33話 二つの理由
◇ 二つの理由 ◇
北への道は、最初の三日間は平坦だった。
農地が続き、村が点在していた。転移者への視線はルヴェニアより素朴だった——見たことがないものを見る目だった。敵意より好奇心に近かった。
木村が時々、韓国グループの通訳をした。完全に通じていないが、何とかなっていた。誠はそれを見て、木村が四人とどうやってここまで来たかを少し理解した。器用だった。いつもそうだった。
四日目、道が徐々に上がり始めた。山が見えてきた。
遠くから見ると穏やかな稜線だったが、近づくと樹木が密になった。道が細くなった。
「山の入口の集落まであと一日」と誠が全員に伝えた。「そこで一泊して補給する。その後、山越えは三日から五日かかる。天候が変わる前に越えたい」
橘が「食料の計算は」と聞いた。
「集落で補給する。山中は狩猟が難しい。保存食を最大限持ちたい」
韓国グループのリーダー格の男——ユンという名前だと木村が教えてくれた——が何か言った。木村が訳した。「山越えは経験があるかと聞いている」
「ない」と誠が言った。「でも北の行商人から聞いた道がある。ルートは把握している」
ユンが何か言った。木村が「わかった、信用する、と言ってる」と訳した。
信用すると言われたことが、妙に重かった。
その夜、野営の焚き火のそばで橘が帳簿のような紙を広げていた。現地で買った粗末な紙に、文字と数字を書いていた。
「何の計算だ」と誠が聞いた。
「全員分の食料と体力の見立て。誰がどこで限界になりそうか」
「誰が限界になりそうか」
橘が少し間を置いた。「先生が山中で厳しくなるかもしれない。加藤も腕の状態次第」と言った。「ただの可能性の話だ。確認しておきたかっただけ」
「お前は」と誠が聞いた。
「私は大丈夫」と橘が言った。迷いのない言い方だった。
「自信があるな」
「体より頭が先に折れるタイプだから。頭が折れなければ体は動く」
誠はそれを聞いて、少し考えた。「俺は逆かもしれない」と言った。「体より先に頭が動くから、体が限界になっても気づかない可能性がある」
橘が「それは田中の弱点だね」と言った。
「うん」
「だから私が見ている」と橘が言った。ただの事実を言うような口調だった。
焚き火が爆ぜた。
空に雲が少なかった。見知らぬ星が、少しずつ多く見えるようになっていた。




