■2■04:カウントダウン
廃坑からリツをアジトへ連れ帰ってから、私たちの奇妙で、そして酷く残酷な「数日間」が始まった。
リツは消滅しなかった。心臓が破壊されたわけではないからだ。しかし、悪魔の呪いをすべて極悪人に譲渡してしまった彼は、その身を繋ぎ止めていた「人間の姿と精神」をも急速に失いつつあった。元が野生の蛇である彼にとって、人間の形と思考は、悪魔の呪いがもたらした副産物に過ぎなかったのだ。
「……ねえ、『----』。まだ、僕の手、あたたかい?」
一日目の夜。ベッドの横に座る私の手を、リツは弱々しく握りしめていた。
蛍光黄緑のメッシュが入った髪は生気を失ってパサつき、その指先は驚くほど冷えていた。かつて瞳のなかった黒い目には、いまや薄濁った琥珀色の、本物の蛇のような縦長の瞳孔が浮かび上がっている。
「冷たいよ。蛇みたいに」
「あはは……そっか。だって、僕、もともと蛇だもんね」
リツは寂しそうに笑った。その声音は昨日よりも一段と掠れ、微かに音節が崩れ始めている。
私が彼の額に触れると、皮膚の境界線が内側からぐずぐずと崩壊していくような、不気味で悲しい感触が伝わってきた。
二日目。カウントダウンは無慈悲に進む。
朝、目を覚ましたリツの右腕は、すでに人間のそれではなくなっていた。肘から先が、禍々しい蛍光黄緑と青緑の鱗にびっしりと覆われ、指先は鋭く曲がった爪へと変化している。
「あ、う……『-』、『--』……」
リツが私の名前を呼ぼうとしたが、舌がうまく回らないようだった。彼の口元を見ると、かつて歯ブラシのように融合していた牙は抜け落ち、代わりに細長く二つに裂けた、本物の蛇の舌がチロチロと唇の隙間から覗いていた。
人間の思考が、砂時計の砂のようにこぼれ落ちていく。
彼は私の手を握ろうとしたが、爪が私の肌を傷つけるのを恐れたのか、鱗に覆われた腕を途中で悲しそうに引っ込めた。そして、ただじっと、言葉にならない哀願を込めて、琥珀色の目で私を見つめ続けた。
三日目。部屋にはもう、人間の言葉は響かなかった。
ベッドの上にいたのは、上半身の半分以上が美しい青緑の鱗に覆われ、下半身が長い蛇の尾へと完全に変貌した異形の少年だった。
「シャ、……シュルル……」
リツの喉から漏れるのは、威嚇ではない、ただ私を呼ぼうとする切ない摩擦音だけ。
彼はもう、衣服を身に纏うこともできない。ただ、ベッドのシーツに長い尾を巻き付け、寒さに震えるように小さく丸まっていた。
私は、その青緑の鱗に覆われた身体を、そっと抱きしめた。
かつて私を熱烈に愛し、「契約したんだから、君も僕を愛しているだろう?」と無邪気に迫ってきた少年の面影は、もうほとんど残っていない。私が頑なに心を閉ざし、彼の愛を拒絶し続けた結果が、この哀れな退行の姿だった。
私を「人間」に戻すために、彼は迷わず自分の人間性をドブに捨てたのだ。
抱きしめたリツの身体からは、人間らしい体温が完全に消失していた。凍りつくような冷たさが、私の胸へと伝わってくる。リツの琥珀色の目が、涙を流すこともできなくなった乾いた眼球が、じっと私の顔を映していた。
彼の頭から、蛍光黄緑の髪がハラハラと抜け落ち、その下の皮膚が完全に鱗へと上書きされていく。
人間の思考が完全に消え去るその瞬間まで、リツはただひたすらに、私の顔をその網膜に焼き付けようとするかのように、瞬きもせず見つめ続けていた。




