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幹事スキルで、修羅場も段取りできますか?  作者: tomato.nit


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第十話 戦いとは


 うるさい。


 金属音と足音と、誰かの叫びが重なって、通路の中で跳ね返る。

 

 機材がぶつかる音、指示が飛ぶ声、逃げる足。


 煩い飲み会みたいに、全部が同時に鳴ってる。


 足元で器材が散らかってる。片付いてない皿みたいに、動線に引っかかる。


 ゴーレムはそのまま押してくる。


 通るはずの攻撃が、通りきらない。削れてはいるのに、止まらない。


 カリンの差し込みも、芯を外していないのに決めきれない。


 動きが噛み合ってない。


 酔ってるみたいに、タイミングが半拍ずれてる。


 ――やりづらすぎる。


 通路が狭い。


 距離が近い。


 魔法の溜めが削られる。


 でも、さっきよりは回ってる。


 整えた分だけ動けてる。


 それでも足りない。


 カリンに声をかける。


「カリン!」


 ――通らない。


 雑音に飲まれて、こっちの声が消える。


 もう一度。


「カリン!」


 やっぱり通らない。


 ……居酒屋かよ。


 息を吸う。


 腹から出す。


「カリン、右!」


 通る。


 カリンが反応して、半歩だけ位置がズレる。


 その瞬間。


 ――音の中で、何かが噛み合う。


 この配置じゃダメだ。


 ……いや、まだ足りない。


 グラスじゃない、隙が、まだ埋まってない。


 何か、使える物はないのか。


 マイク、カメラ、荷台。


 どれも違う。


 視界の端で、スタッフが足を取られて転びかける。

 


 ケーブルが引っ張られて、ライトが一瞬だけ揺れる。


 影が二つに割れて、距離が狂う。


 ――邪魔だ。


「ライト、下げて!」


 反射で声が出る。


 誰かが反応して、角度が少し落ちる。


 影が一つにまとまる。


 カリンの踏み込みが、半歩だけ深くなる。


 それでも――足りない。


 剣士が押し込む。魔法が落ちる。  


 カリンが差し込む。


 繋がりそうで、繋がらない。


 空いたままの一瞬。


 そこに、誰もいない。


 空いたグラスみたいに、そのまま置かれてる。


 ……そこ。


 視界の端にミアが入る。


 ――あ。


「ミア、合図出すから――頭、やれるか」


「で、でも……!」


 声が震えてる。


 そりゃそうだ。


 でも、そこしかない。


「頼む」


 前に出る。


 半歩だけ。


 ゴーレムの視界の端に入る。


 向きが、わずかにズレる。


 カリンがそれを見て、呼吸を合わせる。


 剣士が圧を足し、魔法使いが息を止める気配が背後で揃う。


 ――来る。


「今!」


 落ちてくる光に合わせて、剣士が押し込み、カリンが踏み込む。


 その奥、空いたままの一拍に、ミアが滑り込む。


 一瞬だけ迷う動きが見えたが、それでも振りかぶり、そのまま叩き込んだ。


 鈍い音が頭部に響き、核に届いた感触と同時に、ゴーレムの動きが止まる。


 ほんの一拍の硬直。


 その隙を逃さず、カリンがもう一度差し込み、剣士が体勢を押さえ込む。


 重ねるように魔法がもう一発落ち、表面が崩れたところから一気に全体が傾いた。


 遅れて、巨体がそのまま倒れ込む。


 静かになる。


 さっきまでの圧が、嘘みたいに消える。


 誰もすぐには動かない。


 ミアが、思い出したように、大きく息を吐く。


 俺もつられて、息を吸う。


 カリンが剣先を下ろして、肩で息をする。


「……今の、見えてた?」


 ぽつりと、カリンがこっちを見る。


 視線が合う。


「なんとなく」


 そう返すと、カリンは小さく笑って、すぐに真顔に戻る。


「助かった」


 短く、それだけ。


 それ以上は言わない。


 それでいい。


 周りでも、遅れてざわめきが戻る。


「やった……?」「終わったのか?」


 機材を抱えたまま、誰もが様子を伺っている。


 カメラだけが、まだ回っている。


 ……終わったのか。


 少し遅れて、実感が来る。


 どうにか、うまく回ったな。


「いいね」


 ディレクターの声。


 変わらない調子。


 でも。


 ほんの少しだけ、間があった気がした。



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