6話 旅人
◇ 旅人 ◇
七日目の午後、道らしきものを見つけた。
獣道より少し広く、轍の跡があった。車輪が通った跡だ、と橘が言った。「これを辿れば人の住む場所に出るはずだ」
先生が方角を確認して、東に向かうことにした。
二時間歩いたとき、向こうから荷車が来た。
馬に似た生き物が引いていた。完全に馬ではなかった。首が長すぎた。毛の色も橙に近かった。荷台に大きな箱が積まれていた。御者台に老人が一人いた。
老人は遠くから四十人の集団を見て、止まった。止まった理由が逃げるためか待つためかわからなかったが、その後もしばらく来なかった。先生が手を振った。老人は動かなかった。
「俺が行ってきます」と藤堂が言った。
「ちょっと待て」と誠が言った。
「何が」
「向こうがどういう人間かわからない。その前に橘、スマートフォンの翻訳機能は使えるか」
「電波がないから無理」と橘が言った。
「言葉が通じるかもわからないのか」
沈黙があった。
「……行ってきます」と藤堂がもう一度言った。今度は誰も止めなかった。
結果として、老人には言葉が通じた。
完全に同じ言葉ではなかったが、七割程度は理解できた。老人は行商人で、この道を使って東の都市と西の村々を往来していた。
老人の反応を観察していた誠は、一つのことに気づいた。老人は四十人を見たとき、驚きの中に別の感情があった。それは恐怖ではなく——値踏みに近かった。
行商人の話で、いくつかのことがわかった。
この世界の名前はヴァルナ。転移者は稀にいる。過去に来た者たちは今もいくつかの都市にいる——奴隷として。
「奴隷」という言葉が出たとき、先生が「それはどういう意味だ」と聞いた。
老人は表情を変えずに説明した。この世界には異世界から来た人間を強制労働に使う制度がある。国によって違うが、都市部では当たり前の取引だという。
「私はそういう商売はしないが」と老人は付け加えた。「街に行けば必ずそういう話が来る。特に若い人間は高値がつく」
全員が黙った。
先生が「過去の転移者たちは今も生きているのか」と聞いた。老人は「さあ」と言った。「長く生きる者もいれば、すぐに使い潰される者もいる。あなた方の故郷に戻る方法は、私は知らない。誰かが知っているとすれば、古い神殿の神官だろうが、神官が正しいことを言うかどうかも怪しいものだ」
行商人は去った。荷車の音が遠くなった。
四十人が草原の道に立っていた。誰も言葉を出せなかった。
最初に口を開いたのは木村だった。「奴隷って、つまり、俺たちが都市に行ったら捕まえられるってこと?」
「可能性がある」と橘が言った。
「じゃあ都市に行けないじゃないか」と誰かが言った。
「でも食料がない」と別の誰かが言った。
「落ち着け」と藤堂が言った。「わかったのは情報だけだ。今すぐどうこうなるわけじゃない。都市に近づきながら様子を見る。それだけだ」
誰かが安堵したような息をついた。藤堂の言葉が一番「まとも」に聞こえたからだった。
誠は何も言わなかった。
行商人の目が気になっていた。値踏みするような目。「高値がつく」という言葉の、何の感情も乗っていない言い方。
この世界において、自分たちは人間として認識されているが、人間として扱われるかどうかは別の話だ。
空に二つ目の太陽が沈んでいった。




