プロローグ 身の丈に合わないモンスターを連れた召喚士
どうも、金林檎です。
この物語が読者の皆様の暇潰しの一助になれば幸いです。【魔蜘蛛の召喚士】をどうぞ宜しくお願い致します。
仙台市青葉区宮城県美術館前Fランク指定《地下迷宮/ダンジョン》【魔猪の森】。日本に数あるFランク指定《地下迷宮/ダンジョン》の一つであるこの【魔猪の森】内にて一人の小柄な少女、いや少年が息を切らせながら必死に足って居た。
───否、全力に逃げていた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!何でFランク指定《地下迷宮/ダンジョン》に《巨大魔猪/ビックボア》なんて居るんだよ!?Dランクだろあのモンスター!!?」
《召喚石/サモンストーン》にて召喚されるモンスターと契約を交わし召喚獣として使役する職業《召喚士》。《地下迷宮/ダンジョン》攻略を生業とし、彼の魔窟から万能資源【タトノス】の採取が主な仕事である。
現在Dランクモンスター《巨大魔猪/ビックボア》に追いかけられている少年もまた《召喚士》の一人だ。
「マジかよ!出口までまだ三キロはあるんだぞ!?このままじゃ逃げ切れねぇ!!」
本来、Fランク指定《地下迷宮/ダンジョン》では基本的に出現するモンスターの階級はFランクであり。階層ボスであっても精々がEランクだ。通常、Dランモンスターが出現することは無い。
しかし、極稀に《地下迷宮/ダンジョン》では指定階級よりも高ランクのモンスターが出現する事がある。イレギュラーエンカウントと呼ばれるそれは《召喚士》間では突然訪れる厄災とし扱われている。そして時和が今直面しているのがまさにイレギュラーエンカウント、《地下迷宮/ダンジョン》の悪意ある刺客であった。
「イレギュラーエンカウント!しかも初心者殺しの《巨大魔猪/ビックボア》とか俺に対する皮肉か馬鹿野郎!!」
悪態をつきながらも全力で足を動かしていた少年だが、森の中とはいえDランクモンスターの追跡から逃れる事は不可能。徐々にその距離を詰められ、遂に《巨大魔猪/ビックボア》の牙が時和を捕らえた。まさに絶体絶命のピンチである。
「ちくしょう!やるしかないか!背に腹は代えられない!死んだら元も子もなねぇ!いいぜ、やってやんよ!!」
目と鼻の先に迫る《巨大魔猪/ビックボア》相手に覚悟を決め、少年は腰のポーチから一つの鉱石を取り出す。時和はその鉱石を強く握りしめるとその鉱石は時和の魔力に当てられ発光し中心部に文様が浮かび上った。《召喚石/サモンストーン》、その鉱石は《召喚士》が自らの契約した《召喚獣》を召喚する為の触媒である。
「《召喚・女王魔蜘蛛/サモン・アラクネ》!!来い!ナクア!!」
《召喚石/サモンストーン》を媒介とし虚空に召喚陣が浮かび上がり、バチバチと魔力が迸る。荒れ狂う魔力の奔流が《巨大魔猪/ビックボア》の足を止めた。やがて膨大な魔力は召喚陣の中心部へと集約し、ソレは現れた。
黒髪と整った顔立ちは、まるで神が作ったのではなかいかと思う程に完成な美を体現している。そして身に纏う衣服は漆黒の着物、その道の匠が拵えたとしか思えない程の美しい反物で出来た極上の一品だ。
百人が百人振り向く絶世の美女の外見はその下半身により印象を一転させる。その下半身は禍々しいく瘴気を放つ大蜘蛛であり、八つの眼球を深紅に光らせ少年を見据えた。
「ブモォォォ!!」
膨大な魔力に当てられ一瞬動きを留めた《巨大魔猪/ビックボア》だったが、再度その巨体を疾走らせ強烈な突進を繰り出してくる。その突進は直撃すれば同格のDランクモンスターですら一撃で《消失/ロスト》してしまう程の威力を誇る。突然現れた謎の存在と先程から狙っていた獲物を仕留める為の全力の突進。しかし《巨大魔猪/ビックボア》の進撃はピタリと止まる。
「ブモォォォ!!」
目を凝らし《巨大魔猪/ビックボア》の身体をよく見ると、細い糸状のものが複数絡みついていた。《巨大魔猪/ビックボア》はこの糸から逃れる為にその巨体を必死に動かそうとする事がびくともしない。
ナクアと呼ばれた《女王魔蜘蛛/アラクネ》は少年の耳元で囁く様に呟いた。
「────あれ、殺す?」
ゴクリと少年は喉を鳴らし、静かに頷く。
「…………あぁ、頼む。やってくれナクア」
「────わかった」
緊張した面持ちの少年が指示を出すとナクアは滑らかな動きで糸に拘束された《巨大魔猪/ビックボア》に近付き、下半身の大蜘蛛が大口を開け《巨大魔猪/ビックボア》の喉笛を噛みちぎる。
「プキィィィィ!!」
喉笛を噛みちぎられた《巨大魔猪/ビックボア》は断末魔を上げ絶命した。その身体は粒子となって《地下迷宮/ダンジョン》に吸収され死骸は残らない。ボトリと《巨大魔猪/ビックボア》が消えた場所に手の平サイズの石が落ちた。それこそが少年が今回この《地下迷宮/ダンジョン》に訪れた目的。倒したモンスターのドロップする《召喚石/サモンストーン》である。
「…………あ」
ランクDのモンスターがドロップする《召喚石/サモンストーン》はかなり希少だ。名付けの行っていない《巨大魔猪/ビックボア》の《召喚石/サモンストーン》ならば市場で二百万は値がつくお宝である。本来ならば手放しで喜べる戦果なのだが、少年の顔色はよろしく無い。
「ちょ、待っ!」
少年は慌てて制止しようとしたが時すでに遅し。
「────パク」
ナクアは《巨大魔猪/ビックボア》の《召喚石/サモンストーン》を拾うと、そのまま口に放り込んだ。
「ちくしょう!ナクアまたやりやがったな!?何でそう高ランクの《召喚石/サモンストーン》だの【タトノス】だのを食べちゃうんだ!?せっかく《地下迷宮/ダンジョン》を攻略出来ても利益出ないじゃん!!」
「────他の強いモンスターなんて、要らない。トキワの召喚獣は、我だけで良い」
「じゃあ何で【タトノス】まで食べるんだよ?あれは召喚獣関係無いよね?」
「────【タトノス】は単純に美味しい」
「クッ!食欲か、ああもう、わかった。じゃあ【タトノス】は食って良いから、その代わり責めて《召喚石/サモンストーン》だけは食わないでくれよ」
「────駄目。我がトキワの、オンリーワン」
「もう!!わがままなんだから!!」
「────そもそも、トキワは強い召喚獣は持てないよ?あの猪さんも多分召喚出来ないと思うし」
「うっ!で、出来るかも知れないだろ!?」
「────無理。だってトキワ才能無いし」
「グハッ!ホントのこと言わないでよ!傷付くでしょ!」
「────我が居ないと、トキワは迷宮に満足に探索する事も出来ない。召喚士としての才能が無いから」
「俺だって、やれば出来らい!!」
「────でも、今日も結局我を召喚した。賭けは我の勝ち」
「ぐぬぬぬ!イ、イレギュラーエンカウントさえ無ければ何とかなったかもだし」
「────賭けは今日一日我を召喚しない事だった。つまり我の勝ち」
「ちくしょう!!」
そう、何故《巨大魔猪/ビックボア》を一蹴する事が出来る程の召喚獣を使役しているにも関わらず、少年がビンチに陥ってナクアと呼ばれる《女王魔蜘蛛/アラクネ》の召喚を頑なに渋っていたかと言うと。少年と彼女の間で『少年はナクアを使わずにFランク指定の《地下迷宮/ダンジョン》を攻略出来るかどうか〉の賭けをしていたからである。
出来れば少年にはちゃんとした《召喚士》の才能が有り、ナクアはその事実を受け止め少年の言う事をちゃんと聞く。しかし、出来なければナクアだよりの無才能のなんちゃって《召喚士》と言う事なので、ナクアの言い分をちゃんと聞くこと。
結果としてナクアを召喚してしまった少年は賭けに負けてしまったのでナクアの言い分を聞かなくてはならなくなったのだ。
「途中まで順調だったのに付いてねぇ!なぁ、ナクア。どうしても駄目か?」
「─────駄目。そもそもEランクやFランクの召喚石だけでも利益は出る筈。トキワは無駄遣いしすぎ。もっと質素に生きるべき。才能無いんだから」
「そうやって、才能無い無い連呼しないでもらえます!?」
ナクアは素知らぬ顔で少年の頭をポンポンと撫でる。
「────トキワ、ドンマイ」
「やめて!憐れみの目でおれをみないで!?」
ギャアギャアと騒ぎながら一人と一体がその場を去った。
先程までの騒動が嘘のように静かになった《地下迷宮/ダンジョン》は、再び次なる獲物を静かに待ち受ける。獲物は彼等だけでは無いのだから。
これは身の丈に合わないモンスターと契約を交わした《召喚士》の少年春薪時和と、彼の召喚獣である《女王魔蜘蛛/アラクネ》のナクアが送る《地下迷宮/ダンジョン》クロニクルである。
人外ヒロインって良いですよね?金林檎は大好きです。
ナクアちゃんはこの物語のメインヒロインなのですが、《女王魔蜘蛛/アラクネ》は単為生殖の為、時和くんの事はメッチャ好きですが恋愛感情は有りません。
そっち方面での人間ヒロインを出す予定では有りますが、登場はしばらく先の話なので気長にお待ち下さい。
続きを読んであげても良いかな?と思ってくれた心優しい読者様が居りましたら次回をお楽しみに。




