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第26話 宋雀の砂

 宋雀の石が有名になり面白くなかったのは兄弟子だった開雀だった。師から宋雀と共に認められていた開雀だったが、器量の小ささが目につき宋雀ほどの人望はなかった。開雀は師と宋雀の話を盗み聞きし、宋雀が石を置いた村に宋雀の使いだと言って石に手を当てた。石を見ると下に砂が落ちているのを見た開雀はそれを袋に入れて持ち帰った。

 開雀は砂をかき集めて小瓶の中に入れた。それを玄関に飾るが効能が薄い。確かに金回りはよくなったが、それも思っていたよりわずかだった。

 試しに開雀は砂を庭に撒いた。撒いた後、取返しのつかないことをしたと思ったが後の祭りだった。効能はすぐに表れた。ろくに手入れをしていなかった庭の木々が生き生きとし出した。花は咲き、その美しさに見とれる人々。開雀は砂が命を吹き返させて、人々の自分への評価を上げるものと解釈した。

 しばらく十年ほどは上手く転がったが、手入れをしなくなった庭はすぐに荒れて、人の巡りも悪くなった。開雀は石の下に落ちた砂を狂気じみた表情で探し出して庭に撒いた。

「効能はどんなもんだったか。分かるかい」

「生物を生き返らせて、人を呼ぶ」

「ほとんど正解だ。開雀は生物が人にも及ぶことに気づかなかった。宋雀はその異変に気付きすぐさま開雀を諭したが、開雀はもう止まらない。死にどんどん近づき、果てに最も咲き乱れた庭で首を絞めて亡くなった。それで砂はどういうもんだったか」

「石は幸運をもたらせた」

「そうだ」

「砂は使った力の残滓で、不幸を内包した物体。最後には」

「一番の輝きを見せるのは今までの不幸を丸め込んで最後の輝きなのかね」

「でも幸福の次は不幸。不幸の幸福も最後に生むのは不幸だった」

「砂は残骸だ。石の効能があるからいい効力を発揮したが、ほとんどが悪や不運をまとったもんだ。それを庭に撒けば」

 待て、どこかで頭によぎった話だ。

 人が生き返り、ある人は首を絞めて殺されて、大金持ちというよい効果を発揮した。凶の鏡も人を生き返らせて、鏡を持つ前に戻される。

「周作くん、少し聞きたいことがある」

「なんでしょう」

「この家は大きいが、いつからこんな大金持ちになったか分かる?」

 普通に考えたら覚えていないだろう。生まれたらもう豪邸に父親は実家としていたと答える。

「大井の伯父伯母は昔から大豪邸でした。でも正直、亀岡のおおじい様は頭にはなかったです。ここに訪れたのは二回目で前は、前は」

「前は?」

 表情から混乱が見受けられた。ここは大豪邸で集まったのはやはりお金持ちだ。待て、考えると変なこともある。経済的に余裕があるなら、周作の和装は粗末すぎる。

「家はどこに」

「堺の長屋です」

「父親の実家はこんなに大金持ちなのに」

 本当に経済的に余裕があるなら息子に援助を惜しまないだろう。それがない上に高谷は気づかなかったが、ここの屋敷の人間の服装が粗末すぎる。何というか、慣れていない。

「隠されているのは凶の鏡ではないかもしれない」

「宋雀の砂だと」

「あぁ、その可能性はある」

 その場合があれば、凶の鏡よりも質が悪い。凶の鏡は四人殺せばいいが、宋雀の砂は撒いてしまえば故人をよみがえらせ持っている人間に害をなす。凶の鏡は最悪椎名に持ち込めば対処が出来る。なんなら呼びつけてもいい。

「話だとよみがえる人間に際限はないですよね」

「そうだ。だから周作くんが死んでいるかもしれない」

「僕の両親も、でも同じです。四人消えるか故人と会っているか」

 俺は外の人間なので、故人ではないことが分かるが周作は中の人間だ。きっとこの屋敷を出たら故人が故人になり、もう会えなくなる。

 周作にとって幸せな数日になる。

「僕が死んでいると」

「その可能性はあるよ」

 弟子にしたいくらいの逸材なのでそばに置きたい。千が威嚇する未来は容易に見える。

「とりあえず候補は」

「宋雀の砂と凶の鏡、成金のかんざしだ」

「成金?」

「貧乏人が持てば大金持ちになり、持っていると生気を吸われる」

 周作の帳簿には載っていないか、もしくはそこまで読み込んでいないか。周作の帳簿をめくり、該当ページに行き当たり、指で示した。

「似ている?」

「どこかに封印されているのか。内藤という使用人に心当たりはないか」

「確かに見ていませんね。前に来た時は一緒に遊んでくれたのですが」

「ありがとう。うちの使用人も見ていたと」

「使用人さんはどこへ」

「ご飯時以外見ていないな」

「あえて遠ざけられている」

 まさかとは言い切れない。千がいた方が捜査は楽だ。南山家のことを良く知っていて、内藤を知っていたら話も早いだろう。そして遠ざけられているとしたら南山家にとって都合がよい。

 凶の集いを行うのは南山家を知っていると都合が悪く、考えてみると消す四人の中に俺たちは含まれていない。招かれざる客で中のことを外に出したくない。

「明日、奧の間に行きましょう。しめ縄で封印されているはずです」

「分かった。とりあえず案内して欲しい」

「どこへ」

「自室がどこか分からない」

 寝つきも寝起きも悪い方だ。目を覚ますとちょうど高谷は井戸から帰って来た頃だった。寝巻は用意して貰ったが、浴室は使わせてもらえないらしく、残暑なので朝に水の方がいい。すっきりと起きたせいで高谷は大変驚いていた。

「明日は大雪だな」

 散々な言われようである。

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