無言
あ、しまった、と思ったのは、抱き締めて数秒が経ってからだった。
なにか言葉を口にすることはできないのに、考えるスピードだけは無駄に速い。
振りほどかれないのは嫌じゃないからかな、それともビックリしているからかな、もしかしたら次に口にする言葉次第では、僕のことをまた認めてくれるだろうか。
だとしたら、何て喋ればいいのだろうか。
いい結果になるには何を言えばいいのか、何を言えば悪い結果になるのか。
いくつか候補は出てきたけれど、なんだかどれもよくない気がして、焦る気持ちだけが沸いてくる。
無言で抱き締めているまま、どれくらい経ったのだろうか。
回した腕に、三咲の冷たい手がそっと置かれて、思わずビクッとしてしまった。
「え、手置いただけでビックリしすぎでしょ。」
クスクスと笑う声が、すぐ近くに聞こえる。
急に恥ずかしくなった僕は、ゆっくりと三咲から腕を離した。
三咲相手に恥ずかしい気持ちになるなんて、いつぶりだろうか。
「ねえたつくん。」
ゆっくりと話始める三咲は、こっちを向いてくれない。
どんな表情をしているのか分からない。
でも、その明るい声から、僕のさっきしてしまった行動は、いい結果になったのだと思ってしまった。
「昨日、女の子とデートしてたんでしょ?」
予想していなかった言葉。
急に手足が冷えていくのを感じた。
「私、知ってるよ。相手高校生でしょ?ときめいちゃったんでしょ?また遊ぶ約束したんでしょ?」
一緒に居たことだけならまだしも、どうして次の約束をしたことまで知っているのか。
どうしてと聞きたいのに、言葉が出ない。
ゆっくりと頭をこちらに向けた三咲は、声を出すことのできない僕を見てくすっと笑うと、また公園の出口へと歩いて行ってしまった。
もう、僕には引き留めることはできない。
大袈裟じゃなく、世界が終わってしまったような感覚。
桃花ちゃんの話から、まだ希望を捨てることができていなかった自分に気づいてから、三咲との4年間は本当に終わったのだと思うと実感する。
冷えきった手足に、まだうるさい心臓の音。
頭の中では冷静でいられていると思うのに、意思と関係なく震える体。
三咲は、さっきどうして笑ったのだろうか。
ああ、僕は何をしているんだろう。
抱き締めた時三咲から伝わったきた、心臓のドクドクという感覚が、腕から消えない。




