第1話 魔蜘蛛の召喚士
どうも、金林檎です。
プロローグを読んで、続きを見ても良いかな?と思ってくださった心優しい読者様に心からの感謝を贈りたいと思います。
それでは第1話 魔蜘蛛の召喚士をお楽しみください。
春薪時和の話しをしよう。
彼は《召喚士》である。年齢は16歳、4月生まれの牡羊座、階級はDランク、プロ寄りのアマチュアと言った立ち位置で、学生の身分でこの階級は非常に珍しい。
では、彼は才能豊かで優秀な《召喚士》なのかと言うとそうでも無かったりする。
彼個人の才能だけで言えば最低ランクのFランクが精々、下手をすれば《召喚士》にすらなれなかったかも知れない。
そんな彼が何故、プロ一歩手前の評価を受けて居るのかと言うと、彼が使役している召喚獣が余りにも強力であるからである。
彼の使役する召喚獣は《女王魔蜘蛛/アラクネ》、Bランクの位置に階級される強力無比なモンスターだ。
階級がBランクともなるとプロと呼ばれるCランク以上の《召喚士》でも使役するのは難しく、一体も使役していないプロの《召喚士》すら居る。
そんな強力なモンスターが彼の召喚獣になっているかと言うと、過去に宮城県仙台市にて起きた歴史に残る大災害、後の世で語られる【東北の悪夢】での一幕が有るのだが今は割愛しよう。
身の丈に合わないモンスターとの契約、中学入学前の幼さで体験した【東北の悪夢】を通しての異常な戦闘経験、周りの人々は自分は凄いのだと囃し立てる。その結果、まだ思春期に入ったばかりのお年頃の少年を増長させるのには充分な条件が揃ってしまったのだ。
とどの詰まり中学時代の彼は大いにイキっていた。
《召喚士》でない者や自分よりも階級の低い《召喚士》などを見下し、自分の事を尊大に吹聴する、有り体に言えばいけ好かないクソガキである。
そんな万能感に満ちたパーフェクトクソガキこと春薪時和少年は中学2年の春、とある《召喚士》との一騎打ちにて、ボッコボコのメッタメタにぶちのめされ、肥大化しきった自尊心をベキベキにへし折られた。
そして自分が大した奴では無いと思い知る事となる。
その事が切っ掛けで改心した時和少年はソレまでの態度から一転して謙虚になり落ち着きを見せた。
高校に進学した今では、自身が《召喚士》である事すらも隠して居る程である。
時和は中学時代にチヤホヤされ天狗になってイキっていた自分を恥、慎ましく普通の学生生活を謳歌しようと地元を離れて県外の高校に入学したのだ。
曲がりなりにも《召喚士》として、そこそこの稼ぎが有る時和はアパートを借りて一人暮らしを始めた。新しい生活は毎日が新鮮で楽しく、早くもこの暮らしを気に入っており、高校で友達も出来た。
「なぁ、トッキー。俺さ、召喚士に成りたいんだよね」
そんな俺の友達が俺の目の前でとても面倒臭い事を言い出した。ボールルーム前の朝一番、登校して直ぐの事である。
「花澤ぁ。急にどうしたんだ。頭でも打ったか?」
「おっふ。辛辣過ぎない?」
「んじゃ、理由を言ってみろよ。聞くだけ聞いてやる」
俺は友達思いの良い奴を目指している。友達の世迷い言にも付き合う度量が有るのだ。
「ほら、隣のクラスの武田がさぁ。夏休み明けに、召喚士の資格取って来たじゃん?」
「ああ、あれね?アレは俺も驚いたよ。武田の奴よくやったぜ。素直に凄いと思ったね、俺は」
俺の場合は誰がどう言ってもイレギュラーだ。例外も例外、特殊な環境で偶々なっちゃただけだしな。それなのに昔の俺はイキリ散らかして、ハァ、ホント恥ずかしい、穴があったら入りたい。
それに比べ、隣のクラスの武田は立派だ。
相当苦労したので有ろう事は想像に難くかない。
そもそも《召喚士》成るには最低原価百万円はするDランクの《召喚石/サモンストーン》を用意するのがまずキツイ、学生の身分では相当無茶をしないと不可能だ。
更にはせっかくDランクの《召喚石/サモンストーン》手に入れたとしても、Dランク以上の召喚獣を召喚するには《召喚士》としての才能の有無が重要になってくる。
彼はそれらの難関を乗り越え、高校生の身分で《召喚士》の資格を手にしたのだ。
マジ尊敬である。
因みに俺は相当相性が良くないとDランク以上の召喚獣は召喚出来ない。
先日ナクアに言われた通り、悔しいが俺には《召喚士》としての才能が無いらしい。ちくしょう。
「んで?それがどうしたんだよ」
「武田の奴。皆から、かなりチヤホヤされてるじゃん?」
「そりゃ、普通に凄えからな」
「だったらさ。俺も召喚士になればチヤホヤされるんじゃね?あわよくば彼女なんてもんも出来るんじゃね?──そう、俺は思う訳よ。どうだ?完璧な理論だろ?」
「おう、そうだな。お前が召喚士になれるかどうかを度外視したらな」
「取り敢えず《召喚石/サモンストーン》買う為にバイトを始めようと思うから、放課後遊べる日減るけどゴメンネ?」
「マジかよ」
コイツ、目がマジだ。
どうしよ?俺、メッチャ暇になるじゃん。
しょうが無いな、《地下迷宮/ダンジョン》攻略の日数増やすか。
「よっしゃー!!頑張るぞー!!」
「頑張れ、頑張れ。無理だけはすんなよ〜」
「おう!有り難うトッキー!!」
まぁ、飽きやすい花澤の事だ、直ぐに興味は他に移るだろうけど、マジで成れたら一緒に《地下迷宮/ダンジョン》攻略も悪く無いか。
その後、特にイベントが起こる訳でもなく無事に学校は終わり放課後になった。
花澤はバイトの面接に行くと言ってホームルームが終わって直ぐに小走りで帰えり、俺は一人寂しいく帰路につく。
昨日の今日で《地下迷宮/ダンジョン》に行く気は無かったが、暇になってしまったのも事実。乗り気はしないが、Fランク指定《地下迷宮/ダンジョン》で小遣い稼ぎでもする事にした。
「流石に【魔猪の洞窟】はやだぁ。《召喚士ギルト》に行って《依頼/クエスト》でも受けるか?」
《依頼/クエスト》とは文字通り《召喚士ギルト》の出す《召喚士》に向けた《地下迷宮/ダンジョン》に関する依頼である。
《地下迷宮/ダンジョン》攻略の主な目的である万能資源【タトノス】の採取、又はモンスター討伐時にドロップする《召喚石/サモンストーン》の入手以外のミッションを《依頼/クエスト》として発注するのだ。
俺は《依頼/クエスト》を受ける為に、仙台駅東口にある《召喚士ギルト》仙台支部へと足を運んだ。
「と言っても。この辺の《地下迷宮/ダンジョン》は【千手の導き】のテリトリーだし、美味い《依頼/クエスト》は残って無さそうだ。…………ん?」
《召喚士ギルト》の依頼掲示板の流し見していたら、とある《依頼/クエスト》が目に付いた。
「【魔猪の洞窟】への調査依頼?」
それは先日、《巨大魔猪/ビックボア》とイレギュラーエンカウントをして痛い目に遭ったFランク指定《地下迷宮/ダンジョン》の調査依頼だった。
「なんかあったのか?Eランク指定《依頼/クエスト》の割に報酬も良いが、きな臭いな。辞めとくか」
昨日の事もあり、時和は隣に張り出されていた《依頼/クエスト》の依頼書を取って《召喚士ギルト》の受付所に向う。其処には顔見知りの受付嬢の姿があった。
「こんにちは東宮時さん。《依頼/クエスト》受けたいんだけど、良いかな?」
「あら!春薪さんいらっしゃい!珍しいですね《依頼/クエスト》を受けてくれるなんて、今日はどうしたんですか?」
この人は東宮時雅美さん。
俺が《召喚士》になった3年前からの顔馴染みだ。
宮城県に来てホームギルトが変わったのに受付所に彼女が居た時は流石にビックリしたのを覚えている。
「実は暫く友達と予定が合わなくて暇になったんですよ。なので偶には《依頼/クエスト》でもして小遣い稼ぎでもしょうかなって」
「そうなんだ〜。学生も大変ね?」
「えぇ。まぁ、こんな事もありますよ。それより【魔猪の洞窟】で何かあったんですか?Fランク指定《地下迷宮/ダンジョン》の調査依頼なんて」
「ああ、その《依頼/クエスト》ね。なんか最近その《地下迷宮/ダンジョン》でイレギュラーエンカウントが多発しているみたいなのよ」
なんとタイムリーな、昨日のイレギュラーエンカウントは俺の不運じゃなくて前からなのね。
「それで何か異変が無いか軽い調査をしたいみたいなんだけど。【千手の導き】のクランメンバーが丁度大会時期と被って居なくてね。で、多少色値を付けて《依頼/クエスト》を出したみたい。軽く調査するだけだから春薪さん受けてみれば?」
「いや、辞めときます。昨日【魔猪の洞窟】に潜った時に丁度イレギュラーエンカウントに遭いまして」
「そうなの?まぁ、そう言う事なら無理強いはしないけど。【魔獣の森】の【マッシュヒール】の採取ですね?はい、《依頼/クエスト》受注を確認しました」
「有り難うございます。それじゃ、行ってきますね」
「はい。お気を付けて行ってらしゃいませ」
《依頼/クエスト》を無事受ける事が出来たので、仙台駅から徒歩20分。国分町にあるEランク指定【魔獣の森】へと向かった。
【魔獣の森】は出現するモンスターの階級アベレージがEランクであり。5階層毎のフロアボスは確定でDランクのモンスターが出現する、アマチュア《召喚士》の中でも上級者向けのダンジョンである。
此処は仙台駅から徒歩30分以内に来れて、尚且つ初心者が居ないので、ある程度のんびりと攻略出来る、知る人ぞ知る穴場だ。
「久々に来たな【魔獣の森】。さてさて、【マッシュヒール】は確か3階層にあった筈。慎重に行かなとな」
【魔獣の森】に入って直ぐに、時和は腰に掛けたポーチから《召喚石/サモンストーン》を取り出し召喚獣を召喚する。
「《召喚・女王魔蜘蛛/サモン・アラクネ》来い、ナクア」
時和の呼び掛けに応じる様に召喚陣が展開され、召喚陣の中からナクアが現れた。
「────やっほー、来たよ。トキワ」
片手をヒョイっと挙げて軽く挨拶してくるナクアに、時和も各軽く片手ををヒラヒラさせながら応える。
「ほいほい、ご苦労さん。悪いけど護衛頼むわ」
「────オーケー」
Bランクのナクアが居るだけで魔獣種のEランクモンスターはよって来ないので余計な戦闘を避けられる。
まぁ、その分モンスターを倒せないから、《召喚石/サモンストーン》のドロップも狙えないと言うジレンマも有るのだが。
「今日は【マッシュヒール】の採取だ。5階層のフロアボスとは戦らないから大丈夫だとは思うが、昨日の事もある。イレギュラーエンカウントに気をつけて行こう」
「────えー。我、キノコ嫌い」
「だからだよ。お前は何でもかんでも食っちまうから、受ける《依頼/クエスト》を選ばないと利益が出づらいんだ。せっかく《召喚士》やってるのに、そこら辺の普通のバイトしてる奴と財力が同じって変だろ」
「────狼さんは、食べて良い?」
「出来たら辞めて欲しいんだけど。まぁ、今回は良いよ。でも、さっきも言ったけどフロアボスとは戦らないからな?」
「────わかった。今日は、雑魚で我慢する。トキワ、我偉い?」
「はいはい、偉い偉い」
「────えへへ。褒められちった」
そんなこんなで俺達は3階層へ向けて歩き出した。
ナクアにビビって逃げ出す《魔狼/デア・ウルフ》を糸で絡め取り、モシャモシャとおやつ感覚で捕食するナクアを横目に、俺は《地下迷宮/ダンジョン》とは思えない程、何も出ない道を進む。
ぶっちゃけEランク指定《地下迷宮/ダンジョン》でBランクの召喚獣を使うとか反則も良いところだろう。
「しっかし、ナクアにビビって居るとは言え。《魔狼/デア・ウルフ》の数が少なく無いか?【魔獣の森】ってもっとモンスターが徘徊してたような気がしたんだけど」
「────フラグ?」
「辞めてナクア、俺も一瞬そう思ったから」
昨日のイレギュラーエンカウントが、まだ気になるみたいだ。
警戒するのは良いが、縁起が悪い事を考え続けるのも《地下迷宮/ダンジョン》では良くない事だろう。
その後、暫く道なき道を歩き続け、3階層へと足を踏み入れたその時。俺の前を歩くナクアがピタリと足を止めた。
「────トキワ、止まって」
「どうした?」
「────フラグ、回収」
「…………マジで?」
ナクアが見つめる先で何かが蠢き、ガサガサと茂みの中から一匹の巨大な狼が姿を現した。
「グルルル!!」
《魔狼/デア・ウルフ》の十倍はあるその巨体は【魔獣の森】のフロアボス《大魔狼/デル・ウルフ》ですら子犬に見える程だ。
この《地下迷宮/ダンジョン》での目撃例が無いこの巨狼は、魔獣種の中でもプロの《召喚士》が好んで召喚獣にするモンスター。
「《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》!!?Cランク指定モンスターじゃねぇか!?ふざけんな!2日連続のイレギュラーエンカウントってなんだよ!?」
本来は年に一回有るか無いかのイレギュラーエンカウントと言う厄災に2日連続巻き込まれる事など天文学的な確率だ。
運が良いとか悪いとか言う次元の話じゃ無い。
「いや、待てよ。こっちにはナクアが居るんだ、恐れる事は無い。むしろ、これはチャンスだ。Cランク指定の《召喚石/サモンストーン》とか、手に入れる機会なんて滅多に無いんだぞ。良し!やってやんよ!!」
「────久しぶりのご馳走。じゅるり」
「待って!?ナクア待って!!?《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》の《召喚石/サモンストーン》って最低額五千万円だよ!?今回は食べちゃ駄目!!」
「────今日。我は狼さん、食べて良し」
「クソ!!確かに許可出しちゃてたよ!!俺の馬鹿!!」
「────トキワ。殺して、良い?」
「だぁ!ちくしょう!しょうがねぇ!!ナクア!!殺って良し!!」
「────わーい。トキワ、愛してる」
苦渋の決断を降した俺の指示をナクアは嬉しそうに承諾した。
上半身の人間体が俺に向けて投げキッスを放ちながら、下半身の蜘蛛体は《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》に向けて《女王魔蜘蛛/アラクネ》の強力な糸で絡め取る。
先程までの低ランクモンスターならば、この時点で捕食コース真っしぐらなのだが。
「ウォォォーーン!!!!」
相手は世に居る殆んどのプロ《召喚士》が召喚獣として愛用する高ランクモンスター《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》。
身体中に纏わりついた《女王魔蜘蛛/アラクネ》の糸を口から放った火球で難無く焼き切った。
「─────む。やるね、狼さん」
「ガルルルッ!!」
ランクこそ格下では有るが、《女王魔蜘蛛/アラクネ》と《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》では相性が悪い。舐めてかかると足元を救われかねない。
「ナクア!長引かせるな!支援する、一気に畳み掛けろ!!」
《召喚士》である時和は其れを痛いほど知っている。殆んどのプロ《召喚士》が何故《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》を愛用しているのか、それは、このモンスターが規格こそCランク指定モンスターだが、そのポテンシャルはBランクに限りなく近い。
プロの《召喚士》が運用すれば、野良のBランク指定モンスターをも打倒する事が出来るからである。
「《存在の共鳴/イグニ・リンク》!!」
《存在の共鳴/イグニ・リンク》とは《召喚士》の扱う高等技能の一つ。
全《召喚士》中約5%しか習得していない奥義である。
《召喚士》の受けるダメージを召喚獣が肩代わりするオート機能を意図的に外し、《召喚士》と召喚獣に繋がるパスを限りなく強化、一体化させ召喚獣の存在強度を飛躍的に上昇させるのだ。
春薪時和はナクアと100%合意の親善契約で召喚獣の契約を交わしている為、彼の《召喚士》としての才能を度外視して《存在の共鳴/イグニ・リンク》使用する事が出来る。
存在強度を強化されたナクアは《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》の周囲に複数の魔法陣を展開させ、自らの切り札たる奥義の一つを発動させた。
「────《深淵導糸/エベル・アビス》」
ドロリと視認できる程の真っ黒な魔力が魔法陣から滴り落ちる。
続いて出現した不定形の不吉なオーラを纏う蜘蛛糸が《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》の体中に纏わり付く。
「────バイバイ」
口元も縛られた《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》は断末魔を上げる事すら叶わず、真っ黒な魔力で出来た魔力溜まりの中へと引きずり込まれた。
ソレを見送ったナクアはペロリと舌なめずりをし、両手を合わせてポツリと呟く。
「────ごちそうさまでした」
ナクアは時和の方へと振り向くと、満面の笑みでサムズアップをした。
「────トキワ。我、満足した」
その姿を見た時和は膝から崩れ落ち、コレでもかと項垂れた。
その背後にはドンヨリとしたオーラが見える。
「指示した口で言うのもなんだけど、マジで喰いやがったよ、五千万。…………ちくしょう」
時和はその場でタップリ30分程固まっていたが、その後、フラフラと探索を再開し、無事【マッシュヒール】の採取に成功した。
しかし、時和の表情はドンヨリとしたまま、心の中に深い影を落とし、重い足取りで《召喚士ギルト》に帰るのだった。
「はい。【マッシュヒール】確かに受け取りました。《依頼/ミッション》達成です、お疲れ様でした。こちら報酬の三万円と二階《召喚石/サモンストーン》専門店の割引券です」
東宮時さんから《依頼/ミッション》達成の報酬を受け取り懐へ仕舞う。
「有り難うございます」
「あら?春薪さん、浮かない顔ね?なんか有ったの?」
「…………はい。なんかまたイレギュラーエンカウントに遭いまして」
「なんと、【魔獣の森】で?確かに最近イレギュラーエンカウントの報告は受けて無かったわ。運悪く周期が被ったみたいね。それで何が出現したの?」
「《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》ッス」
「《地獄魔狼/インフェルノ・ウルフ》!!?ホントに!?…………ハァ、遭遇したのが春薪さんで良かったわ。下手したら死人が出てたわね。それで?《召喚石/サモンストーン》はドロップしたの?出来れば当ギルトで買い取りたいんだけど」
「……………………ナクアが本体ごと食べちゃいました。クスン」
「あらま。それは御愁傷様です」
「そんな訳で帰ります。傷心を癒やす為に《幸運兎/ラック・ラビット》の動画をエンドレス視聴。ふふふ」
「ははは。気持ちは分かるけど、気を付けて帰りなさいね〜」
「うい〜ッス」
波乱の一日であったが、何とか無事に終わったようだ。
時和が愛らし《幸運兎/ラック・ラビット》の姿を夢想しながらフラフラと家に帰ろうとしたその時。《召喚士ギルト》に嶽かましサイレンの音が鳴り響いた。
「ッ!!?」
このサイレンは非常事態に発令される《強制指令/ディ・ミッション》の合図だ。
「東宮時さん!!」
「仙台市青葉区宮城県美術館前Fランク指定《地下迷宮/ダンジョン》【魔猪の洞窟】が変換期に入った模様!推定変化レベル《赤/レッド》!!Dランク指定《地下迷宮/ダンジョン》へと情報を修整!」
「ッ!!取り残された人は居ますか!?」
「Fランクの《召喚士》が6名!2階層で監視用の《人工天使/フウライ》が《消失/ロスト》してしまい生死不明です!!」
「俺が行きます!!市内での高ランク召喚獣の召喚許可を!!」
「許可します!!Dランク《召喚士》春薪時和に緊急《強制指令/ディ・ミッション》を発令します!!Fランク《召喚士》6名の生死確認と救出を!!」
「了解!!《召喚・女王魔蜘蛛/サモン・アラクネ》!!来い!ナクア!!」
本来はDランク以上の高ランクモンスターの召喚獣を《地下迷宮/ダンジョン》外で召喚する事は法律で禁止されているのだが、《召喚士ギルト》が発令する《強制指令/ディ・ミッション》を受けた《召喚士》は例外的に市内での高ランク召喚獣の召喚及び使役を許される。
《召喚石/サモンストーン》に魔力を通し、召喚の為の召喚陣を展開させた。俺の呼び掛けに応じ、ナクアが姿を現す。
「────あれ?外だ、珍しい。何か、有ったの?」
ナクアは召喚された場所が《地下迷宮/ダンジョン》では無い事に疑問に思ったのか、不思議そうに周りを見渡す。
「────あ、人間さんがいっぱい居る」
普段は時和としか関わらないナクアは、時和以外の人間が集まる場所を興味深げに眺める。
「ッ!?」
ギルト受付所の広間に居た人達は、サイレンが鳴り始まったと同時に召喚されたBランクモンスターの姿に驚き、一部の人は腰を抜かして尻餅をつく者や、Bランクモンスターの放つ膨大な魔力に宛てら気を失う者も居た。
「────?」
急に倒れたり、座り込む人々にナクアが首をひねているが、今はその事に構っている余裕は無い。
「ナクア!緊急事態だ!!転移門!!」
「────オーケー。転移先は?」
「昨日潜った《地下迷宮/ダンジョン》!!【魔猪の洞窟】だ!!」
「────ん、わかった。《転移門/ゲート》」
ナクアが両手を翳すと目の前の空間が歪み半透明な門が現れた。
「────トキワ、繋がったよ?」
《女王魔蜘蛛/アラクネ》は先天的に魔法に適性のある種族である。
その中でもナクアの魔法適性は圧倒的で、単純な攻撃魔法のみならず空間に干渉する特記魔法【時空間魔法】すらも操れるのだ。
「良し!!人命優先のスピード勝負だ!行くぞナクア!!」
「────なんか、こういうの久しぶりだね?我、ワクワクして来た」
「人の命が掛かっているんだから真面目にやってね!!?それじゃ、東宮時さん行ってきます!!」
「はい!宜しくお願いします!!御武運を!!」
《転移門/ゲート》の中に消えた時和とナクアを見送った東宮時は、後ろから定年の近い年配のギルト職員に声をかけられた。
「ギルドマスター宜しかったのですか?彼の階級はDランクです。《地下迷宮/ダンジョン》の転換期を収めるには些か力不足では?直ぐにでもCランク以上のプロ《召喚士》を充てがうべきです」
東宮時雅美。彼女は《召喚士ギルド》日本国本部のギルドマスターで、《召喚士ギルド》が設立されてからこの時まで、221年の間君臨し続ける生きる伝説。
またの名を【不老の召喚士】、世界に現存する最古の《召喚士》である。
「問題無いとも。君は彼を知らないのかい?」
「と、申しますと?」
「あの子は3年前、この仙台駅で【東北の悪夢】に巻き込まれた憐れな少年だった」
「ま、まさか」
「そう、そのまさかさ」
「【魔蜘蛛の召喚士】………!!」
「そうさ。彼が十全に動くには半端な戦力は寧ろ邪魔だ。それに、春薪さんで駄目なら他の子達でも駄目だろうね。例えAランクの子達でも、こと人命救助では彼には及ばない。なにせ成し遂げた実績が実績だ。彼を信じなさい」
「…………はっ、了解致しました」
コレは時和が知る事の無い一幕。
知る必要の無い蛇足。
彼の過去を知る老齢の古強者は不敵に笑う。
何を隠そう、東宮時雅美は【魔蜘蛛の召喚士】春薪時和の最古参ファンなのであった。
■■■■
《召喚士ギルト》が【魔猪の洞窟】の変換期を確認してから約五分、取り残されたFランク《召喚士》6名を救出すべく、かつて【東北の悪夢】でその名を知らしめた【魔蜘蛛の召喚士】春薪時和が出陣した。
時を同じくして【魔猪の洞窟】5階層にて不気味に微笑む者が一人、静かにその口を動かす。
「おいで【魔蜘蛛の召喚士】また『僕達』と遊ぼうよ」
薄く暗い無邪気な悪意が、再びこの地に悪夢の残滓を振りまく。
誰にも気付かれずにひっそりと。
「君の為に新しいお友達と遊び場を用意したんだ。気に入ってくれると嬉しいな」
───誰かが気付いた時には、もう既に手遅れなのかも知れない。
通り名や二つ名って良いですよね?金林檎も内なる中学二年生がヒョッコリ顔を覗かせます。
第1話いかがでしたでしょうか?切りの良い所まで書いていたらプロローグの約三倍の文字数になってしまいました。最後まで読んで頂た読者様には、金林檎が今日一日良い事がある様に天にお祈りをしたいと思います。
さて。今回はなんか色々出てきましたが、気にせずノリで流し読みして下さい。それでも気になる方はドシドシ質問してきて下さい、出来得る限りお答えします。
拙い文章では有りますが、次回も読んであげても良いかな?と思って下さる心優しい読者様は次回も楽しみにしていて下さい。それでは次回も宜しくお願い致します。




