4話 初陣
◇ 初陣 ◇
三日目の夕暮れ時だった。
廃村の外れを探索していた班が戻ってこなかった。
予定より三十分遅かった。先生が「待つ」と言い、藤堂が「探しに行く」と言い、言い合いになりかけたとき、草原の向こうから走ってくる人影が見えた。
「来る、何か来る!」
金子の声だった。陸上部で足が速い。後ろを振り返りながら走っていた。後ろには別の班の三人も続いていた。その向こうに——
草が揺れた。大きなものが来る揺れ方だった。
先生が「全員建物の中に」と叫んだ。
誠は動けなかった。一瞬だけ、動けなかった。
草の向こうから出てきたのは、犬に似た生き物だった。犬よりひとまわり大きかった。体毛が灰色で、頭が妙に平たく、目が四つあった。二つが正面向きで、二つが横についていた。四つの目が黄色く光っていた。
一匹ではなかった。
草の揺れが三か所あった。少なくとも三匹。
「田中!」
木村の声で我に返った。走った。
建物に飛び込むと同時に、後ろで何かが鳴いた。金属が擦れるような、高い鳴き声だった。
建物の中に全員が押し込まれていた。ドアが閉まった。
「怪我は!」と先生が叫んだ。
班の三人のうち一人、中島の腕に引っ掻き傷があった。深くはなかったが、血が出ていた。もう一人、前田が足首を押さえていた。転んで捻ったらしかった。
外から音がした。建物の周囲を何かが歩き回っている音。爪が土を引っ掻く音。鼻を鳴らすような音。
誰かが小声で「どうするの」と言った。誰も答えなかった。
藤堂が壁際に立てかけてあった錆びた農具を手に取った。「追い払う」と言った。
「待て」と先生が言った。「数がわからない。出るのは危険だ」
「中にいたら飢え死にするだけだ」
「今夜だけ様子を見る」
「今夜中に腹に入ってくるかもしれない」
先生は黙った。また、答えを探している沈黙だった。
誠は建物の窓から外を見た。小さな窓で、格子代わりの木が横に渡されていた。隙間から外が見えた。生き物の影が一つ見えた。座っていた。待っているように見えた。
夜になって音が遠くなった。深夜、先生が「もう離れたかもしれない」と言い、藤堂が「確認してくる」と言い、三人連れで外に出た。五分後、戻ってきて「いなかった」と言った。
朝まで全員で固まって寝た。
翌朝、建物の周囲に爪の跡が残っていた。土の上に点々と。建物をぐるりと一周していた。
「追いかけてきたのは、俺たちを食おうとしてたから?」と木村が言った。
「縄張りに入ったから追い払おうとしたのか、捕食対象として認識したのか、どっちかわからない」と誠が言った。「でも、あの爪の跡を見ると——」
「追ってきてる」と橘彩が言った。地面の跡を見ながら、静かな声で。
中島の引っ掻き傷は、夜の間に化膿が始まっていた。廃村で見つけた布切れで巻いたが、消毒ができなかった。熱を持っていた。本人は「大丈夫」と言っていたが、顔色がよくなかった。
「早く動かないといけない」と橘が言った。先生に向けてではなく、全体に向けて。「怪我人が増えた。食料は今日か明日で尽きる。ここにいても状況は悪くなる一方だ」
先生が頷いた。「動く。今日の午前中に出る」
誰も反論しなかった。
廃村を出るとき、誠は骨が見つかった建物を最後に振り返った。
これから先にいくつの骨が増えるか、考えてみたが、途中でやめた。




