第18話 手紙の差出人
禍々しい気配は扉の外で感じることが出来る。配当された品を見て、誰の手札がそうなのか知るのは重要に感じた。まさか本当の意味で生きている人間が幽霊によって品を盗られても文句は言えない。千の言う通り子どもなので後に何か言われたら謝罪し、理由を話せば聞いてくれるだろう。
素人にはどういう物かは分かるまい。昼までには揃った。佐川は開けていて、これだろうと思って持っていたという。
開けてみたが、帳簿の情報からこれといってすぐに障る物はない。数回確認した。千を信じていないようで気が苦しかったが、必要なことだ。だが、自室に置くのは不格好で好んで置く物ではなく、わざわざ持って来ない。稲生は衣を取った。本人はおそらく不安で爆発寸前だろう。
「では誰が置いたのですか」
唐衣はどこで用意されたのか。そしてその人物は半日持ったはずだ。鹿内氏か、何を狙って、何か目的があってそうしたのか。障りを信じていなかったのか。頭に引っ掛かるのは主の笑みだ。主が用意した。どこから手に入れた。
これがうちの品物なら元を突き止めることが出来るのに悔しい。高谷がいれば事は易々と進むのに。
「どうしたのですか」
「どこからか出る場所があれば、高谷に確認するのに」
「それなら窓から出ることが出来ます。早朝にはここに戻ることが出来るかと」
その船に乗りたいが、この幽霊がどれほどの権利を持っているか怪しい。正面突破が無理なら頼りは窓になるだろう。俺はリストの内容を持ってきた紙に書き連ねて千に渡す。
「いいかい、これらの盗難届が出ていないか調べておくれ」
千を見送った。下から昼食を告げる声が聞こえた。下に行くと騒がしい。
「それでまた死ぬの?」
美琴の顔色はすこぶる悪い。
「死亡者は三人。これ以上は出ないのか?」
佐川は紙を見ながら、震えた爪楊枝で歯を触っている。稲生が落ち着かない少し不安定だった。
「それでは皆さん、頑張ってください」
出されたのは素麺とトマトだった。ちゃんと千の分も用意されていたが、何も聞かれずにさげられた。俺は食卓に残って新聞を読んでいた。外界にはなんらかの情報が転がっているかもしれない。
部屋に戻って紙を手に取った。この桜華会の狙い、人を殺すこと、中から出ることが出来ないこと、犯人は誰か。そして、あの将門の唐衣は本物なのか。
もう一度、鹿内氏の部屋に行くのは嫌だった。ちゃんと調べるには数分のことだ。両頬を叩いて自室から出た。明かりをつけると薄暗い中で生臭い。床に置かれている布を見た。赤い人形にしては大きい着物だった。禍々しい力。これが将門か。ただ見たことのない品は骨董屋としては非常に気になるもの。どうせ縮んでも困る人生ではない。
俺は敷かれていた布をそっとめくった。
「夕食でございます」
千は明日と言った。千を待ちたいが、桜華会の中で謎解きをするにはこの会が終了してからになるか、駅で解散してからになるかは分からない。ここは探偵が探偵として役割を終えるのは不利すぎる。夕食はハンバーグだった。
生きている側の人間たちはみな悩ましい顔をしている。死者からの手紙は超常現象だが今も集落によっては信仰の対象だ。
「どうかされましたか」
主はナフキンで口についたソースを拭いている。俺は手紙を書いた。告発状だ。
「鹿内さんをどこにやったの」
美琴の声は不安で震えている。
「ちゃんと安置しておりますよ」
「では本当に寝転がっているのは鹿内さんなのかい」
佐川の言葉に主の表情がゆがむ。
「何が言いたいのですか?」
「この手紙によれば」
佐川が稲生から封書を受け取った。
「差出人は誰ですか。まさか幽霊とでも」
主は嘲笑気味に笑った。
「みんなで読んだよ。差出人は鹿内さんだ」
そう。この手紙は鹿内氏が書いた物と記した。
「死んでいたのでしょう」
「あぁ、その時は死んでいるように見えた」
「答え合わせは明日でもいいはずです」
「鹿内さんはまだ死んでいない」
佐川の言葉に主はゲラゲラ笑った。
「博打のし過ぎで頭が悪くなったか」
佐川は目に見えて怒っている。冷静になれよ、間違えるなよ。
「まだ話は終わっていない」
佐川の声には乱暴さが見えた。当たり前だ。職業を侮蔑にされたのだ。
「終わっている。鹿内は死んでいる」
「アンタが鹿内さんでないかを私たちは疑っている」
稲生の言葉に主の表情には一瞬ほんの少し焦りが見えた。
「何を根拠に」
そんなわけないと言えば、はっきりしたのにここで濁してしまったらその可能性があると思わせてしまう。
一昨日より以前に鹿内氏は代替わりをしたと通告が行っているはずだ。美琴のように親が存命でも代替わりをするということはあり得る。
鹿内氏は若くスマートで親切な人柄であり、たった一度も先代鹿内氏の息子だとは言わなかった。それが余計に鹿内氏は跡継ぎであることの信用を深くさせた。佐川の部屋を早朝に叩いたこともそうだ。
美琴はともかく俺は少なくとも先代の息子ではないが、本物の鹿内氏は昨日の新聞で政財界から引退をすると掲載されていた。
実は鹿内淳という人間は存在するらしい。三文記事なので真偽は不確かではないのだが、先代の弟で病に臥せっているのが鹿内淳なのだ。鹿内氏の公式の代替わりは昨日で、弟は病に臥せっている。若い鹿内氏を名乗る男。その上、主の不可解な表情。それだけしかない、それだけがこの主の鹿内説だ。これ以上は俺の情報では分からない。
「それで何か弁明はあるかな」
対して佐川と稲生は勝ちを確信した。
美琴は何か考えているのか微かに首を動かしながら難しい顔をしている。何かを振り出そうとしているようだ。それが何でそう作用するか分からないが、話には入って来ないからして、この手紙の脆弱性を察しているのだろうか。
これでは鹿内氏が偽鹿内ではある指摘にしかならない。目の前の主が鹿内であるとはどこも書いていない。ここで主はいうだろう。
「それで私が鹿内である証明は?」




