしているのよ〜。」
とアウロラは、歩の疑問を感じ取り、歩の頭の中で声をかけた。
「自分がやるなら、まだいいけど、やられる側だったらこれは嫌すぎだろう。」
と歩は叫んだが、それに呼応するかのように、上下の運動は激しさを増していった。そして、コバヤシはフィニッシュと言わんばかりの絶頂した恍惚な顔を見せるのであった。




