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32話 価格

◇ 価格 ◇


出発前日、木村に声をかけた。


市場近くの路地で待ち合わせた。木村は時間通りに来た。一人だった。


「北に行く」と誠が言った。「帰還の手段があるかもしれない。一緒に来るかどうかは、お前が決めていい」


木村がすぐに答えなかった。珍しかった。いつもの木村はもう少し早く言葉を出した。


「韓国のグループはどうする」と木村が聞いた。


「連れてくるかどうかも、お前が決める話だ」


「……俺は」と木村が言った。「正直に言うと、一人で行くのが怖い。でも田中のグループに混ぜてもらえる立場かどうかもわからない」


「判断するのは俺じゃない」と誠が言った。「お前のグループの四人に、北の話をしてみてくれ。来たいなら全員来い。それだけだ」


木村が誠を見た。「なんでそこまで」と言った。


「韓国のグループが来るとして、何が問題か」と誠が言った。「言葉が半分通じるなら、動けないほどじゃない。人数は多い方が山越えには有利だ。理屈として、そうなる」


木村が少し笑った。「田中はそういう言い方をするな、昔から」


「どういう意味だ」


「感情じゃなくて理屈で話す。でもその理屈の裏に感情がある」


誠は何も言わなかった。否定も肯定もしなかった。


翌朝、木村が四人を連れて区画の入口に現れた。


合計二十人になった。田中グループ十四、木村の四人(韓国グループ)、木村の計五人。浜田は来なかった。予想通りだった。


出発の前に松本先生が全員を前に立った。


「私は今回、田中に判断を任せている」と先生が言った。「みんなも同じようにしてほしい。私がそれを言えるのは、田中が信頼できると判断したからだ。一人の大人として、それだけは伝えておきたい」


韓国グループの四人は言葉が半分しかわからなかったが、先生の言葉の「田中」という名前と、先生が誠を見る目で意味を取ったらしかった。一人が誠に小さく頷いた。


誠は先生を見た。


先生が「頼むよ」と口の動きで言った。声は出さなかった。


誠は頷いた。


ルヴェニアの北の門を出た。


二十人の行列が、北に向かって歩き始めた。



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