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2話 頭数

◇ 頭数 ◇


朝が来た。


二つ目の太陽が地平線から顔を出すのが先で、それを合図にしたように鳥の声が草原に満ちた。知らない鳥の声だった。高く、少し不快な音域だった。


誠は夜通し眠れなかった。横になったまま空が明るくなるのを見ていた。隣では木村が小さく寝息を立てていた。あいつはよく眠れたな、と思いながら、誠は立ち上がった。


全員が起きていた。いや、正確には全員が「眠れなかった」だった。膝を抱えて座っている者。ぼうっと草原を眺めている者。スマートフォンを手に持ったまま画面をつけたり消したりしている者。どの顔も、昨夜より年を取って見えた。


松本先生が中央に立った。「状況を整理する」


声は落ち着いていた。努力の落ち着きだと誠には見えたが、それでも声が出るだけ大したものだと思った。


「まず、全員の状態を確認する。渡辺は昨夜どうだったか」


「……痛みはあります。でも歩けないほどではないかもしれません」と渡辺雪菜が言った。腫れている足首を恐る恐る地面につけて、立った。顔が歪んだがなんとか立てた。支えがあれば歩ける、という判断になった。


捻挫の三人の他、夜の間に腕の擦り傷が悪化した者が一人、腹を下した者が二人いた。川の水が合わなかったのかもしれなかった。


「食料がない」と橘彩が言った。手を上げる形式ではなく、ただ事実として言った。「水はあるが食料はゼロだ。昨日の昼から何も食べていない。今日どうするか決めないと」


先生が頷いた。「草原の外に人の住んでいる場所があるはずだ。移動して食料を確保する」


「どっちに進むんですか」と誰かが言った。先生は少し黙った。


「……太陽の位置から東西南北を割り出す。二つある太陽のうち大きい方を基準にする」


それを聞いて、藤堂龍一が鼻を鳴らした。声ではなく、わずかな息の音だったが、近くにいた数人には聞こえた。


誠は藤堂を見た。柔道部の主将で、身長は誠より頭一つ分高い。昨夜から、藤堂の周りには自然と人が集まっていた。体格のいい男子が三人、女子が二人。みんな先生より藤堂に近い場所に座っていた。


「先生に提案があります」と藤堂が言った。今度はちゃんと手を上げた。「探索を先にした方がいいと思います。一か所にかたまって動くより、数人ずつ手分けして周囲を見てくる方が効率的だ」


「危険だ。分散すると何かあったときに対応できない」


「全員でかたまって動いても、この草原じゃどこに何があるかわからない。探索班を三つに分けて半径五百メートルを見てくる。先生、それの何がダメなんですか」


先生は一瞬、答えを探した。誠にはそれが見えた。


「……わかった。ただし、必ずグループで行動する。一人行動は禁止だ」


藤堂が小さく笑った。勝ったと思ったからではない——と思いたかったが、どうだったかわからない。


探索の結果、二時間後に廃村が見つかった。草原の中に、古い木造の建物が十数棟。屋根が落ちているものもあったが、外壁が残っているものもあった。誰かが「最高だ」と言い、誰かが「廃村じゃないか」と言った。


食料の収穫は乏しかった。腐った貯蔵品が数点、使えそうな道具が若干。まともに食えるものは何もなかった。


「今日中にここを出る方がいい」と橘が言った。「食料がここにはない」


「でも雨風はしのげる」と別の誰かが言った。


「一泊だけ、させてくれ」と松本先生が言った。疲弊した声だった。「昨夜、ほとんど眠れていない者が多い。今夜は屋根の下で休む。明日の朝、本格的に動く」


誰も反論しなかった。


誠も反論しなかった。先生の言うことは正しかった。疲弊したまま動けば判断が鈍る。それはわかっていた。


ただ——腹が減っていた。昼から何も食べていない。午後の空腹は夕方になるにつれて本物の痛みに変わっていた。夜になると、泣く声が一つ、二つ聞こえた。腹が減って泣いているのか、家が恋しくて泣いているのか、どちらともつかなかった。


誠は廃村の建物の壁に背を預けて座りながら、腹の上に手を置いた。


腸が鳴った。


木村が隣に座ってきた。「なんか、食えるもの、草の中にあったりしないかな」


「食べられる草かどうか判断できない」


「そうだよな」木村がため息をついた。「誠ってさ、冷静だよな。俺、正直ちょっとパニックになってる」


「なってないように見えるけど」


「演じてる」と木村が言った。笑っていたが、目は笑っていなかった。


その夜は雨が降った。外壁の残っている建物に詰め込まれた四十人の中で、誠は目を閉じて、明日、食料が見つかるかどうかを考えていた。


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