出会い
健助に連れられて来たのは、僕なら絶対入らないような、おしゃれなカフェだった。
確か、最近大学の近くにオープンしたカフェがとても美味しくて雰囲気もいいと、話題になっていた気がする。
「紺色の服着てるらしいから。頑張れよ!」
そんな健助の言葉に急いで後ろを見ると、もう健助はカフェから出るところだった。
え、え、おいおい待ってくれよ。
僕もカフェから出ようか?このまま一人で行ったほうがいいのか?
悩みながら店内を見回すと、奥の席からじっと僕を見ている女の子がいることに気づいた。
僕と目が合ったその子はパッと笑顔になり、こっちこっちと手招きをしてくる。
…あの子か。多分あの子だよな。
とてつもなく恥ずかしいので、おしゃれな店内を見回すふりをしながらゆっくりと歩いていく。
手招きをしてくれた女の子の席に着いてから視線を向けた僕は、大変なことにやっと気づいた。
紺色の服…って…。
制服じゃねえかよ!!
「えーと、健助の知り合いの子だよね?」
とりあえず問い掛けると、はいっと明るい声で返された。
とても可愛らしい女の子だ。
「えーと…高校生?」
もうひとつ大事なことを質問すると、先ほどよりももっと笑顔になった。
「はい!高校3年生です!」
…可愛い。確かに可愛い。
笑うとどこかのアイドルのようだ。
確かに可愛いけど…高校生はやめてくれ、健助。
とりあえず席に座って、まずメニュー表を見始めた僕に、女の子はずっとニコニコしながら質問をしてくる。
「こういうカフェはよく来るんですか?」
「今日はどんな授業をしたんですか?」
「大学は楽しいですか?」
ほぼうん、や違う、で返事をするのに、返事を返す度にそうなんですか!と輝く笑顔を向けられると、戸惑ってしまう。
よくない印象を持ってもらおうと、メニュー表ばかり見て返事もそっけないものなのに、こんな笑顔で話をされると、罪悪感が沸いてきた。
「お名前は?」
僕からの初めての質問に、女の子は目を輝かせて言った。
「鈴木瑠奈です!」
僕は一瞬止まってしまった。
鈴木だなんてよくある名字だ。
特別珍しいとかそんなことは全然ない。
でも、僕にとっては特別な名字だった。
鈴木三咲。
三咲の名字は、鈴木だった。
健助は、面白半分でこの子を僕に紹介したんだ。
確かに、可愛いしいい子そうだしスタイルも良くて胸も大きい。
それに、僕に好意を持ってくれている感じがする。
でも、それだけであんなににやにやしていたのではない。
高校生ということと、名字を聞いて、健助はあんなににやにやしていたのだ。
高校生とカフェで二人でいるところを誰かに見られたりしたら、質問攻めに合うだろう。
ましてや、僕の友人はそういうのを茶化すやつらが多い。
…制服を着ていて、しかも名字が元カノと同じだなんて、茶化すのが大好きな友人達はあれやこれやと言うだろう。
やっぱり、少し話したらすぐに帰るのが良さそうだ。
瑠奈ちゃんの質問に答えつつメニュー表を見ながら、僕は早く帰ることばかり考えていた。




