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5話 亀裂

◇ 亀裂 ◇


廃村から四日が経っていた。


食料は初日に見つけた豆類が尽きて、あとは草原で見つけた実に似た何かと、川沿いで捕まえた小さな魚だけだった。実は当たり外れがあった。橘が「食べられる」「食べられない」の簡単な判別ルールを決めたが、それでも誰かが腹を痛めるたびに全員の不安が増した。


魚は一日に全員分が取れるほど取れなかった。


「今日取れたのは十二匹」と藤堂が言った。川沿いでの漁を仕切っていたのは藤堂グループだった。「三十八人分にはならない。分配をどうするか話し合う必要がある」


「平等に分けるべきだ」と誠が言った。


「でも体が大きい人間の方が必要なカロリーが多い」と藤堂が言った。「効率を考えるなら、戦闘力になれる人間が優先されるべきだ。移動でも荷物持ちでも、体力がある人間が動けなくなったら全体が死ぬ」


その論理は間違っていなかった。だから誠は一瞬、詰まった。


「でも弱い人間が死んでもいいという話にはならない」と橘彩が言った。手を上げずに、ただ言った。「今は全員が必要だ。役割は体格じゃない。私は体は小さいが地図と食料の管理をしている。渡辺は足首を痛めているが、昨日赤ちゃんのことを泣いていた宇田川を落ち着かせたのは渡辺だ。それを数値化できる?」


沈黙があった。


「平等に分ける」と松本先生が言った。「一人でも欠けたら全体が傷つく。それが今の俺たちだ」


藤堂は何も言わなかった。


魚は三十八人——渡辺の怪我は引いていたが、中島の腕の化膿はまだ続いていた——に等分された。一人三分の一匹程度だった。食べた気がしなかった。


夜、誠が焚き火のそばで座っていると、近くで声が聞こえた。


藤堂と、その周りの五、六人だった。声を落としていたが、夜の静けさの中では筒抜けだった。


「先生は現実を見えていない」と藤堂が言っていた。「平等分配なんて、物が足りているときの話だ。これから本格的に物が不足したとき、全員を養えると思ってるのか」


「でも藤堂、あんまり露骨にやると——」


「露骨にはやらない。少しずつだ」


誠は立ち上がって、藤堂たちから離れた。


木村が後ろからついてきた。「聞こえた?」と小声で聞いた。


「うん」


「どうする?」


「今は何もしない」


「なんで」


「動く理由が今はない」と誠は言った。「藤堂が実際に何かをしたら話は変わる。でも発言だけで動くと——俺たちが分断を煽っているように見える」


「……それって、正しいのかな」


「わからない」と誠は正直に言った。「でも今俺たちができることの中で、一番マシだと思う」


木村は黙って歩いた。


翌日の朝、食料の配布時、誠は藤堂グループの受け取る量を目で確認した。等分だった。昨夜の話を聞いていなければ、何も疑わなかった。


何も変わっていなかった。


それが、かえって不安だった。


(第5話 完)

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文字数: 約1200字


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