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3話 廃村

◇ 廃村 ◇


廃村の探索を本格的に始めたのは二日目の朝だった。


建物は全部で十四棟。うち四棟は屋根ごと崩落していて入れなかった。残り十棟を班に分けて調べた。


誠は木村と橘彩の三人で動いた。橘が率先してリストを作っていた。スマートフォンのメモ帳に、何が見つかったかを記録していく。電波がなくてもメモは使えた。


「これ、何の小屋だろう」


木村が開けたドアの奥に、錆びた農具が並んでいた。形は鍬に近かったが、刃の部分が異様に大きかった。土の質が違うのか、それとも別の作物を育てていたのか。


「記録だけしておく」と橘が言った。「使えるかは後で判断」


「この鍬、武器になるかな」と木村が言った。


「なると思う」と誠が答えた。「ただ錆びてる。振ったら折れるかもしれない」


「武器ね」と橘が言った。手を止めずにメモを続けながら。「そういう発想がすでに出てくるのが、この場所の現実だよね」


誠は何も言わなかった。


建物の奥、床板が腐って踏み抜けそうな部分を避けながら進むと、隅に陶製の壺があった。蓋がしてあった。中身を慎重に確認すると、小豆に似た豆が入っていた。腐っていなかった。匂いも問題なさそうだった。


「食えるかな」と木村が言った。


「わからない」と橘が答えた。「火を通さないと食えないだろうし、そもそもこの世界の食べ物が人間に合うかどうかも」


「でも食いたい」


「気持ちはわかる」


結局、壺ごと持ち出した。先生に見せて判断を仰ぐことにした。


別の建物で、骨を見つけた。


最初に気づいたのは木村だった。「これって……」と言いかけて止まった。


床の隅に、小さな骨が散らばっていた。動物のものかもしれなかった。だが形が、どう見ても人間に近かった。頭蓋骨らしきものが半分、土に埋まっていた。


三人で黙って見ていた。誰も何も言わなかった。


「……記録しておく」と橘が言った。声が少し低かった。


「誰が死んだんだろう」と木村がつぶやいた。


「わからない」と誠が言った。「でも、ここに人が住んでいたのは本当だ」


「死んで、誰にも回収されなかった」


「そうかもしれない」


木村が外に出た。誠と橘もついて出た。外の光の中で、木村の顔が少し青かった。誠も平気ではなかったが、表には出さなかった。


全班の探索が終わって、成果を集めた。


豆に似た食べ物が二種類。錆びた刃物が四点。縄が一束。毛布に似た織物が三枚(破れていたが使えた)。火打ち石と思われる道具一点。


食料として使えそうなものは豆類のみ、量は多くなかった。全員に分ければ一食に満たなかった。


「火は起こせる」と先生が言った。「豆を煮る。毒かどうかは……少量ずつ試すしかない」


「最初に食べる役は俺がやります」と藤堂が言った。臆することなく、当然のように。周りの何人かが「さすが」というような表情をした。


誠は黙っていた。それが藤堂のやり方だと理解していた。リスクを買うことで信頼を積む。合理的だった。


豆は茹でると柔らかくなった。藤堂が食べ、一時間経って問題がなかったので全員に少量ずつ配った。塩もなく、何の味もしなかったが、それでも何人かが泣きながら食べていた。


夕方、誠は廃村の外れに一人で座っていた。骨のことを考えていた。


骨の主が誰だったのか、なぜここに残されたのかはわからない。だが、この世界には「ここで死んで、誰にも知られない」という終わり方がある。それが現実としてあると、今日わかった。


草原に風が吹いた。草が波のように揺れた。


誠の背後で、足音がした。振り返ると橘彩だった。


「何か考えてた?」と橘が聞いた。


「骨の話」


「私も」橘は隣に座った。「この世界に転移してきた人間が、過去にもいたってこと、かな、と思って」


「かもしれない」


「だとしたら、全員死んでる」


「そうとは限らない」


「でも少なくとも、あそこで死んだ人間はいる」


二人は黙って草原を見た。遠くで何かが鳴いた。昨夜と同じ鳴き声だった。夜行性の何かなのかもしれなかった。


「帰れると思う?」と橘が言った。誠に向けた言葉ではなく、空に向けた言葉のように聞こえた。


誠は答えなかった。


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