5日目
まさか、思わなかったのだ。
メニュー表ばかり見ていた僕が顔を上げると、瑠奈ちゃんがさっきまでの輝く笑顔からは考えられないような表情で、こちらを見ているなんて。
色っぽくて、何を考えているのか分からなくて、今にもどこかに消えてしまいそうな顔。
…その表情を見て、一目惚れのような、心をグッと捕まれる、そんな気持ちになるなんて。
そんな気持ちになってしまった僕は、結局LINEも電話番号も交換してまったし、帰りだって家までおくってしまった。
しかもあげくの果てには、次に会う約束までしてしまった。
…本当に僕は、どうしようもないやつだ。
次の日、昨日よりも更にニヤニヤした表情の健助に、昨日のことを全て話させられてしまった。
「へー。それでLINE交換して帰ってからLINE送ったんだ?次会う約束までしたとは。たつ君なかなかやるじゃんー。」
きっと僕は今、相当落ち込んだような表情をしている。
なんでこいつはこんなにニヤニヤして嬉しそうなんだと腹が立った。
「お前、あの子が高校生でしかも名字が鈴木だからあんなに楽しそうに紹介してきたんだろ。」
「そーそー。でもさ、やっぱりお前のこと心配な気持ちもあるって。」
相変わらずニヤニヤしている健助からは、何の説得力もない。
でも、前と変わらずに接してくれる健助を見て、嬉しい気持ちもあった。
三咲の紹介で仲良くなった友人とは、最近気まずくなって話をしていない。
健助も、中学高校と同じで、三咲からの紹介で仲良くなったわけではないが、三咲と幼馴染みなので俺より三咲とのほうが仲がいいはずだ。
「でもさ、別れてすぐに誰かのこと気になり始めるとかさ、すごい僕軽いやつじゃん。」
「いやいや、浮気したことある時点で軽いから。」
わっと笑った健助だが、すぐに笑うのをやめて、真剣な表情になる。
「…でもさ、確かに、他の人から見たら、軽く見られるかもしれない。でも俺は、軽いとかそんなことより、お前が落ち込んでるほうが嫌だからさ。たつ君が1日でも早く幸せになれそうだったら、軽くてもなんでもいいと思うよ。だからとりあえず、いいかげんその落ち込んだ表情やめてくれ。」
真剣な表情を崩して、くしゃっと笑う。
まさかそんなことを言われるだなんて思ってもみなくて、目をそらした。
「…さんきゅ。」
本当は、もっと言いたいことがある。
もっともっと感謝の気持ちを伝えたい気分だったが、恥ずかしくて思わず話をそらしてしまった。
…昨日の、あの子なら。
るなちゃんなら、あの輝くような笑顔で、たくさん感謝の言葉を伝えそうだな。
「まさか送ってくれると思わなくて、すごい嬉しいです!暗いし怖かったんで、ほんとうに助かりました!」
昨日家まで送った時、るなちゃんはたくさんのありがとうをくれた。
家まで送っただけでそんなに感謝されると思っていなくて、思わず笑ってしまった。
そしたら、「今日始めて笑ってくれてうれしいです。ありがとうございます」だなんて言うものだから、僕はもっと笑ってしまったのだ。
瑠奈ちゃんのことを考えている自分に気がついた。
昨日まで三咲のことばかり考えてしまっていたのに、今日考えるのは瑠奈ちゃんのことばかりだ。
これがいいことなのか悪いことなのかよく分からないけれど、健助の言うとおり、軽くてもいいから、もう三咲のことは忘れようと思う。




