8話 墓標
◇ 墓標 ◇
宮田浩二が熱を出したのは、転移から十四日目のことだった。
もともと体が細く、体力に自信がなかった。食料が少ない中で体力を消耗していたのは全員同じだったが、宮田には余力がなかった。朝、起き上がれなかった。額に手を当てると、はっきりわかるほど熱かった。
「感染症か、食中毒か、疲弊による発熱か」と橘彩が言った。「判断できない。薬もない」
「熱を下げる方法は」と先生が聞いた。
「冷やす。水分を補給する。それだけだ」
川の水を濡らした布に含ませて額に当てた。水を口に含ませた。宮田は意識があり、少し話せた。「重くてすみません」と言った。
「謝るな」と誠が言った。
「でも、みんなが待たせることに……」
「待てる」と誠が言った。「今日は動かない」
実際には、待てる状況ではないことは誠もわかっていた。食料が尽きかけていた。水は川がある間はいいが、川から離れれば別の話になる。一日止まることのコストは大きかった。
それでも、動かなかった。誠だけでなく、全員が自然にそうした。誰も「先に進むべきだ」と言わなかった。
宮田の熱は二日目に上がり、三日目に少し引いた。
誠は「もしかすると」と思い始めていた。
四日目の朝、宮田は動かなかった。
眠っているのと違った。顔の色が違った。胸が動いていなかった。
木村が「宮田」と呼んだ。返事がなかった。もう一度呼んだ。
その後のことはあまり覚えていない。誰かが泣いた。何人かが外に出た。先生がしゃがんで宮田の手首を確認して、立ち上がった。
四十人が、三十九人になった瞬間だった。
墓は草原の端に掘った。道具がなかったので手で掘った。全員で交代しながら掘った。深くは掘れなかったが、それでも宮田が入る大きさにはなった。
名前を木の棒に刻んだ。削り出すナイフがなかったので、石で引っ掻いて刻んだ。「宮田浩二」と書いた。読めるかどうか怪しかったが、誰かが言った通り「読めなくても意味がある」。
全員が黙って立った。先生が何か言おうとして、止まった。何も言えなかった。
誠も何も言えなかった。
宮田は存在感が薄かった。恥ずかしながら誠は、この転移の中で宮田とほとんど話したことがなかった。名前は知っていたが、どんな声をしているか、何が好きかは知らなかった。
それが今になって、とても重くなった。
夜、木村が隣に来た。「宮田って、何部だったっけ」と木村が言った。
「知らない」
「俺も知らない。同じクラスなのに」
誰も答えなかった。
翌朝、出発した。墓標が草原に残った。
歩きながら、誠は振り返らなかった。振り返ったら、何かが崩れる気がした。




