37話 北へ
◇ 北へ ◇
山道は最初から険しかった。
平地で見ていたときの稜線の穏やかさは嘘だった。道は細く、岩が多く、落ち葉で滑りやすかった。傾斜は上がり続けた。
一時間歩くと汗をかき、その後に冷えた。高度のせいで気温が下がっていた。
藤堂が山道では先頭に立った。誰も言わないが自然にそうなった。体力と判断力が必要な場面で、藤堂が動いた。誠はそれを後ろで見て、止める必要がなければ口を出さなかった。
二日目に松本先生が転んだ。
大きな怪我ではなかった。膝を打ったが、骨ではなかった。ただ立つのに手を借りた。先生が「すまない」と言った。
「謝らなくていい」と誠が言った。「歩けるか」
「歩ける」と先生が言った。
加藤が先生の荷物を引き受けた。誰も何も言わなかった。分担した。それだけだった。
三日目に雲が出た。
「天候が変わるかもしれない」と橘が言った。空の色が昨日と違った。「急ぐか、どこかで止まるか」
「急ぐ」と誠が言った。「止まれる場所がない。道を外れるな、という言葉も引っかかる」
「理解した」と橘が言った。
その日は長く歩いた。昼飯を止まらずに歩きながら取った。日が落ちかけたとき、岩の窪みに全員を押し込んで野営した。
夜中に雨が来た。ただの雨ではなく、横から叩きつける雨だった。火が起こせなかった。全員が体を寄せ合って朝まで耐えた。
韓国グループのユンが、何か言いながら自分の上着を先生に渡した。先生が受け取った。橘が礼を言う代わりにユンの腕の傷に巻いていた布を取り替えた。言葉はなかったが、何かが伝わっていた。
四日目の朝、雨が止んでいた。空気が鋭く冷えていた。
霧が出ていた。道が見えにくかった。
藤堂が先頭で足元を確かめながら歩いた。誠が後ろで全員の状態を確認しながら続いた。
午後、霧が晴れた。
前方に、建物の輪郭が見えた。
大きな石造りだった。廃墟のように見えたが、窓に光があった。
全員が立ち止まった。
「神殿だ」と誰かが言った。
誰も走らなかった。
ゆっくりと、全員で近づいた。




